国際的動向を視野に入れた医薬品安全性情報の電子的伝達システムに関する研究

文献情報

文献番号
200100963A
報告書区分
総括
研究課題名
国際的動向を視野に入れた医薬品安全性情報の電子的伝達システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允(財団法人医療情報システム開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 小出大介(国際医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の安全性確保のため、国内外で発生した医薬品安全性報告を早期に入手することが求められており、それには情報通信技術に基づいた手段が有用である。本研究では、国内における医薬品安全性報告の作成、伝達、蓄積、利用という一連の過程を電子的に行うための枠組み、すなわち安全性報告電子的伝達システムを実現することを目的として、安全性報告のデータ項目と電子様式の国内標準を確立する。研究成果とする安全性報告の国内標準は、データ項目の意味内容の解釈から電子的形式まで厳密な定義がなされ、ただちに国内報告制度への適用が可能であるものとする。国内標準は、国際的標準との整合性を保つことが必須であることから、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)による安全性報告標準に準拠するものとする。
本研究は3年間に渡り実施する計画であり、小規模、中規模、大規模の三段階にわたる実証実験を通じて、安全性報告標準の確立を目指すものである。本年度はその2年目として製薬企業20社の参加協力を得て中規模実験を実施した。本実験の目的は、安全性報告のデータ項目を定義するICH E2Bガイドラインについて解釈の曖昧なところ、記入方法が不明確な部分など、問題点を抽出し、これに対する対策として解説書を作成すること、および電子伝達に関わる国内仕様を確定することである。
研究方法
本研究では3年間を通じて小規模実験、中規模実験(前期と後期)、および大規模実験の3段階で実験を実施している。本年度はICH E2Bに準拠した安全性報告作成にあたっての問題点を検討し補足解説書を作成すること、および国内電子伝達仕様を確定することを目的として、中規模実験(後期)を実施した。実施にあたり日本製薬工業協会より20社の参加協力を得た。模擬症例として10例のデータを作成し、これを参加20社に3例ずつランダムに割り付け、計60件のテスト用安全性報告を作成した。安全性報告はICH M2電子交換書式に基づいて用意した。電子交換書式はSGMLのDTD(文書型定義)として定義されており、これに基づいて作成された安全性報告はインスタンスとよばれる。E2Bガイドラインではデータ項目の解釈に曖昧さの残る部分があるため、事前に安全性報告作成の手引きを作成し、これを参加者に配布した。参加者が作成した安全性報告のインスタンスを、事前に作成した「標準インスタンス(見本解答に相当)」と比較し、相違に関する分類と原因分析を行った。この結果に基づいてE2Bガイドライン補足解説書を作成した。
なお、安全性報告の基本仕様としては、ICH E2BガイドラインとICH M2安全性報告仕様書を用いた。
結果と考察
伝送実験は2001年8月に実施した。作成された20社60件のテスト用安全性報告(インスタンス)について受信後のエラー状況を調べたところ、20社60件のうち8社24件にエラーが見られた(企業数、報告件数ともエラー率40%)。エラー内容は構文エラーが4社11件、値に関するエラーが5社13件であった。参加企業における入力用ソフトウェアの利用状況をみると、利用されたソフトウェア製品はA, B, Cの3種類で、参加20社のうち15社がいずれかを利用し、5社は全く利用していなかった。エラーのあった8社のうち、4社はソフトウェアを利用しており(すべて同一製品)、残り4社は利用していなかった。確認応答が生成されたのはエラーのあった24件中の15件である。
エラーのなかった12社からの36報告を評価対象として内容の評価を行った。36報告に含まれる項目総数は25,236個で、これを事前に用意した「標準インスタンス」と比較して、「①情報が一致している場合」、「②情報が多く記入されている場合」、「③情報が欠落している場合」、「④情報が不一致の場合」に分類したところ、①は19,922(78.9%)個、②は1,099個、③は1,660個、④は2,555個となった。標準インスタンスに比べて「情報が多い」例としては、生年月日、副作用発現日が判明している場合に年齢を入力する等、記入が不要な場合の入力や、値が不明の場合に"0"を記入する等である。「情報が欠落している」例としては「B.3 臨床検査値」や「B.1.7 関連する治療歴および随伴状態(原疾患、合併症、併用療法)」等で、「情報が不一致」の例としては臨床検査値の単位、MedDRA使用フィールドでのLLTなどである。昨年度実施した中規模テスト(前期)では情報一致率が約40%であり、中規模テスト(後期)で79%まで上昇したことは「実験の手引書」の成果であると考えられる。また「標準インスタンス」についても改善がなされており、今回の実験結果に基づいた手引書の改訂により、大規模テストにおいては情報一致率がさらに向上し問題点の検出は少なくなることが予想される。
実験用に作成した手引書に基づいて、解釈に違いの生じ易い項目、煩雑なため記入方法がわかりにくい項目、入力上での注意事項など全項目にわたって検討し、E2Bガイドラインの解説書を作成した(資料1として研究報告書に添付)。本解説書は次年度予定している大規模テストの結果に基づいて、さらに改訂をはかる予定である。
実験ではソフトウェア製品を利用している場合でもエラーが生じているが、その理由の一つとして電子仕様の不明確さがあったと考えられる。ICH M2仕様書では各データ項目について、長さ、書式、コード化法などの属性を定義しているが英語を想定しているため、日本語を利用する場合に曖昧さが生じた。そこでM2仕様書で定義される項目属性に対し日本語対応の補足事項を定義した(資料2として研究報告書に添付)。さらにM2仕様書では安全性報告の伝送に対する確認応答の基本仕様が定義されているが、詳細は実装段階の定義に委ねられている。そこで今回の実験結果を踏まえて国内確認応答仕様(案)を作成した。
欧州、米国ではそれぞれ安全性報告の電子交換パイロットが実施されているが具体的仕様の詳細は明らかではない。いかに標準を策定しようとも長い年月の間には地域間に差異が生じ国際的互換性に問題が生じてくる。また我が国では電子申請のための政府認証基盤の整備が進みつつあるが、海外との交換では認証方式はどのようなものとなるのか明らかではない。そこで次年度の研究計画では欧米の研究者との共同研究により国際的互換性を支援することを目的として、地域間の差異に関する調査、M2仕様の現時点での再評価、最新の電子交換技術に関する評価等を実施する計画である。さらに、これまでの研究では製薬企業から規制当局への伝達の場合に限って仕様の検討を進めてきたが、次年度は医療機関からの研究協力者を得て、既存の医療機関向けネットワークシステムの利用など医療機関を含む国内安全性報告電子伝達方式について検討する予定である。
結論
国内における安全性報告の電子伝達システムを実現するため、実証実験を通じて実装段階の標準仕様を中心として検討した。今年度は20社の製薬企業より参加協力を得て、中規模程度の安全性報告伝送実験を実施した。本年度の中規模実験後期では、実験参加企業で作成された安全性報告(インスタンス)と標準インスタンスとの一致度は中規模実験前期の40%から79%に上昇した。このことから、「実験手引書」や「標準インスタンス」は、より完成度の高いものとなったと考えられる。また本実験を通じて、実装上の様々な問題点が具体的に明らかとなり、これに基づいて国際標準仕様で定義されていない細部に渡り、実用に即した仕様定義を行うことができた。
今年度の研究成果を踏まえて、次年度は大規模実験を実施する予定である。大規模実験では多数の実験参加者を得て、開発してきた安全性報告電子的伝達に関わる仕様の完成度を高め、信頼性の高い実装仕様を最終的に確立する。さらに欧米の研究者との共同研究により国際的互換性を支援することを目的として、地域間の差異に関する調査、M2勧告の現時点での再評価、最新電子データ交換技術に関する評価等を実施する計画である。さらに医療機関からの直接報告の場合について、既存の医療用ネットワークを利用した電子伝達方式等について検討を行う予定である。
本研究の成果は、国内医薬品安全性報告電子伝達システムの基盤となるものであり、行政における医薬品の安全対策に、また国際的な安全性情報の共有化に貢献するものと考える。

公開日・更新日

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