血液白血球除去技術の臨床評価:前方視的検討

文献情報

文献番号
200100994A
報告書区分
総括
研究課題名
血液白血球除去技術の臨床評価:前方視的検討
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
半田 誠(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学)
  • 佐竹正博(東京都赤十字血液センター)
  • 田崎哲典(岩手医科大学)
  • 大戸斉(福島県立医科大学)
  • 前田平生(埼玉医科大学川越総合医療センター)
  • 浅井隆善(千葉大学)
  • 比留間潔(都立駒込病院)
  • 田野崎隆二(国立ガンセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
普遍的(保存前)白血球除去の導入が世界的に一般化しているが、我が国では未だこの安全技術導入の是非をめぐる集学的な取り組みがなされていない。この大きな理由として、1)白血球除去血液の浸透度、とくにフィルターによるベッドサイドでの白血球除去の現状、などの実態が明らかにされていないこと、2)その根拠となる我が国独自の科学的臨床データが欠如していること、があげられる。とくに、同種血輸血の癌再発促進や術後感染症増加などの輸血関連免疫変調作用に対する予防効果は、医療経済的にも大きなインパクトをもたらし、製造レベル(保存前)での普遍的白血球除去政策の推進力となっている。そこで、白血球除去血液の臨床効果を検証するための臨床研究の立ち上げを行う目的で、まず手始めにその実態調査(白血球除去フィルターの浸透度、市場規模)を行った。そして、この基礎資料に基づき、白血球除去血液の輸血関連免疫変調作用に対する役割を検討する多施設共同パイロット試験を企画した。また、即時型輸血副作用の現状とそれに対する白血球除去血液の予防効果について、報告システムの構築がなされた施設での分析を行った。
研究方法
1. 白血球除去血液製剤の使用の現状調査:各臨床施設での実態調査を行った。とくに、外科手術時の赤血球製剤の使用状況と白血球除去フィルター使用の現状について、平成13年度の3ヶ月間に行われた手術症例における周術期(術前・術後一週間以内)赤血球製剤の使用状況と白血球除去フィルターの浸透率を調査した。2. 即時型副作用の発現状況と白血球除去フィルタ使用との関連調査:平成13年一年間に、臨床施設で収集された輸血24時間以内に起こった即時型輸血副作用を分析し、白血球除去フィルター使用との関連を調査した。また、日本赤十字社医薬情報部にて収集された副作用報告に基づいた同様の分析を行った。3. 臨床プロトコールの設定:外科手術時の赤血球製剤の使用状況調査結果に基づき、外科手術時の輸血に伴った免疫変調作用の解析を目的とした多施設共同臨床プロトコールの立ち上げを行った。その際、担当臨床科へのアンケート調査を実施して、プロトコールのfeasibilityを検証した。
結果と考察
1.白血球除去血液製剤の使用の現状調査:平成13年一年間の慶應義塾大学病院での調査では、赤血球製剤(全血とMAP)では81%に、ベッドサイド白血球除去フィルターが使用され、日赤白血球除去製剤(保存後ろ過)は、わずか全赤血球製剤の5%に満たなかった。一方、血小板製剤は91%でベッドサイドフィルターが使用されていた。ベッドサイド白血球除去フィルターは頻回輸血患者への適応が許可されてため、血液疾患などの内科系疾患への使用が多くを占める血小板では、他の施設でも例外なく高率にフィルターが使用されていた。一方、単回輸血が主である外科系、とくに手術時の輸血に関しては、フィルター使用率は施設によりまちまちである(慶應大では77%、国立ガンセンター、千葉、福島、岩手などではほぼ0%)。赤血球に関しては、フィルター使用率は38.9%、血小板では80.7%であった。使用率は疾患や関連臨床科によりまちまちであるが、大きな決定力は保険査定の地域差であることが判明した。また、白血球除去フィルター不使用の赤血球輸血では微小凝集塊除去フィルターが代わりとしてかなり普遍的に使用されていることが明らかとなった(福島県医大)。メーカーの販売量からの推定では(東京医科歯科大)、赤血球用フィルターの
浸透率は40.2%、血小板は86.4%であった。この値は各臨床施設でのデータとほぼ一致するものであり、我が国でのフィルター普及率は赤血球で4割、血小板で8割と推定された。また、微小凝集塊除去フィルターは、16万個が販売されており(赤血球フィルターは74万個)、少なくとも赤血球輸血の1割で使われ、白血球除去目的(除去率は90-99%)での使用が一部では行われている可能性が推定できた。以上のことから、我が国での白血球除去の現状では、血小板に関しては、ほぼ標準であること、一方、赤血球に関しては内科系の頻回輸血患者のみにこの安全技術が享受されていることになる。したがって、少なくとも、医療経済的に見ても、血小板製剤には普遍的白血球除去を適用することに何ら障碍はないであろう。さらに、血小板製剤の少なくとも半分近くは高性能成分採血装置により作製され、フィルターなしで白血球除去レベルが達成されている。現状では、この製剤も再びベッドサイドでもう一度フィルターろ過がなされているわけで、無駄を省く意味からも保存前白血球除去の導入が推奨されよう。2. 即時型副作用の発現状況と白血球除去フィルタ使用との関連調査:副作用報告システムが構築されている施設(埼玉、千葉、慶應)での年間の即時型副作用発生率は0.6-2.4%(24,432件の輸血で396件の副作用)で、各施設同じレベルであった。副作用の内容では、蕁麻疹などのアレルギー反応が6割以上を占め、発熱反応が残りの大部分で、呼吸困難、ショック、アナフィラキシーなどの重症例は数えるほどであった。赤血球MAPと血小板に限っての、フィルター使用、不使用での副作用発現頻度は、赤血球ではそれぞれ50件/5,096件=1.0%、14件/1,249件=1.1%と差はなかった。血小板はそれぞれ224件/4,596件=4.9%、10件/552件=1.8%で、フィルター群で3倍近く発生率が高かった。フィルターの使用が副作用の原因というより、むしろ、フィルター群では副作用の既往歴がより濃厚であるなど患者の偏りがみられる可能性が指摘できた。平成12年、全国の血液センターで収集された副作用の日本赤十字社による解析結果でも、白血球除去フィルターと副作用発現の関連に関して、明確な結論は得られなかった。興味有ることには、発熱反応を認めた例ではより高率に抗HLA抗体が陽性であった。そして、血小板輸血では発熱反応を起こした群でフィルター使用の割合が低かった。フィルターが普及してから10年以上が経過しているが、HLA適合血小板の供給量(比率)は減少していない。フィルターの臨床効果として欧米で科学的に検証されている1)抗HLA同種免疫の予防、2)非溶血性発熱反応の予防に関して、今回の調査では、明らかにそれを支持する結果は得られなかった。これは、ベッドサイドフィルター(保存後白血球除去)の限界を示している可能性があり、保存前白血球除去の優位性を検証する必要性を意味している。より厳密な臨床研究が必要であるが、保存期間が短く、また血小板では成分製剤が大部分である我が国の血液製剤の性質にも、この結果は影響されているかもしれない。3. 臨床プロトコールの作成:手術時の輸血の実態調査により、肝臓や消化管あるいは膀胱や子宮などの悪性腫瘍、骨・関節外科、そして大動脈瘤やCABGなどの心臓・血管外科疾患において輸血を併用する頻度が高いことが示された。そこで、輸血に伴った免疫変調作用として術後感染症を対象に、術式や術者など影響因子が可及的に少なく、かつ例数の多い対象疾患として大腸癌(結腸、直腸)を選択した。6施設の3ヶ月での大腸癌輸血併用症例数は48人で、担当外科医へのアンケート調査により、術後感染症の発現頻度は10-25%であった。そこで、共通プロトコールを作成し、各施設で、倫理委員会ならびに関連臨床科の合意を得ることで、順次臨床研究を開始することとした。また、サブプロトコールとして、輸血前後での患者検体の抗HLA抗体を測定することで、単回輸血によるHLA同種免疫の発現頻度を明らかにして、それに対する白血球除去技術の臨床効果を検討することとなった。輸血に伴った免疫変調作用として大腸癌術後感染症を対象にした大規模臨床研
究は欧米ですでにいくつか行われている。しかしながら、白血球除去技術の臨床効果に関しては未だに明確な結論に至っていない。その大きな理由は、多くの諸因子の影響が、白血球除去の影響を大きく上回っていることである。この点を考慮して、今回の臨床研究では、中間期に検討を加えることで、最終的な研究の継続・完遂の是非を決定することとした。
結論
白血球除去フィルターの我が国での浸透率はおよそ赤血球が40%、血小板が80%であった。外科系疾患での使用は施設や地域による差が明らかであった。また、手術例では微小凝集塊除去フィルターが多く使用されていた。発熱やアレルギー反応などの輸血に伴う即時型副作用に対する白血球除去フィルターの予防効果は明らかでなかった。輸血に伴った免疫変調作用として大腸癌術後感染症を対象にした前方視的臨床研究の多施設共同プロトコールを作成し、臨床試験実施に向けた施設内調整に着手した。また、抗HLA同種免疫予防効果を検証する目的のサブ・プロトコールを同時に立ち上げた。

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