動物実験代替法の開発と利用に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100968A
報告書区分
総括
研究課題名
動物実験代替法の開発と利用に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田英一(日本化粧品工業連合会)
  • 森本雍憲(城西大学)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては海外でのバリデーション情報を収集し、それを関連科学分野の専門家と行政担当者を含めた会議により総合的に評価する。また、適切な試験法が無いもの、あるいは既存の代替法が不十分なものについては、新たな試験法の開発あるいは既存の方法を改善するための実験的検討を行う。更に、動物実験代替法に関する欧米の情勢について調査する。
研究方法
動物実験代替法の文献的評価のための評価委員会の委員は日本動物実験代替法学会の協力を得て、光毒性試験代替法の専門家、およびICVAMでの評価に関係した者に協力を依頼した。評価会議の委員はトシキコロジー学会及び厚生労働省の担当部局の推薦を基に、毒性学者、皮膚科の臨床医師、行政関係者、および統計学の専門家に協力を依頼した。
情報収集は、いくつかのホームページを監視するとともに、EUの化粧品工業会COLIPA、米国の同様の組織CTFAより収集した。また、代替法に関するOECD会議に参画し、情報を収集した。
皮膚吸収性試験ではヘアレスラット腹部皮膚を用いた。皮膚integrity測定はTransepidermal water loss (TEWL)について検討した。皮膚損傷によるTEWL値および電気抵抗の変化を検討するため、皮膚角質層のテープstripping法および25Gの針での腹部皮膚穿刺法で皮フ損傷を作成した。皮膚透過実験はOECDガイドライン案の記載に従った。高分子を用いて人工膜を調製し、その透過性を動物皮膚と比較検討した。三次元皮膚培養細胞モデルを用いた皮膚吸収性試験においては、東洋紡製のTESTSKINのLSE-highとグンゼ製のVitrolife-Dermisの二種類を用いた。
in vitro光毒性試験においては、BALB/c 3T3とVERO細胞を用い、ニュートラルレッド取り込み法を応用した光毒性試験法(NRU PT法)およびコロニー形成法を応用した光毒性試験法(CF PT法)について光照射と非照射下で実施した。
結果と考察
1)動物実験代替法の評価:動物実験代替法情報を収集し、解析・評価を行う評価委員会およびその報告を基により広い視野で評価する評価会議と二段階評価スキームを考案した。今年度は光毒性試験代替法を評価するとし、日本動物実験代替法学会の支援を受け光毒性試験代替法およびバリデーションの専門家等から評価委員会を構築した。また、皮膚科の医師および毒性学者および厚生労働省の担当者などで評価会議を組織した。評価委員会では光毒性試験代替法について広く調査し、施設間バリデーション結果の存在する3T3細胞を用いneutral red取り込みを指標とする方法(3T3 NR法)について評価した。その結果、3T3-NR光毒性試験法はin vivo結果との対応が良く、被験物質の光毒性の有無を評価するのに有効であると思われた。しかし、データの質や再現性が明らかにはできなかった。我が国においても少数の被験物質を用いて施設間バリデーションを行い、試験法の再現性やin vivoとの対応性など、試験としての妥当性について確認する必要があると考える。現在、Dr Spielmannより詳細なバリデーション情報を入手中であり、文献で確認できなかった点について更に調査する予定である。
2)代替法を巡る国際情報:本年度は動物実験を実施した原料を配合した化粧品の販売禁止を求めるEU化粧品指令第6次改正の最終期限(2002.6.30)を目前に控え、EU化粧品指令第7次改正の動きが従来よりも活発化した。米国においても、ICCVAMを中心として代替法に関する報告書の開示とコメント募集があった。OECDでは、in vitro皮膚腐食性試験ガイドライン(430、431)案やin vitro光毒性試験ガイドライン(432)案が公開された(2002.3)。なお、ベルリンでOECDの専門委員会が開催され、in vitro皮膚腐食性試験ガイドラインが検討された(2001.10.30-31)。その結果、Rat Skin Transcutaneous Electrical Resistance Assay(TER法)及びヒト皮膚モデル(EipDerm)法について、大枠の合意ができ、それぞれのガイドライン案(430および431)が作成された。同時期に開催されたin vitro光毒性試験ガイドラインの検討では、3T3 NR法を用いたin vitroの光毒性試験ガイドライン432の案をまとめられた(2002.3.15)。急性経口毒性試験に関しては、2001年9月にEnvironmental Policy Committee(EPOC)でガイドライン 401の削除と急性経口毒性試験ガイドライン420(固定用量法)、急性経口毒性試験ガイドライ423(クラス分け法)、急性経口毒性試験ガイドライン 425(上げ下げ法)への置換に関するガイドラインが採用された(2001.12.17)。これに伴い、いままでの急性毒性試験ガイドラインが削除される。新ガイドラインでは必ずしもLD50値を求めないことから、我が国でも毒・劇物の分類にも影響がでる可能性がある。また、ストックホルムで、有害性評価のための新試験法および改訂試験法のバリデーションと行政的受け入れに関するOECD会議が開催された(2002.3.6~8)。この会議の目的は、1996年にスウェーデンのソルナで開催されたOECDの代替法のバリデーションと行政的受け入れの基準に関する会議の結果を踏まえ、行政目的のための有害性評価を目的とした試験法のバリデーションと受け入れに関する基準とそのプロセスについての実際的なガイダンスを作成することである。
3) 皮膚吸収性試験:In vivoにおいて、stripping回数に依存してTEWLは直線的に増加した。In vitroにおいてもstripping回数に依存してTEWLは増加し、TEWLを測定することで、皮膚の損傷の程度を推測できることがわかった。薬物透過性と皮膚integrityとの関係を検討したところ、stripping回数に依存して、皮膚の透過抵抗が減少した。In vivoにおいてTEWLとlog Pの間には有意な相関関係が認められ、TEWLの値からMPの透過性をある程度予測できる可能性が示唆された。なお、皮膚の損傷の程度をあらわすTEWL値と水溶性薬物の透過性との間には相関関係が認められたが、脂溶性薬物の透過性の間にはそのような関係は認められなかった。透過物質の物理化学的性質を考慮して動物種ごとにTEWL値の利用の範囲を明確にする必要がある。
検討したいずれの薬物も6K-01膜および20K-01膜を透過した。水溶性ドメインを形成すると考えられるVPEの分子量が大きくなった20K-01の膜では、6K-01膜に比べて透過のラグタイムは、短くなった。これらの膜はヒト皮膚に近い薬物透過性を示すと考えられた。また、ヒト皮膚から予測された曲線というよりはむしろ、log Kow に対してlog Pが直線となる傾向にあり、6K-01及び20K-01膜は均一な拡散膜である可能性が考えられた。そこで、よりflexibleで水溶性ドメインを形成しやすいと考えられるt-butyl methacrylate(BMA)を用いて2種類の膜を調製し、薬物の透過性を評価したが、いずれの薬物でも透過が確認されなかった。
皮膚三次元モデルであるTESTSKINおよびVitolife-Dermisで皮膚透過性を検討できた。また、界面活性剤SDSおよびBKは薬物の透過速度を変化させた。
4) in vitro光毒性試験: NRU PT法においてBALB 3T3とVERO細胞におけるPIF値を比較した場合、promethazine HClと8-MOPにおいて差が認められた。前者は非照射下におけるIC50値に10倍程度の差があるためであった。8-MOPでは光照射下においてVERO細胞の方が65倍程度強い細胞毒性を示した。しかしながら、他の薬物ではNRU PT法、CF PT法共に、細胞によりPIF値に大きな違いを示さなかった。CF PT法はNRU PT法と比較し光照射、非照射下に関わらず、IC50値は低い値を示した。また、PIF値は、細胞種によらず、CF PT法でより大きなPIF値を示し、光細胞毒性が強く検出された。
結論
代替法の文献的評価のために二段階の評価スキームを構築した。EU, 米国およびOECDでは代替法の行政的受け入れのために活発に活動している。in vitro経皮吸収試験法において皮膚のintegrityを確認する上で経皮的水分損失の測定が有用と思われた。光毒性試験代替法のエンドポイントとしてコロニー形成試験法(CF PT法)の有効性を2種の細胞種を用い、ニュートラルレッド取り込み法(NRU PT法)と比較し、両細胞で得られたPIF値は試験系に依存し、細胞種の違いに依存しなかった。

公開日・更新日

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