新しい実験動物系を利用した非臨床安全性試験及び薬理試験による医薬品の評価に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200100966A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい実験動物系を利用した非臨床安全性試験及び薬理試験による医薬品の評価に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小池 克郎(財団法人癌研究会)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋津 務(財団法人癌研究会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、医薬品開発における非臨床試験に際して、ヒトへの外挿が容易な動物種の選択、すなわち、ヒトとの類似点の多い動物種の選択が重要な鍵を握ることは言うまでもない。従って、薬物作用機序や毒性発現機構を解明する為の非臨床試験の実施に際し、動物種の選択がこれまで以上に重要な問題となっている。非齧歯類動物として、日本ではウサギあるいはイヌが第一選択肢であり、次いで、サルの順である。一方、欧米では、ヒトに類似点の多いミニブタ使用の必要性が強調され、ミニブタを用いた長期安全性試験もすでに実施され、現在では、安全性のみならず有効性の評価にも使用され始めている。さらに、医療用デバイスの評価にも使用されている。医薬品の有効性(Pharmacology)および安全性(Toxicology)について、中型実験動物としてのミニブタの使用に関する現状を調査し、試行的研究を行い、今後の使用に供するものである。 肝炎発症メカニズムについての我々の研究は、ミトコンドリアの機能障害がROSを生成させ細胞死を誘起し、主な発症原因の一つになることを示している。得られた結果に基づくと、ROS生成を伴う肝炎に対する抗炎症剤あるいは類似の作用が期待される薬剤による化学予防が考えられる。これまで、非ステロイド系抗炎症薬剤の肝機能に与える効果についての非臨床試験は、マウス、ラット、犬などで研究されてきているが、ヒトへの作用を明らかにする為には、どうしてもヒトに類似点が多い中型モデル動物、即ちミニブタの利用が不可欠である。本研究では、この為の試行的研究を目的としている。
研究方法
肝炎モデルとしてのミニブタの有用性を検討する第一段階として、四塩化炭素による肝傷害について検討した。(1)試料および実験方法:実際には種々の投与法を試行したが、ここでは、その中のいくつかの実験結果についてまとめて記載する。 投与群として体重10.7-12.0 Kgのオス8頭を用い、類似の体重のオス8頭を対照群とした。投与量は、他の動物(アカゲサル、ラット、マウス等)を用いた過去の実験報告に準じ、四塩化炭素(Corn oilに33.3 % v/v溶かして用いた)を、グループ分けしたミニブタに、150mg/Kgを一回または複数回、150mg/Kg と450mg/Kgを組み合わせて一回または複数回経口投与した。第1回投与後24時間で採血、その後7日ないし8日まで採血を行い、実験の途中および終了時に肝臓組織等を採取した。血清の蛋白質、代謝産物および酵素活性について検討するとともに肝臓の組織学的検索を行った。(2)研究対象とした項目および方法:・ 蛋白質:IgG、AFP、ALB、ZTTの量を測定した。・ 代謝産物:総胆汁酸、ヒアルロン酸、T-CHO、T-BILの量を測定した。・ 酵素活性:GOT、GPT、GGT、γ-GPT、 ALP、Ch-Eの活性を測定した。・ 組織:バイオプシーにより検討した。・ ゲノム:ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し、個体差を検討した。・ その他:体重測定等を行った。
結果と考察
ミニブタを用いたバイオプシーの技術がまだ不十分であったが、予備的な肝臓の組織学的検討の結果では、肝小葉の中心部に傷害が見られ、アカゲザル、ラット、マウス等の場合と大差はなかった。体重については、投与前と8日後に行った。一例に死亡例があったが、その他についてはとりわけ体重減少あるいは増加はみられなかった。 血清中の酵素活性の変動については、一つ一つのデータについて詳述する事は省略する。しかし、全体として明らかになった事として、GOT、GPTの変動およびGGTの活性の変動が、ヒトの場合と同様の傾向を示した。これらの結果は、肝細胞の傷害を示している。また、酵素によっては
個体間のバラツキが大きく、特に、GOTでは、投与群中の一頭が他よりもきわめて高値を示したが、この個体は6日後に死亡した。実験群と対照群でGOTおよびGPTに大きな差の認められたことから、肝臓酵素の血中への逸脱が明らかである。 今回得られた結果から判断すると、ヒトに類似点の多い中型実験動物としての、ミニブタを用いた急性肝炎モデル系が作成出来たと考えられる。即ち、急性肝傷害による酵素GOT、GPTおよびGGTの活性の変動は、ヒトやアカゲザル等と同様であった。個体差が大きいことも、ヒトに類似しており、遺伝子の多型を検討するには、格好の材料である。現在、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し、さらに、薬物代謝に関係する遺伝子の配列決定が進行している。各種の肝傷害等ついて、さらには、肝傷害に対する薬剤の改善効果を判定するのに良い実験動物系が出来たと考えられる。医薬品の安全性や有効性を検討するには、ヒトに類似した系として、非常に有効であると考えられるので、さらに継続して検討を行いたいと考えている。
結論
本研究により、ヒトに類似した中型実験動物、ミニブタを用いた急性肝炎モデルが作成出来たと考えられる。即ち、急性肝傷害による血清中の酵素、GOP、GPTおよびGGTの活性の変動は、ヒト等と同様であった。個体差が大きいことも、ヒトに類似しており、遺伝子の多型を検討するには、格好の材料である。現在、ミトコンドリアDNAの全塩基配列が決定されている。得られた成果を総合すると、肝傷害に対する薬剤の効果を判定するのに良い実験動物系が出来たと考えられる。医薬品の安全性や有効性を検討するにあたって、ヒトに類似した中型動物を用いた新しい系として非常に有効であると考えられるので、さらに継続して検討をおこない、ミニブタを用いた系をより一層開発し、広く普及したいと考えている。

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