患者による副作用早期発見のための適切な情報の収集及び提供の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100985A
報告書区分
総括
研究課題名
患者による副作用早期発見のための適切な情報の収集及び提供の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
久保 鈴子(財団法人日本薬剤師研修センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋隆一(国立病院東京医療センター)
  • 南光弘子(東京厚生年金病院)
  • 林 昌洋(国家公務員共済組合連合会虎ノ門病院)
  • 増原慶壮(聖マリアンナ医科大学病院)
  • 折井孝男(NTT東日本関東病院)
  • 稲垣員洋(名城大学)
  • 林 邦彦(群馬大学)
  • 久保田潔(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
広範囲にわたる副作用の早期発見には、患者の直接の訴えを情報源としてそこから新たな問題を検知する努力が必要である。一方、患者は多剤を投与されることが多いが、その場合副作用の自覚症状は多剤を使用した結果として表現する。しかし、患者自身がその症状が本当に副作用であるのか、その場合の被疑薬は何かを判断することは困難であるため、副作用の早期発見のためには医療従事者は患者の服用薬から可能性のある副作用を予知し、患者に自己観察のための情報を患者用語で提供しておくことが重要である。本研究は、患者の積極的な薬物療法への参加を得て医療側が副作用に関して迅速に適切に対応できるような環境の整備を目標に、患者個別の全服用薬に対する副作用予知情報を自覚症状から検索・提供可能なシステム化の検討とシステム化を前提とした自覚症状用語の標準化のための具体的な方法の検討を目的として開始した。
研究方法
患者が自覚症状を訴えた場合にどのようなプロセスで頻度と重要度を加味した副作用予知情報を抽出し、自覚症状用語で提示するかについて、プロトタイプを作成して検討した。そのために自覚症状用語と副作用用語の多様な関連づけ、重篤度の高い副作用を早期発見のための重み付け、部位別に提示される自覚症状用語の入力から受診勧告等の患者への指示を付加した副作用重篤度順記載の自己観察用情報提供書が自動的に作成されるという、患者と医療従事者がそれぞれアクセスして活用することを前提としたモデルを考案して検討した。患者情報保護のためのセキュリティについても検討した。システム化を前提とした自覚症状用語標準化への具体的な方法については、MedDRAの記載構造を参考に検討した。さらに、プレアボイド報告をはじめとする臨床で得られた患者自覚症状用語と副作用用語について、相互の関連性、用語の整理方法を検討した。さらに、解熱剤や皮膚科領域において情報収集の具体的手法について検討した。また患者から直接得られた膨大な数を対象とした情報の解析方法についても検討した。
結果と考察
プロトタイプによる患者個別の全服用薬に対する重篤度順副作用予知情報を自覚症状用語から検索・提供可能なシステム化については、医療従事者から患者への個別の副作用予知情報を自己観察用リストとして重篤度順に自覚症状用語で提供出来る可能性が高まった。さらに、副作用の検索過程を画面上で確認可能なため、副作用の特定に関しても判断が容易になることが示唆された。最終的に患者が手にする自己観察用リストは、医療従事者が提供する場合も、患者自身が入手する場合も、受診勧告等の表示により副作用の早期発見に寄与できるであろうことも示唆された。本研究の成果である重篤度順に副作用名と医薬品を関連させた医療従事者用のリスト作成により、患者が訴える自覚症状が副作用由来であればその場合の被擬薬の同定、副作用との関連性が低い場合は病状など他因子の観察など、判断要素の特定化に役立ち、臨床面での早期対応を支援できると考える。自己観察用リストに記載される重篤度順の自覚症状用語は、副作用の重要度と患者の条件にポイント制を導入することにより提供可能と思われたが、付与するポイントの妥当性については更に検討する必要がある。インターネットによる利用を想定した患者情報の保護は、いくつかの作業の組み合わせにより可能であるこ
とを確認した。システム化を前提とした自覚症状用語標準化への具体的な方法については、XMLでの自覚症状記述構造形式により用語を収集することに加えて、MedDRAやCARPIS副作用用語辞書をはじめとする各種辞書が持つ用語コードとの関連性を保持することにより、幅広く用語を収集して標準化を進めることが可能であろうことが示唆された。これにより患者と医療従事者間で一定の法則の下に標準化された用語を使用してコミュニケーションを図ることができ、医療の効率化にも役立つであろうと考える。医薬品に関連する有害事象、特に解熱剤に関する副作用が疑われる場合の情報収集システムとしては、迅速に同定する必要性から、ケース・コントロール研究で行うことが適切であるとの結果が得られた。収集した自発報告の解析方法については、データマイニングの手法が、個別症例毎の因果性の判断に直接よらない点から有用であることが分かった。
結論
今回プロトタイプを用いて行った本研究の成果によって示された、患者が訴える自覚症状からの副作用同定や自覚症状用語による情報提供の可能性は、患者と医療従事者間における安全性情報の収集と提供に関して一定水準のツールとして医療環境整備を支援できることを確認した。自覚症状用語の記述形式による標準化の可能性も確認できた。さらに本研究成果の手法を用いて、広範囲にわたる自覚症状用語を収集・解析して構造化すれば、合理的で幅広く活用可能な用語が一元的に管理できるであろう。
厚生労働省が提唱している患者向け説明文書の作成には用語の標準化が前提となると思われるが、本研究成果は十分にその可能性を高めるものと考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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