安全な血液を確保するためのウイルス標準品の確立とその応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100991A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な血液を確保するためのウイルス標準品の確立とその応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 水落利明(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全な血液を確保するために HBV,HCV,HIVの3つのウイルスに対して従来から血清学的検査が行われていたが、window期が存在することが明かとなり、これらの検査をすり抜けて感染が成立することが報告されている。さらなる血液の安全性確保を目指してNATが日本や欧米で導入され、window期の血液の除外に貢献している。NATは種々の条件によって感度や特異性に影響がでるので、精度管理のための国際標準品が上記3つのウイルスでは既に作られている。国際標準品は欧米に存在する genotypeに合わせてあるので、日本に存在する genotypeとは異なる。そのため国内のウイルスに合った genotypeを用いて国内参照品を整備する必要がある。一方、NATは高感度であるが、血清学的検査に全て置き換わるものではない。NATの擬陽性や偽陰性(ウイルスゲノムに変異があり増幅されない可能性もある)を防止する上からも血清学的検査はこれまでと同等に重要である。特に、日本では欧米に比べて肝炎ウイルス感染者が多いと言われており、国内には多くの(約40種)HBs抗原検出用試薬が市販されている。約20年前に開発された診断試薬と最近開発されたものとの間には特異性や感度に差があることが懸念されていた。今回、測定原理の違いによる格差や同一原理での製造所間の感度等の格差について再評価を行い、市販されている診断用試薬の実体を解析することを目的とした。
研究方法
日本赤十字社から提供された、ウイルス濃度が高く、血漿量が充分にある3検体の HBV 陽性の血漿を国内参照品の候補とした。血液安全調査会の小委員会の構成メンバ-を中心とした多施設参加による共同研究によって、10倍希釈系列によるNAT検査によって検出できるエンドポイントを求めた。なお、希釈に用いた血漿は HBs 抗原陰性、HCV抗体陰性、HIV抗体陰性のものを使用した。また、各候補品のゲノムの塩基配列を決め、最終的に1つの候補品 HBV-129を選択した。次に、前の検査のエンドポイントを挟む様に7つの100.5倍希釈系列を作り NATが陽性にでるエンドポイントを日を変えて独立に4回測定した。同様の測定を国際標準品(106 IU/ml)にも行い、国際標準品に対する相対力価を統計処理によって算出した。また、HIVの国内参照品については、1つの候補を用いて、国際標準品(Code97/656)105IU/ml との相対力価を HBVと同様な方法で計算した。1回目の測定は10倍希釈系列、以後は1回目に得られたエンドポイントを挟む様に100.5希釈系列で日を変えて4回測定した。さらに、HBV と HCV(window期)の血漿を集め、ウイルス力価と genotypeを検索し、各 genotypeに対するNAT の特異性や感度を評価するためのパネル血漿を整備した。また、HBs抗原検出用試薬の評価ではHBs抗原陰性血漿と感染研所有の国内標準品を系列希釈(最低濃度は0.125IU/ml)したもの、Boston Biomedica Inc.(以下BBI)より購入した HBs抗原陽性血漿を用いた。原理と手法から凝集法(用手法)、凝集法(全自動)、イムノクロマト法、EIA法/化学発光法に分類して、特異性と感度の再評価を行った。
結果と考察
HBVと HIVの国内参照品を作成(正確には国内参照品の候補品)し、多施設参加による共同研究によって国際標準品との相対力価を決定した。今後、血液安全技術調査会の検討などを経て国内参照品として交付される予定である。これによって、国内において施設毎に行われていたNATの精度管理が共通の血漿で行われることになった。NATは高感度であることはだれもが認めることだが、抽出法の他、国や地域によってウイルスの genotypeが異なることや用いているプライマ-の位置に変異が存在した場合に検出感度が低下叉は偽陰性を呈する可能性が
ある。これらのリスクを減らすためにも、国際間のハ-モナイゼ-ション上からも共通の標準品を用いた精度管理が求められていた。今までに HBV,HCV,HIVの国際標準品が作られ、最近B19も新しく加えられている。今回の国内参照品は国際標準品を用いて相対力価を算出することによって、国際間で比較しやすいように作成されているので、精度管理に大いに貢献することが期待できる。一方、genotypeの違いや抗体の存在がどの程度感度に影響を与えるのか評価するためにパネル血漿を整備している。また、HBs抗原検出用試薬の再評価では測定原理によって特異性や感度に差が認められた。また、同じ測定原理の試薬においても感度の差を認められた。HBs抗原検出用試薬の再評価は血清学的検査がこれまでと同様に重要であり、これまで実施されなかったので意義がある。ただし、診断薬は感度だけでなく、結果が出るまでの時間や検査法の簡便性など、利用する側の必要性も考慮しなければならない。その意味でも臨床サイド対して使用している試薬の感度や特異性を知らせ、適切な HBs抗原検出試薬を選択することに貢献したと考えている。
結論
HBVと HIVの国内参照品を作成し、国際標準品との相対力価を決定した。また、HBs抗原検出用試薬の再評価を実施し、検出原理や同一原理であっても試薬間で感度等に差が認められることを明らかにした。

公開日・更新日

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