医薬品基準のグローバル化と科学技術の進展を視野に入れた日本薬局方の改正と国際調和に関する研究

文献情報

文献番号
200100977A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品基準のグローバル化と科学技術の進展を視野に入れた日本薬局方の改正と国際調和に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 早川堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
  • 中村 洋(東京理科大学薬学部)
  • 松田 芳久(神戸薬科大学)
  • 青柳伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 宮田直樹(現:名古屋市立大学、旧:立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ICHにおいて医薬品の品質に関する種々のガイドラインの調和が達成され、医薬品基準のグローバル化が進む中で、薬局方の国際調和が促進されつつある。また、昨今の科学技術の飛躍的な発展の中で、日本薬局方を現在の科学技術の水準に相応しいものに改めていくための不断の努力が求められている。
本研究は、このような状況を踏まえて、日本薬局方を現在の科学技術の水準に見合うとともに、国際的に整合性をもったものとすることを目指す。
研究方法
各課題毎に研究協力者を選定し、それぞれの課題の内容に応じて専門家による研究班を組織し、必要な場合には、製薬企業側からの協力研究者の参加を求めて、研究を進めた。
結果と考察
平成13年度には、各分野において下記のような研究を行い、大きな成果を挙げることができた:
1.化学合成医薬品関連 第14改正日本薬局方に向けて化学合成医薬品各条の改正に関する検討を行う中で提起された、紫外吸収スペクトルによる確認試験における参照スペクトル法の採用、赤外吸収スペクトルによる確認試験における測定法の見直し、ならびにICHの原薬の不純物ガイドライン(Q3A)に基づいた類縁物質規格をもつ新規原薬が日本薬局方収載の俎上に上ってくる場合に備えた日本薬局方の類縁物質規格のあり方などについて検討を行った。
2.生物医薬品関連 組換え医薬品の場合、目的物質の一次構造が同じでも、異なった製法による製品が複数承認されている場合が少なくない。そのような場合、化学合成医薬品のように先発メーカーの規格に準じて日本薬局方の各条を作成することは適当ではない。そこで、ヒトインスリン(遺伝子組換え)では、既に承認されている製品の規格および試験方法について科学的に比較検討し、試験項目ごとに日本薬局方に相応しい規格および試験方法を選択し、これらを基に全体としては折衷案を作成するという方法をとった。
3.生薬関連 中国との薬局方生薬の調和に向けた研究に韓国が参加を要望し、更にアジア6カ国1地域に広がりつつある。この調和が実効をあげるためには科学的な生薬の評価が重要と考え、第14改正日本薬局方追補に収載予定の品目であるテンモンドウの確認試験法の検討を行った。本研究は、ソウル市において開催された会議において、"Quality Control and Development of Crude Drugs in Japanese Pharmacopoeia"のタイトルで紹介した。
4.理化学試験法関連 今年度は、新規試験法としては、導電率測定法を取り上げ、欧州薬局方(EP)の“Conductivity"をベースとして検討し、共同実験を経て成案を得ることができた。また、既収載の試験法の改正については、赤外吸収スペクトル測定法およびビタミンA定量法を取り上げて検討し、それぞれ成案を得ることができた。
5.物性試験法関連 かさ密度及びタップ密度測定法を日本薬局方に収載するために、EP提案の国際調和案を詳細に吟味・検討し、その結果を踏まえて第14改正日本薬局方第1追補に収載するための成案をまとめた。本研究において考案した新たなタップ密度測定法は、国際調和のStage 4案に採用されることとなった。
6.製剤試験法関連 溶出試験試験法の主要な部分はほぼ合意に達したが、溶出試験システムの適合性の検証法については合意が得られず、検討課題として残されている。米国薬局方(USP)は、カリブレータを用いたシステム適合性の検証を要求しているが、EPはメカニカルな検証で十分であるとしている。本研究では、先ず日米において、どのような溶出試験法がどの程度適用されているかを調査し、次いで溶出試験法のシステム適合性の検証に関して、USPカリブレータの有用性を検討した。
7.名称関連 医薬品の水和物の記載を取り上げ、それに関わる名称、化学名、構造式などの表記について検討を行った。その結果、水和物および無水物の名称の表記法について、日本薬局方の中で、また、EP、USPなど諸外国の薬局方との間に不整合があることが明らかになった。
結論
本研究の成果は、日本薬局方の改正作業に生かされて、平成13年4月に公布された第14改正日本薬局方に反映されるとともに、ICHやPDGなどの国際的な場において、薬局方の一般試験法や医薬品各条などの調和に関する検討が行われる際の日本側の主張に基礎を与えるものとなっている。生薬の分野では、本研究をベースとして、日本と中国との間で、薬局方生薬に関する日中国際共同研究シンポジウムを開催して中国の研究者との交流を深め、生薬の規格に関する調和を推進してきたが、この研究活動は周辺諸国の関心を呼び、WHO西太平洋地域事務所からの働きかけもあって、日・中・韓・ベトナム・シンガポール・オーストラリア・香港の6カ国1地域での薬局方調和の試みへ発展しつつある。
我が国における医薬品の承認審査や監視指導は、科学技術が急速な進展を見せ、ICHによる国際調和の動きが加速し、GMPが国内的に広く普及する中で、そのあり方が大きく変わろうとしており、日本薬局方にも検討すべき課題が次々に提起されてきている状況である。特に、現在、厚生労働省が行おうとしている薬事法改正では、我が国の承認許可制度を国際化の時代に見合ったものに改めるべく、製造承認の販売承認への切り替え、原薬の承認へのドラッグマスターファイル(DMF)制度の導入などが予定されており、日本薬局方もこれによってかなり大きな影響を受けるものと思われる。
こうした状況に的確に対処していく上で本研究の果たす役割は今後ますます大きなものとなっていくと考えられる。

公開日・更新日

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