溶出試験の変動要因の解明及びその制御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100978A
報告書区分
総括
研究課題名
溶出試験の変動要因の解明及びその制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
四方田 千佳子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大隅昇(文部科学省統計数理研究所)
  • 鹿庭なほ子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 梶村計志(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 鈴木英世(富山県薬事研究所)
  • 鳥海良寛(秋田県薬剤師会試験検査センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、医療用後発医薬品の品質確保を図るため、各都道府県衛生研究所等において種々の市販内服固形製剤の溶出試験が実施されている。そのため、指定検査機関のデータの品質保証は重要であり、溶出試験の信頼性確保のためには、機関による測定結果の変動要因を明らかにし、要因制御を模索する必要がある。そこで、一要因となる試験液の脱気法等につき、溶存酸素濃度測定を指標としてその脱気効率を比較すると共に、溶出結果への影響を検討した。また、溶出試験で使用される可能性のある一連のフィルターにおける医薬品の吸着の有無及びその制御方法について検討した。さらに、溶出試験の技能試験の設計では、試験製剤として水溶性の高い医薬品の錠剤と、疎水性の強い医薬品の錠剤を選択し変動要因の特定を試みた。
研究方法
溶出試験機は各機関で使用しているもので、マニュアルで試料溶液を採取するものから、全自動溶出試験機まで、数種のメーカーのものが使用された。通常の溶出試験方法は、それぞれの局外規の方法に従った。溶存酸素濃度は、酸素電極をPCMCIAカードでパソコンに接続するシステムを使用し、経時的に溶出試験条件下での溶存酸素濃度変化を測定した。メンブランフィルター(MF)への医薬吸着量は、溶出試験における標準溶液を調整し、MF通過後の溶液のUV測定により吸着量を測定した
結果と考察
溶出試験に及ぼす、脱気方法の検討では、脱気方法として無脱気、USP法、FDA法、NIHS法およびその他の方法を取り上げ、4つの分担研究機関でUSPの溶出試験器用カリブレータであるプレドニゾン錠、サリチル酸錠および市販製剤のアラセプリル錠を用いて、溶出試験を実施した。得られた溶出試験結果を3因子又は4因子の完全枝分かれ実験計画に従って分散分析を行い、さらに、有意差が検出された変動要因については、Turkeyの多重比較を行ったところ、いずれの製剤においても脱気の影響が認められ、無脱気とFDA方式において有意に溶出率が高くなった。USP法とNIHS法ではほぼ同等の低めの溶出結果が得られた。
さらに、脱気状態の客観的な判別方法として溶存酸素電極を取り上げ、4機関で、それぞれの脱気方法で脱気した試験液を溶出試験器にセットし、経時的に溶存酸素量を測定した。溶存酸素量が最も低かったのは、He環流方式と煮沸法であり、次いでUSP法、加温吸引方式(5分)であった。FDA方式では、ほとんど無脱気と差が認められず、NIHS法は無脱気とUSP法の中間に位置した。各錠剤の溶出率と酸素飽和度の関係を見ると、サリチル酸錠では、脱気による溶出率の変化は比較的小さく、プレドニゾン錠では、無脱気では特異的に溶出率が大きく、その他の脱気法間ではほぼ同程度の溶出率を示した。アラセプリル錠では、もっとも脱気方法による差が大きく、酸素飽和度90%を境に、90%以下となるとほぼ一定の溶出率を与え、脱気が不十分で90%以上となると急激に溶出率が増加した。90%以下の酸素飽和度で溶出率がほぼ一定となる傾向は、他の二つの錠剤でも同様であった。今回検討した錠剤においては、溶存酸素量を指標として、脱気により酸素飽和度が90%以下となると脱気方法による影響はほぼなくなることが示唆された。酸素飽和度90%以下を達成できるのは、NIHS法、USP法、He環流法、加温吸引法、煮沸等であった。これらの結果より、脱気法による溶出率の差や、溶存酸素量と溶出率との関連が認められ、脱気方法が溶出試験の明らかな一変動要因であることが明らかとなった。
溶出試験に及ぼす脱気方法の影響では、FDA方式は脱気の方法としては簡便であるが、NIHS方式またはUSP方式に比較して脱気の程度が不十分と考えられた。2つの試験室で検討された加温吸引方式、He環流方式、5分間煮沸法も溶出試験の脱気方法として満足できると考えられた。NIHS方式とUSP方式との間で有意差が検出されたのは、アラセプリル錠における1試験室のみであり、ほぼ同程度の脱気効率を有すると見なせた。溶出試験液の脱気方法と溶存酸素量の関係より、溶存酸素量を指標とすると、溶出試験への脱気の程度の影響は酸素飽和度90%を境として変化し、酸素飽和度が90%程度以下では、それ以上溶存酸素量が減っても溶出率には影響を及ぼさないと思われた。これは、溶存気体がある程度以上存在すると、錠剤表面に微細な気泡を生じるのではないかという推測と考えあわせると、溶存酸素量90%が錠剤表面への気泡生成の臨海点に相当するのではないかと思われた。
メンブランフィルター(MF)による医薬品吸着では、溶出試験で採取した溶出液を適当なフィルターによりろ過して不溶物を除去することが規定されている。しかし、MFの種類に指定はなく、各地方衛生研究所の溶出試験の技能試験で使用されたものに限っても、ポリエーテルスルフォン、セルロースアセテートなど10種類に及ぶ。溶出試験の実施が規定されている局方、局外規の医薬品50種類について、MF7種における医薬品吸着の有無を検討した結果、それぞれの膜に有意に吸着する医薬品があり、50%以上の医薬品がいずれかのフィルターに吸着することが明らかとなった。さらに、医薬品の吸着と医薬品特性との関連を調べるため、医薬品の水/オクタノール分配係数(logP)をオンラインデータベースで検索し、logP値の得られた医薬品について吸着との相関を検討したところ、医薬品吸着例の多かった、ポリビニリデンジフロライド(PVDF)膜、再生セルロース(RC)膜では、医薬品のlogPが大きく疎水性が高くなるに連れて、膜への吸着が多くなる傾向が認められた。特にPVDF膜において相関が高く、その他の膜では、全体として分配係数に若干依存する傾向が見られた。また、同じタイプのMFとして販売されているものでも吸着の程度が顕著に異なることを明らかにした。 この原因の詳細は不明であるが、膜の細孔形など立体構造の微妙な相違が原因と推察された。
地方衛生研究所等の薬事法に基づく試験検査機関を対象とする溶出試験の技能試験において、技能試験スキームを溶出試験の変動要因が類推されるように設定し、技能試験結果を解析した。平成12年度技能試験結果では、比較的水溶性の高い塩酸カルテオロール錠を取り上げ、通常の溶出試験の他にあらかじめ配付した塩酸カルテオロール水溶液による溶出試験操作を設定したところ、水溶液の溶出結果と錠剤による溶出試験結果に高い相関が見られた。これは、溶出試験のばらつきが、ベッセル以後の測定のばらつきに依存することを意味し、錠剤の崩壊や溶出というベッセル内の要因ではなく、分析操作部分のばらつきが大きな要因となりうることが明らかとなった。この要因には、ベッセルから試料溶液の採取、フィルターろ過、吸光度測定までの操作が含まれている。異常に小さな溶出率を報告した一機関では、配付溶液による溶出操作でも小さな値を報告しており、試験液のろ過に使用したフィルターへの吸着が疑われた。これは前述のフィルター吸着の検討で実際に確認された。また、吸光度の測定値の比較により、分光光度計の保守が必要な事例も数例認められた。
平成13年度の溶出試験の技能試験では、比較的疎水性の高い医薬品からマレイン酸イルソグラジン錠を取り上げ、マレイン酸イルソグラジン水溶液が不安定なために標準溶液としてカフェイン水溶液を配付した。溶出率の報告値は最大20%の幅が見られ、分光光度計のバリデーション不良に起因する吸光度の異常値は2機関であり、機器や、フィルターとの関連も特に認められず、溶出率の変動原因は今後さらに検討を要すると思われた。
以上の溶出試験の技能試験結果より、溶出試験において従来はあまり着目されていなかった溶出試験器以後の測定操作部分に大きな変動要因が存在する場合があることが明らかとなった。同一試験室内における溶出試験器の変動要因としてはもっぱらベッセル内に原因を求める場合が多いが、試験室間の変動要因としてはベッセル以後の測定系にも充分な注意を払う必要があると結論された。
結論
本研究により、ベッセル内の変動要因としては試験液の脱気の影響が無視できないこと、MFの選定に当たっては、医薬品吸着の可能性を考えて慎重に対処する必要があること、溶出試験においても医薬品の定量操作に対するバリデーションが極めて重要であること等が認識され、今後の分析操作部分の精度管理用技能試験スキームの改良により、今後の医薬品監視行政に携わる試験検査機関の信頼性確保の道に資するものと考えられる。

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