プラスチック製医療用具に係る溶出物質の曝露量の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100981A
報告書区分
総括
研究課題名
プラスチック製医療用具に係る溶出物質の曝露量の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 温重(昭和大学)
研究分担者(所属機関)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 宮崎 隆(昭和大学)
  • 本郷敏雄(東京医科歯科大学大学院)
  • 諏訪修司(日本医療器材工業会)
  • 田中文夫(日本歯科材料工業協同組合)
  • 浦部素直(日本歯科材料工業協同組合)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プラスチック製医療用具の安全性評価の基礎となる溶出化学物質の曝露量を評価する目的で、使用量および血液等の体液接触時間等を考慮に入れた場合、特に評価すべきと指摘されている国内流通の医療用具の代表的製品9種を選定し、各製品を実際の使用方法に則り体液、薬剤等と接触させたときに溶出する可塑剤フタル酸ジ2エチルヘキシル(DEHP)等を計測した。溶出量をもとに患者のDEHP等の曝露量を評価した。
研究方法
各製品を以下のごとく体液等と接触させた。1)ポリ塩化ビニル(PVC)製血液バッグには健康成人男子から採血した血液および保存血、解凍した凍結血漿を注入し4℃で1~3週間保管した。2)血液透析回路はヘパリン添加ウシ血液を用い1回の血液透析を想定し37℃、4時間循環した。3)人工心肺回路(ノンコートおよびヘパリンコートPVC製チューブ使用)はヘパリン添加ウシ血液を小児をモデルとした条件で循環した。4)PVC製輸液セットおよび延長チューブ(PVC製と非PVC製ニトログリセリン用)にブドウ糖注射液で希釈した5種の脂溶性注射液を灌流した。希釈注射液の流量、流速、時間等は臨床使用条件に合致させた。5)栄養チューブには市販粉ミルクを0.13g/mlになるように調整した人工ミルクを未熟児を想定した条件で灌流した。6)BisGMA系コンポジットレジン2製品の光重合硬化試料を唾液に6週間浸漬した。7)ポリカーボネイト(PC)製矯正用ブラケット4製品を唾液に24週間浸漬した。8)裏層材4製品の完全硬化試料を作成し人工唾液に24時間浸漬した。9)PVC製グローブ2製品は試験片の片面をヒト唾液に24時間接触させた。1)~9)の全てにおいて経時的にサンプルを採取した。サンプル中のDEHP、フタル酸モノ2エチルヘキシル(MEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)はヘキサン抽出等の前処理操作を行った後ガスクロマトグラフィー/質量分析法で、ビスフェノールA(BPA)等は除蛋白処理後液体クロマトグラフィーで定量した。輸液中のDEHPはカラムスイッチング液体クロマトグラフィー/質量分析法で分析した。曝露量評価は耐容1日摂取量(TDI)と比較し行った。TDIは厚生労働省が設定したDEHP40-140μg/kg/day、DBP66μg/kg/day、EUのSCFの発表したBPA10μg/kg/dayを基準とした。
結果と考察
1) PVC製血液バッグから血液中にDEHPが溶出した。溶出量は4℃、1週間では30.4-415.6μg/バッグ(容量200ml)であった。DEHP量は保存期間に従って増加し血液では1、3週後で415.6、540.0μg/バッグであった。血液および血漿中にはDEHPの加水分解により生じたMEHPが3.48および0.58μg/バッグ認められた。DEHPの溶出量が最大値を示した3週間保存血液の輸血による患者のDEHP曝露量は輸血量に依存するが、成人(体重50kg)患者に2.5L輸血したときDEHP推定曝露量は135.0μg/kg/day、新生児(体重3kg)患者に200mlの輸血をしたときの曝露量は181μg/kg/dayで、いずれもTDIに達した。PVCには赤血球膜保護作用がありPVCを血液バッグに使用する妥当性について今後とも検討が必要である。
2) 血液透析回路から循環血液中にDEHPが溶出した。溶出量は循環時間に比例して増大し、一回の血液透析に要する4時間後では7.34 mg/回路であった。週3回の血液透析を行なった成人のDEHP推定曝露量は66.7μg/kg/day、小児の換算曝露量は46μg/kg/dayでTDIに達していた。DEHPに高感受性の患者に使用する場合は代替品を使用することが望ましい。
3)人工心肺回路から循環血液中にDEHPが溶出した。溶出量は循環時間に比例して増加し、ノンコートPVC製チューブ使用では6時間の血液循環により、7.5 から 12.1 mg/回路のDEHPが溶出した。ヘパリンコートPVC製チューブの場合DEHP溶出量は、ヘパリンコート(共有結合型)が3.5 mg/回路、ヘパリンコート(イオン結合型)が10.1 mg/回路であった。小児(体重11kg)患者のDEHP推定曝露量は、ノンコート共有結合型およびイオン結合型使用の場合708および721μg/kg/day、ヘパリンコート共有結合型およびイオン結合型使用の場合334および606μg/kg/dayであり、成人の換算曝露量はノンコート共有結合型およびイオン結合型使用で346および352μg/kg/day、ヘパリンコート共有結合型およびイオン結合型使用で163および296μg/kg/dayであった。ヘパリンコート共有結合型使用の場合曝露量が最小であったが、いずれもTDIを超えていた。主として成人の重篤患者に使用使用されベネフィットが大きいことを考慮した判断が必要であるが、。曝露量を低減する方策を検討すべきである。
4) PVC製輸液セット・延長チューブから希釈注射剤にDEHPの溶出が認められた。溶出量は注射液Aでは輸液セット4600μg/日、延長チューブ750μg/日、注射液Bでは輸液セット440μg/1時間、延長チューブ30μg/1時間であった。非PVC製チューブからDEHPの溶出はほとんど認められなかった。PVC製輸液セットと延長チューブを接続使用した脂溶性注射剤の1回の点滴における成人のDEHP推定曝露量は、9.4~107、非PVCチューブ使用のそれは、8.8~92μg/kg/dayで、一部注射剤ではTDIと同等のレベルとなった。脂溶性注射剤で溶出量を増加させる恐れがあり、曝露量を算定しTDIを超える場合は適正な使用が必要である。
5)栄養チューブから人工ミルク(粉ミルク0.13g/ml)中に未熟児哺乳条件でDEHPが103.4μg溶出した。未熟児(体重1kg)のDEHP推定曝露量は、103.4μg/kg/dayでTDIのレベルとなった。使用対象が高い感受性を有するので代替品を使用することを推奨する。
6) コンポジットレジン2製品の重合試験片を唾液に6週間浸漬したときBPA、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)等の溶出量はいずれも検出限界以下であった。コンポジットレジンの使用における小児のBPA曝露量は78.8pg/kg/dayでEUのSCFのTDI以下であった。
7)矯正用ブラケット4製品の唾液中24週間浸漬におけるBPA溶出量は5.4~30.2μg/gレジンであった。ブラケットの使用における小児のBPA曝露量は3.2ng/kg/dayでTDI以下であった。
8)義歯裏層材4製品の完全硬化試験片を人工唾液に24時間浸漬した場合にDBPが13.1~179.1μg/g溶出した。義歯裏層材装着による成人DBP曝露量は21.5μg/kg/dayでTDI以下であった。
9) グローブの試験片を唾液に24時間接触させたときDEHPが0-37ng/cm2溶出した。グローブの歯科的使用使用における小児のBPA曝露量は0.41μg/kg/dayでTDI以下であった。
結論
国内流通の主要PVC製医療用具と歯科材料の臨床使用条件に則った溶出試験成績をもとに、各医療用具を使用した医療行為における患者のDEHP、BPA等の曝露量を明らかにした。各医療用具のDEHP曝露量は医療行為により異なるが、輸血バッグ、血液透析回路、人工心肺回路、輸液セット・延長チューブ、栄養チューブ使用において患者の推定DEHP曝露量はTDI以上となる場合があった。義歯裏層材装着によるDBP曝露量、PC製矯正用ブラケットの使用およびBis-GMA系コンポジットレジン使用におけるBPA曝露量、PVC製グローブの歯科使用のおけるDEHP曝露はいずれもTDI値以下であった。DEHP推定曝露量がTDIを超えた一部の医療用具については、ベネフィットとリスクについて評価を行い相対的にリスクの大きい場合や適用患者がDEHPに高い感受性を示す新生児、乳児、幼男児、妊婦の場合には、代替品への置換等曝露量を低減する方策の導入が必要である。本研究により上記医療用具を用いた医療における安全性と問題点および適正使用に必要なデータが得られた。

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