添付文書等による医療用医薬品に関する情報の提供の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100984A
報告書区分
総括
研究課題名
添付文書等による医療用医薬品に関する情報の提供の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
谷川原 祐介(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 上田慶二(東京都多摩老人医療センター)
  • 奥村勝彦(神戸大学)
  • 森田邦彦(慶應義塾大学)
  • 小瀧 一(東京大学)
  • 上田志朗(千葉大学)
  • 渡辺 亨(国立がんセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、医療用医薬品の安全性に関する情報が急速に増加してきたため、多忙な医療関係者にとって添付文書を十分に活用することが困難であるとの指摘や、副作用等の情報が体系的ではなく項目の単なる羅列であるため医薬品の特性を理解し難くさせているとの指摘がある。
そこで、本研究においては、医療用医薬品の添付文書等による現状の情報提供の問題点を整理するとともに、医薬品情報を体系的に構造化するよう再構築する。さらに、薬効薬理、相互作用、副作用、臨床成績、体内薬物動態、特殊集団等の情報内容の改善と充実を図る。具体的には下記の点につき研究を進める。
1) 1つの医療用医薬品の重要事項が1分程度で理解できるようなハイライト情報を創設する。併せて、添付文書の冒頭に記載されたハイライト情報から、より詳細な関連情報を参照したい場合には、添付文書中のどの部分又はどのような関連媒体を参照すれば良いか分かるようにするために、当該医薬品に関する関連情報を構造化・体系化したものに改善する。
2) 上述の重要事項の根拠となる情報である薬効薬理、副作用、臨床成績、体内薬物動態、薬物相互作用、特殊集団等の情報を、最新の科学水準に即した内容と臨床に役立つ体系的表現に改善する。
本研究の目的とする構造化した医薬品情報体系を構築することにより、医療関係者への情報伝達を確実にし、且つ基幹情報源としての添付文書の有効活用を促進する。その結果、医療現場で医薬品の特性、使用上の注意などの理解が促進され、適正使用が図られることにより、副作用等の低減など、患者・医療関係者双方の利益が期待できる。
研究方法
上記の目的を達成するために、下記の各テーマを分担して研究を遂行した。
谷川原祐介:研究総括および電子化添付文書の試作
上田慶二:添付文書の構造化に関する研究
奥村勝彦:体内薬物動態に関する情報提供の在り方
森田邦彦:薬物相互作用に関する情報提供の在り方
小瀧 一:薬効薬理に関する情報提供の在り方
上田志朗:特殊な集団に関する情報提供の在り方
渡辺 亨:臨床成績に関する情報提供の在り方
本研究のめざす方向性を具体的に示す一例として、ピオグリタゾン製剤(アクトス錠)を題材として、添付文書情報並びに関連媒体情報をすべて統合し、構造化して再配置した電子化添付文書(e添付文書)を試作した。
結果と考察
1.個別根拠情報の見直し
まず、現状の添付文書情報の問題点を抽出した。
(1)体内薬物動態に関する情報提供の在り方:医療従事者が必要とする情報は、薬剤変更や剤形変更に伴う用量設定、TDMの有無、透析の影響、食事の影響などに関連した体内動態情報であった。承認の古い薬剤については添付文書上の記載が少ない傾向がみられた。一方、インタビューフォームにはより詳細な記載があるので、今後はその情報を統合する可能性について検討することとした。
(2)薬物相互作用に関する情報提供の在り方:薬物相互作用の記述内容の現状と問題点の把握を行った結果、添付文書の記載上「禁忌」と「併用注意」の根拠の違いが読み取れるような表現を用いて、エビデンスを記載すべきであると考えられた。「併用注意」には具体的な対処法、例えば、どの程度減量するべきか等を具体的に示すことが必要と考えられた。また、海外原著論文での用量と国内用量との乖離に注意すること、さらに有意な影響でない場合は記載を削除することが望ましいと考えられた。
(3)薬効薬理に関する情報提供の在り方:薬効薬理の記載に望まれる項目として、原則としてヒトのデータを示すこと、健常人と患者の区別を明らかにすること、作用機序を最初に記載すること、薬理作用強度を客観的に示し同種同効薬との比較を可能にすること、薬理作用が標的以外の臓器に及ぼす影響等についても示すことなどが挙げられた。
(4)特殊な集団に関する情報提供の在り方:肝臓に関する注意喚起のなされた添付文書記載の調査を行ったが、それらは「警告」、「原則禁忌」、「禁忌」、「慎重投与」、「重要な基本的注意」、ならびに「重大な副作用」などの項目に分散して記載されていることが判明した。また添付文書におけるCYP分子種の記載は少ないことが判った。CYPの記載、内容等についてデータベースを作成した。
(5)臨床成績に関する情報提供の在り方-添付文書における毒性の記載に関する考察-:医療用医薬品の毒性については、統一した方式により記載すべきであり、毒性の種類、重症度、頻度、出現時期、回復時期、回復可能性、発現時の対応法などが判るように記載すべきであるとされた。また、毒性記載様式の統一を図り、ICHの定義やNCI(National
Cancer Institute)方式を採用すべきと考えられた。
2.ハイライト情報について
添付文書情報体系を構造化し、最上位レベルには当該医薬品の重要事項が1分程度で理解できるようなハイライトを記載し、下位にある各種個別情報(薬効薬理、体内薬物動態、臨床成績、相互作用、特殊な集団等)を参照すれば、その根拠が理解できるような体系化を目指し、研究を実施した。本研究では、ハイライトに含める情報として、警告、禁忌、効能・効果、用法・用量、使用上の注意(重大な副作用、頻度の高い副作用、相互作用)、特殊な患者群への適用を取り上げ、アクトス錠(ピオグリタゾン製剤)を題材として具体的なハイライト案を試作し、添付文書冒頭に配置した。
3.構造化した医薬品情報体系の具体例 -「e添付文書」の試作―
現在、医薬品情報媒体は数多く、情報の重複、肥大化、散在化が問題点として挙げられる。肥大化し散在している医薬品情報を統合し且つ再構成を図ることにより、重要事項と詳細情報のメリハリをつけ、効果的かつ効率的な医薬品情報体系を構築することが求められる。しかしながら、現在のように紙媒体のみで全ての情報を管理することは限界があるため、ハイパーテキスト形式やインターネット等のIT技術を駆使して、効果的かつ効率的な医薬品情報提供システムを構築することをめざした。その一例として「e添付文書(電子化添付文書) ver 1.1」を試作した。e添付文書の特徴は、
① 短時間で重要なポイントが把握できるハイライトを冒頭に配置する、
② 添付文書情報に加え、他の情報媒体(使用上の注意の解説、製品情報概要、インタビューフォーム、審査報告書、新薬承認情報集、論文(原著、総説)、緊急安全性情報、医薬品・医療用具等安全性情報、DSU、患者への説明文書、製剤写真等)の内容をも包含し、医薬品情報を統合する、
③ それぞれの関連項目にリンクを張ることにより、必要に応じて、詳細な根拠情報や症例報告まで遡及的にたどれるように設計する、
④ 使用上の注意の改訂や市販後調査に基づく副作用情報など追加情報は、インターネットを介して随時アップデート可とし、常に最新情報が医療関係者に提供される、
等である。ネットワーク社会の到来を見越して、最新のIT技術を駆使した医薬品情報体系の一例が本研究で提示された。
結論
個々の医療用医薬品の重要事項が1分程度で理解できるような記載を当該医薬品のハイライト情報として添付文書の冒頭に記載するとともに、当該情報に関してより詳細な関連情報を参照したい場合には、添付文書中のどの部分又はどのような媒体を参照すればよいか分かるようにするため、関連情報媒体をも含めて医薬品情報の構造化・体系化を検討した。具体的な例として、ハイパーテキスト形式による電子化添付文書(e添付文書「アクトス錠」)を試作した。
警告・禁忌・使用上の注意など重要事項の根拠となる副作用、薬物相互作用、薬効薬理、臨床成績、体内薬物動態、特殊な集団等に関する情報について、現状の問題点を洗い出し、臨床に役立つ表現に改善できるよう提言を行った。
また、上記に関する医師、薬剤師等の医療関係者からの意見収集を実施した。
本研究を継続することにより添付文書情報がよりよい形に改善され、医療現場で有効に活用されるならば、医薬品適正使用のさらなる推進が期待される。

公開日・更新日

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