安全な血液製剤を確保するための技術の標準化及び血液製剤の精度管理法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100992A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な血液製剤を確保するための技術の標準化及び血液製剤の精度管理法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学医学部衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 竹森利忠(国立感染症研究所)
  • 今井光信(神奈川県衛生研究所)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 宮崎 豊(愛知県衛生研究所)
  • 山中烈次(日本赤十字社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤は、ヒト血液より製造されており、品質や安全性についても献血血液の特性に十分配慮した品質管理法や安全性確保基準を適用されなければならない。原材料である献血血液の適格性を判断する基準やウイルススクリーニングのあり方について、科学的進歩に即して対応することが求められている。ウイルス安全性の確保は、単一の基準や検査法によっては達成されず、問診、各種生化学的検査やウイルス検査を複合的に組み合わせることにより達成されるが、現在の科学水準でも完璧な施策は不可能であることも自明である。現在、血液の安全性のさらなる向上を目指して、NATが導入されているが、その実施にあたっては他の血清学的検査法との科学的整合性やNATの感度や精度についてもその都度検証することが求められている。本研究では、最新の科学的根拠をに基づいた採血基準やスクリーニング技術の開発を行い、血液製剤の安全性のさらなる向上を目指すことを目的としている。
一方、採血された献血血液あるいは分画された成分輸血用血液製剤はプラスチック製の血液バックに保存されるが、保存中にこの輸血バックより種々の化学物質が溶出することが知られている。これらの溶出物質の中には内分泌かく乱物質を始めさま様な生体に影響を及ぼすものがあるとの指摘もある。本研究では、可塑剤等の血液バック等より溶出される化学物質の高感度・高精度検出系を確立し、輸血バックとして用いた場合の動態解析を明らかにし、また輸血バックより溶出する未知化学物質の新規同定法及び定量法の確立を行う。以上の解析を通じて、血液製剤の品質の向上を図ることを目指す。
研究方法
1. ウイルス スクリーニングによる血液製剤の安全性確保の向上を目ざした研究
?標準血清(血漿)の作製?
B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、エイズウイルス(HIV)の核酸増幅検査(NAT)および血清学的検出系の精度管理に資する標準血清(血漿)作製のため、候補血清(血漿)を選定し、ウイルスの遺伝子型(genotype)、ウイルス量(核酸量、ウイルス構造タンパクのペプチド量)、血清学的マーカー等を測定し、標準血清(血漿)を選定、作製する作業をすすめた。
2. 血液バッグより溶出する化学物質の高感度・高精度検出系の確立に関する研究
①血液製剤の保存や輸血に利用されているポリ塩化ビニル製血液バッグ等に残留する化学物質の同定を目的に,測定法を構築した。本試験では,可塑剤,酸化防止剤等のGC/MSオリジナルライブラリを作成し,保持時間,マススペクトル,ピーク形状の情報をもとに正確な同定を実施した。
②血液バッグから保存血液中への溶出が疑われるテトラヒドロフラン(THF)および2-エチル1-ヘキサノール(2-EH)の実態を調査するため、血液中に含まれるこれら化合物について、試料を飽和食塩水で希釈し、内部標準物質としてそれぞれの安定同位体を用いて、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/M)により分析するという手法の開発を行った。
結果と考察
1. ウイルススクリーニングによる血液製剤の安全性確保の向上を目ざした研究
?標準血清(血漿)の作製?
選定した候補血清(血漿)を分注して、各分担測定者に送付した。各分担者から返送された成績はその都度収集し、解析中である。現在、既に、当初予定した検出、測定項目の90%以上の測定を終了し、そのデータが集積されているため、各検体の由来、第1次のスクリーニング検査の結果とともに一覧表を作成し、各分担測定者に対して、必要に応じた再測定の依頼および、それぞれの立場での標準血清(血漿)の仮選定を依頼しているところである。
標準血清(血漿)の選定にあたっては、最終的には、HBV、HCV、HIVともに、陰性コントロールを含めて、それぞれ100検体を目安に選定する予定である。また、標準血清(血漿)選定後に、WHOから入手した標準品とのcalibrationを、複数の分担測定者の参加によって行なう予定である。標準血清(血漿)は、WHOの標準品とのcalibration終了後に分注、保管し、本研究班の次の目的である、NAT、血清学的検出系の標準化に供する予定である。
2. 血液バッグにより溶出する化学物質の高感度・高精度検出系の確立に関する研究
①血液製剤の保存や輸血に利用されているポリ塩化ビニル製血液バッグ等に残留する化学物質の同定を目的とした測定法の構築を行った。未知物質の同定を行う際,GC/MS『NIST 98』のライブラリを使用するのが,一般的である.しかし,マススペクトルのみから同定することはしばしば困難を伴う。そこでマススペクトル(フラグメントイオン)と保持時間を兼ね備えた添加剤専用オリジナルライブラリを作製することで,同定能及び効率を高めることができた。本法を利用することにより,プラスチック可塑剤,酸化防止剤の同定が可能となった。さらに、実試料についてSCAN測定した結果,7種の物質を同定することができた。
②ヘッドスペース-GC/MS法による血液中のTHFおよび2-EHの分析法を確立した。この方法は、安定同位体内部標準法を採用しているため、良好な回収率および再現性(0.1および1.0 ppm添加における血清からの回収率:89.2-99.8%、CV値:0.3-2.2%)が得られ、操作性(50試料の処理に要する時間:1時間以内)も良好であった。従って本法は、血液バッグから保存血液中に溶出するTHFおよび2-EHの分析に有用と考えられた。
結論
1. 核酸増幅検査(NAT)、血清学的検出系、標準化のための候補血清(血漿)を選定し、ウイルス(HBV、HCV、HIV)の遺伝子型(genotype)、ウイルス量(ウイルスの核酸量、ウイルスの構造タンパクのペプチド量)、抗原価、抗体価、エピトープごとの抗体価等を測定し、標準血清選定のためのデータの集積、解析を行なっている。
2. WHOの標準品(HBV、HCV、HIV)を入手し、日本国内の標準品を選定した後にWHOの標準品とのcalibrationを行う準備を整えた。
3.血液製剤の保存や輸血に利用されているポリ塩化ビニル製血液バッグ等に残留する化学物質の同定を目的に,測定法を構築した。本試験では,可塑剤,酸化防止剤等のGC/MSオリジナルライブラリを作成し,保持時間,マススペクトル,ピーク形状の情報をもとに正確な同定を実施した.その結果,フタル酸ジエチルヘキシル,ノニルフェノール,BHT,2-エチルヘキサノール等が同定確認された。

公開日・更新日

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