安定供給に向けた国内外の抗毒素製剤の品質管理に関する研究

文献情報

文献番号
200100965A
報告書区分
総括
研究課題名
安定供給に向けた国内外の抗毒素製剤の品質管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 元秀(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内善信(国立感染症研究所)
  • 後藤紀久(国立感染症研究所)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
  • 大隈邦夫(化学及血清療法研究所)
  • 丸山成和(千葉県血清研究所)
  • 桑原靖(デンカ生研株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、抗毒素製剤の品質管理試験法の精度管理、適正な試験法等について国際的な協調も進む一方、ある種の製剤については地域特異性を生かして、限定した関連国間での共同研究の推進が求められている。これら製剤に対する地域標準品の制定の手始めとして、本研究班では、まむし抗毒素については日本、中国及び韓国で、統一した試験法で標準化した標品を作製することとした。また、今年度途中までの成果として、海外の抗毒素製剤の品質の評価ができたものの中にボツリヌス抗毒素がある。この製剤に関連しては、2001年の米国のバイオテロ事件を契機としたバイオテロ対策への要望および国内唯一の製造所の廃業という問題が今年度新たに生じた。このため、ボツリヌス抗毒素製剤について、バイオテロ対策としての体制整備が求められている。そこで、海外の抗毒素製剤の品質管理、需給体制を調査して得た実績を基に、本製剤について、バイオテロに備え供給体制の整備を図るとともに、品質管理された製品の製剤化を実施するための研究を緊急的に実施することを本年度新たに計画した。
研究方法
(1)ボツリヌス抗毒素の原液の確保と品質管理試験:ボツリヌス抗毒素は中国製の製剤を輸入し、国内品質管理法に準拠した項目を試験し、さらに中国国家検定機関との情報交換により、国内製剤と比較して品質に問題がないことが確認された。中国の最終製剤の剤型はアンプルであり、国内のバイアルとは異なるために医療現場では取り扱いに問題が予想される。また、ボツリヌス抗毒素の製剤化までには約1ヶ年を要するため、緊急に大量の抗毒素を必要とする場合には、海外からの輸入も困難である。したがって、製剤化の工程で血清原液、部分精製または最終製剤のどの段階で輸入することが、より高い品質のものが入手できるかを適切な品質管理試験法を用いて調査、検討し、時化的に輸入し、製造を行う。なお、製造工程におけるバリデーション等は、本研究がバイオテロを想定した緊急避難的なものであるが実際に人に投与する場合も考えられるため、十分GMPに対応したものとして検討することとする。
(2)アジア地区標準まむし抗毒素の製造と評価および標準試験法の確立:当該製剤を製造して患者の治療に使用している中国、韓国との共同でアジア地域標準品を作製し、共通の“ものさし"で品質が確認できるシステム構築のために技術的な共同研究を着手した。昨年度に中国上海生物製剤研究所に製造を委託した“アジア地域まむし抗毒素"は本年度出来上がるために、本標準品の抗出血価と抗致死価を決定する。単位決定後は、3ヶ国の国家品質管理機関の担当者と協議・配布して品質管理試験に用いることを提唱する。
(3)緊急輸入が予想される抗毒素の品質管理試験:国内で緊急対応または枯渇が予想される他製剤は、まむし抗毒素、ガスえそ抗毒素等がある。現在、これら抗毒素の入手先は中国、ロシア、フランス等が候補としてある。昨年度までと同様に、相手国の国家検定機関および製造所より、品質管理・試験方法について情報を得ながら、試験の妥当性について輸入できた製剤について品質試験する。安全性については、製剤の工程管理上最も初歩的且つ重要である細菌混入の確認ができる発熱物質試験(リムルス試験)を行う。
結果と考察
(1)ボツリヌス抗毒素の原液の確保と品質管理試験:本研究2年間の活動により海外の抗毒素製剤の品質の評価ができたものの中にボツリヌス抗毒素があった。この製剤に関連して、昨年の米国のバイオテロ事件および国内唯一の製造所の廃業という問題が生じたため、国内需給体制の再構築が必要となった。海外の抗毒素製剤の品質管理、需給体制を調査して得た実績を基に、本研究班で得られた成績では中国製のボツリヌス抗毒素の品質は国内製剤に劣らないことが確認できたため、緊急対策用として高度に免疫した馬血清または部分精製標品または最終製剤を輸入し、国内の抗毒素を永続的に確保することを目的とし検討した。具体的には、中国蘭州研究所への委託製造としてボツリヌス抗毒素の製造用の原血清を2年間で完了し、一部は国内で最終製剤として完成させる予定である。今年度はボツリヌスA,B,EおよびF型のおのおのの菌を培養し、毒素を精製後、トキソイド化と、それらウマ免疫用抗原の品質管理を終了させる予定である。最終製剤は平成14年度内の完成を予定しており、完成後はバイオテロ対応用として備蓄する。
(2)アジア地区標準まむし抗毒素の製造:日本、韓国および中国のまむし抗毒素製剤の国家品質管理試験を実施している担当と中国でまむし抗毒素を製造している上海生物制品研究所 責任者と協議して、候補品の力価含有量とその試験法を確認した。現在、予定していた力価を含む候補標準品が約4000本製造終了した。最終年度までに3ヶ国の品質試験担当者と確認した標準試験法による標準化試験を実施する。抗毒素の力価測定は、中国国内では抗致死活性しか測定していないが、日本国内の試験と同様に抗出血活性も試験することを確認している。また、得られた成績を統計学的に処理して、力価を求める方法についても共通の手法を用いるために、解析ソフトの完成を目指している。
(3)海外から入手した抗毒素製剤の品質試験:本年度はボツリヌス抗毒素を2ヶ国から入手し、主に力価試験で表示単位を確認したときに双方の試験方法に問題のないことを確認した。中国蘭州生物制品研究所から分与を受けたボツリヌス抗毒素はType A, B,EおよびF型ボツリヌス抗毒素をそれぞれ15本ずつである。剤型は各アンプル凍結乾燥品として10,000, 5,000, 5,000および5,000IU/アンプルであり、国内でも最近は製造されておらず、分与された時点で有効期限切れであった。国立感染症研究所で日本国内の生物学的製剤基準に準拠した品質試験では、すべて基準を満たした。また、当初予定していたフランス、米国で製造した製剤が入手できなかったが、ブルガリア製(National Center of Infectious and Parasitic Diseases(NCIPD))のボツリヌス抗毒素の分与を受けた。本数が限られていたため日本国内では力価試験を実施した結果、製剤の表示単位の力価が確認できた。
海外から入手した抗毒素と国内製造の製剤を較べると、ガラスアンプルの凍結乾燥品または液状品等、国内の生物学的製剤基準に合わない剤型のものも認められた。特に、液状品には防腐剤として0.25%前後のフェノールを含む製剤も見られた。
(4)抗毒素の安全性を確認する新しい試験法として、ウサギ発熱試験にエンドトキシン試験が変わり得るかを実施している。国内外の製剤を試験して得られた成績は、現行法のウサギ発熱試験で得られた結果とほぼ相関し、さらに感度、精度および再現性でも優れていることが確認できた。しかし、ある種の抗毒素製剤を用いて、エンドトキシンの添加・回収試験を実施し結果、リムルス試験に阻害作用を示す物質が含まれていることが伺われた。さらに、複数の抗毒素製剤を試験すると共に条件検討をかさね、さらには物質の特定が目標となるであろう。
(5)国内で製造されているガスえそ抗毒素は、液状品の剤型で国家買上品として用いられている。製造認可承認では液状品ばかりでなく、凍結乾燥品も許可され、生物学的製剤基準にも掲載されている。ウマ抗毒素の製造に関しては、抗原の調整、免疫、血清の精製等、時間と労力を要する。液状品から凍結乾燥品に変わることにより、有効年数が3年から10年に延長するばかりでなく、国家買上品としての事業予算を削減が可能であり、経済的効果も期待できる。また、まむし抗毒素、ガスえそ抗毒素製剤の使用実績は未確認のものが多いため、使用実績に見合った製造が必要である。本年度、作成したアンケート調査を早急に実施し、抗毒素の適正製造および有効利用を確立する。
(6)WHOから入手した海外のワクチン、抗毒素製剤に関する情報と国内製剤の情報を整理して使い易いデータベース化を進めているが、さらに海外からの緊急対応的な入手に備えてWHOから入手した情報については海外メーカー名等を再調査して、可能な限り新しいデータベースを作成するための作業を進め、来年度までに完成させ、関係機関に配付する予定である。
結論
(1) 国内でバイオテロなどにより大量に必要となり、将来、枯渇が予想されるボツリヌスウマ抗毒素製剤の緊急対応用の原液の製造を開始した。
(2)アジア地区の標準まむし抗毒素の候補品として約4,000本の製造が終了し、今後、日本、中国および韓国の国家検定機関で標準化試験を実施する。
(3)海外から入手したボツリヌスウマ抗毒素製剤と日本国内で製造した製品は、力価には大きな差は認められなかった。一方、海外の抗毒素製剤は製造工程が異なるものがあり、特に国内製剤には使われないフェノール等を含有し、国内基準に適合しないものも見られた。海外からの輸入に際しては、製剤の品質管理には留意することが示された。
(4)エンドトキシン試験は、抗毒素に含まれる恐れのある発熱物質を定量的に測定する方法として、国内生物学的製剤基準への適応の可能性が見いだされた(堀内分担研究者)。
(5)中国蘭州生物制品研究所のボツリヌスウマ抗毒素は、ウサギ発熱試験および異常毒性否定試験の結果、国内基準を満たしていることが確認された。また、ベトナムの製造施設ではGMPの導入・適応は、ほぼ終了している状況であった。国家検定機関については、研究所が移転中であり、その全貌については不明な点が多かった(後藤分担研究者)。
(6)中国蘭州生物制品研究所のボツリヌスウマ抗毒素は、国内基準に準拠した試験の無菌試験成績で適合となった。また、抗毒素の無菌性保証水準は、他の製剤に較べると低いと考えられる。今後、抗毒素製剤の国内備蓄用の政策については、医薬品GMPが施行されている海外の製造所からの輸入も検討することを推奨する(佐々木分担研究者)。
(7)ガスえそウマ抗毒素は現在液状品として製造市販されていたが、凍結乾燥品への製剤変更の可能性を見いだし、実作業への洗い直しを行った。また、同製剤の使用状況をアンケート調査として情報を収集する作業を開始した(丸山分担研究者)。
(8)蛇毒抗毒素の医療現場での使用実態は明らかでないため、アンケート調査により情報を収集することを企画し、来年度調査を具体化する(大隈分担研究者)。
(9)海外で製造している抗毒素製剤、製造所等をデーターベース化するために、WHOに掲載されている情報を整理・再確認作業を実施した(桑原分担研究者)。

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