インフルエンザ脳炎・脳症発症および重症度に関連する要因解明のためのケース・コントロール研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100986A
報告書区分
総括
研究課題名
インフルエンザ脳炎・脳症発症および重症度に関連する要因解明のためのケース・コントロール研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 俊哉(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森島恒雄(名古屋大学医学部)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
  • 林邦彦(群馬大学医学部)
  • 埜中征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 横田俊平(横浜市立大学医学部)
  • 関口久紀(国立病院東京医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成12年11月16日、厚生省(当時)はジクロフェナクナトリウムをインフルエンザの臨床経過中の脳炎・脳症患者に対し使用禁忌とし、緊急安全性情報を通知した。これは平成11年度、12年度に実施された厚生科学研究(主任研究者 森島恒雄)の結果を受けた対応である。しかしながら、平成11年度、12年度に実施された厚生科学研究では、インフルエンザ脳炎・脳症に罹患した患者のみの調査であり、このようなケースシリーズから得られた結果により、特定の解熱剤の使用がインフルエンザ脳炎・脳症の重症化や発症の原因となっているかどうかについては答えられない。このため、「厚生労働省では、引き続きインフルエンザ脳炎・脳症の重篤化とジクロフェナクナトリウム及びその他の解熱剤との因果関係等について調査研究を実施する」と平成13年5月30日の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で決定している。本研究は、平成12年度厚生科学研究「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床経過と解熱剤投与の関係に関する研究」(主任研究者 佐藤俊哉)にて検討した、ケース・コントロール研究計画書(案)にもとづき、具体的に調査を実施する準備を整え、調査を実施することを目的とする。
研究方法
平成12年度厚生科学研究「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床経過と解熱剤投与の関係に関する研究」にて検討した、「インフルエンザ脳炎・脳症の発症および重症度と解熱剤使用に関するケース・コントロール研究計画書(案)」を固定し、調査表の作成を行う。調査対象となる医療機関、患者家族に研究への協力をよびかける依頼状の作成を行う。医療機関の協力をより円滑にするため、日本医師会、日本小児科医会へ研究への協力を依頼する。臨床試験支援組織と業務委託契約、秘密保持契約を結び、「ケース・コントロール研究センター」を設置した。さらに、今回の調査は医療機関において医療記録等の調査を行うため、専門性およびプライバシー保護の観点から看護婦の資格を持つものを調査員とすることにしている。本研究では、6歳未満の小児を対象とするため、プライバシー保護には厳重な注意を払う必要がある。このため、まず担当医が患者の両親・保護者と連絡を取り、調査をしたいといっているが研究センターから連絡してもいいかどうかについて了承を得、担当医は両親・保護者の氏名・連絡先を研究センターへ送付する。研究センターは両親・保護者に研究の主旨を説明し、文書により調査への協力承諾とお子さんの医療記録閲覧の許可をいただく、という手順とした。本研究の計画書、調査票および両親・保護者への調査協力依頼状は、平成13年9月7日、本研究で設置した外部評価委員会にて審議され、科学性、倫理性に妥当であると承認されている。
結果と考察
平成12年4月から7月にかけて、研究計画書の細部を検討し、外部評価委員会、外部ケース評価委員会委員の依頼を行い、研究計画書を完成した。並行して医療機関調査票、両親・保護者調査票の作成を行った。本研究の科学性および倫理性を監視する第三者組織として、外部評価委員会を設置した。外部評価委員会は生物統計学、小児科、内科、感染症、薬理学、生命倫理学の専門家に、患者会の代表者を加えた7名で構成した。平成13年9月に第一回外部評価委員会を開催し、外部評価委員会実施手順書および本研究計画について審議が行われた。外部評価委員会は審議の結果、研究の実施を承認した。医療機関からの協力を円滑に
するため、日本医師会に本研究への協力を依頼し、了承され、さらに日本小児科医会からも研究協力が了承された。これを受けて平成13年10月から調査を開始した。62名のケースに、都道府県、性、年齢を周辺マッチさせたコントロールを、ケース1名に対し2名選択した。コントロール選択の方法は、平成13年度厚生科学研究「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究」(主任研究者 森島恒雄)の分担研究者、研究協力者等に依頼して、表1の都道府県で開業している医師をケースと同数推薦してもらい、1医療機関あたり2名のインフルエンザコントロールをランダムに選択した。さらに、コントロール調査の医療機関選定が難しい都道府県については、日本小児科医会の協力を得、コントロール選択を実施している。ケース調査は、平成12年度厚生科学研究「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究」にインフルエンザ脳炎・脳症患者を報告した医療機関に対し、依頼状を送付し、ケースの両親・保護者に連絡をとってもらっている。平成13年7月19日に国立感染症研究所においてインフルエンザ脳炎・脳症公開講座を開催した。本厚生科学研究、平成13年度厚生科学研究「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究」(主任研究者 森島恒雄)、インフルエンザ脳炎・脳症患者の会「小さないのち」(代表 坂下裕子)の3団体が合同で主催した。対象となったケースは日本全国にまたがっており、このような調査を実施するためには研究センターの設置が必須である。本研究では、臨床試験支援組織にセンター業務を委託し、ケース・コントロール研究センターを設置した。研究センターでは、対象家族、対象医療機関への依頼状の発送、訪問調査を行う看護婦と対象家族、対象医療機関のスケジュール調整、データベースの作成、などの定型業務を行っている。個々の研究毎にこのような研究センターを主任研究者の所属する大学、研究機関に設置することは、人件費、スペースなどの面から困難であり、また設置が可能であったとしても、大学や研究機関でのプライバシー保護の困難さや、当該研究が終了した後にそのノウハウの蓄積が行われないなど、たいへん効率が悪い。本研究では、プライバシー保護の観点から、プライバシー保護に関しては法的な規制がかかっている医薬品の治験業務の経験が豊富な臨床試験支援組織に、研究センター業務をアウトソーシングした。今後の疫学研究でも、このような今ある資源を有効に使い、定型的な業務はノウハウの蓄積のある外部に委託するという研究形態が増加すると考えられる。本研究の特徴は、外部ケース評価委員会、外部評価委員会と第三者による外部委員会を2つもうけた点にある。外部ケース評価委員会では、インフルエンザ脳炎・脳症の治療に経験のある外部の専門家を委員として、研究組織内で行ったケース評価の結果をさらに第三者の立場から精査してもらうことを目的とした。外部評価委員会は、本研究独自の倫理審査委員会、モニタリング委員会に相当するものである。本研究のようにフィールドで調査を実施する疫学研究では、「研究実施施設」という概念がない。通常、大学や研究機関に設置されている倫理審査委員会の主な目的は、当該施設で行われる研究において、当該施設における研究対象者の権利を守ることであるが、これは対象者が全国にまたがる疫学研究にはそぐわない。したがって、本研究のような性格を持つ研究計画を、主任研究者や分担研究者が所属する大学、研究機関の倫理審査委員会に諮る意義は薄く、もっと専門的にはスペシフィックなかつ社会的にはグローバルな審査、評価ができる専門家を加えた委員会を構成する必要がある。本研究の外部評価委員会は、小児におけるインフルエンザ脳炎・脳症の専門的な審査のために、小児科、内科、感染症の専門家、解熱剤との関係の専門的審査のために薬理学の専門家、ケース・コントロール研究の専門的審査のために生物統計専門家、倫理的な審査のために生命倫理学専門家と患者会の代表者から
構成されている。大学や研究機関に設置されている倫理審査委員会で、このようなスペシフィックな委員を含むものは存在しないので、本研究のように社会的なインパクトの大きい疫学研究では、研究独自の外部評価委員会を設置する必要がある。
結論
インフルエンザ脳炎・脳症の原因を究明するためのケース・コントロール研究を実施した。本研究のような全国的な疫学研究を実施するためには、研究センターの設置、外部評価委員会の設置が必要であり、そのための特別な予算措置が望まれる。また調査の実施に際しては医師会や患者会と協力して行うことが調査を成功させる上でたいへん重要である。

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