医薬品製剤原料の品質保証に関する研究

文献情報

文献番号
200100960A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品製剤原料の品質保証に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 敏史(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
研究分担者(所属機関)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 谷本剛(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 綱川延孝(日本医薬品添加剤協会)
  • 木嶋敬二(日本医薬品添加剤協会)
  • 武田豊彦(新潟鉄工所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
以下、各分担研究報告について、研究要旨への記述順に述べる。
1. 不純物プロファイルの確立と同等性評価ICH/-5で三極合意された原薬GMPガイドには、不純物プロファイルによる原薬及び中間体(API)の製造工程管理の重要性が明記されており、化学合成法により製造されるすべての原薬が対象となる。従来、不純物プロファイルに基づく製造工程管理の概念が確立していなかったことから、本ガイドの運用にあたっては不純物プロファイルに基づく製造工程管理につき、基準的な考え方の提示が求められている。そこで、原薬GMPガイドの円滑な運用に資する目的で、昨年度までの本研究において「基準不純物プロファイルを設定するための基本的要件及び方法(案)」及び「不純物プロファイルの同等性評価基準(案)」を示した。本年度は、この試案に対する薬業界へのアンケート調査を行い、その結果及び「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」等を参考にして最終的な「基準不純物プロファイル設定のための基本的要件及び方法」及び「不純物プロファイルの同等性評価基準」を作成することとした。
2. 医薬品添加剤GMP
医薬品添加剤GMP自主基準(薬添GMP)の作成、その普及・支援のためのワークショップなどを開催してきたが、薬添GMPのより一層の普及と医薬品添加剤の製造管理技術の向上を目的として、これまでに出された疑問・意見等を整理し、Q&A集の作成を行うこととした。
また、薬添GMP実施状況についての第三者機関による審査制度を整備するため、適切な組織及び制度についての検討を行い、その運用に係わる諸規程類の整備を図ることを目的とする。
3.原薬及び医薬品添加剤の製造管理
現在わが国では、原薬と医薬品添加剤工場のGMPハードに関しては、医薬品GMPハード(薬局等構造設備規則)及び医薬品添加剤GMPハードの自主基準が公布又は公表されている。これらの規則又は基準はいずれも抽象的であることから、より具体的な指針及び事例を示すことが求められている。そこで原薬、医薬品添加剤工場のGMPハード対応に関する指針を作成することとした。
研究方法
1. 不純物プロファイルの確立と同等性評価
原薬の不純物プロファイルの確立に関する企業側の考え方、不純物プロファイルによる製造工程管理の実態、「不純物プロファイルの同等性評価基準(案)」(H12年度作成)に対する意見などをアンケート方式で調査することとした。このアンケート結果、不純物ガイドライン(ICH/Q3A)及びFDA/BACPAC I 等の議論を踏まえて、既存薬に対する不純物プロファイルに基づく製造工程管理等のあり方を考察し、「基準不純物プロファイル設定のための基本的要件及び方法」と「不純物プロファイルの同等性評価基準」を作成する。
2. 医薬品添加剤GMP
2.1医薬品添加剤GMP自主基準(1998)作成後、その普及・支援活動を行ってきたが、それらの活動の中で出された種々の疑問・意見等に対して、適切な回答が文書としてだされていなかったことから、その後の活動(医薬品添加剤メーカーの製造品目調査、IPEC-AmericasのGMP(2001)調査、医薬品添加剤の異物管理調査、医薬品添加剤製造工場調査)も踏まえて、Q&A形式でまとめることとした。
2.2 薬添GMPの実施状況について、第3者機関による審査制度を設ける必要があるとの認識から、日本食品添加物協会の認定制度及びISOの認定制度について詳細に検討し、審査制度あり方及び必要な組織と相互の関連等を明確にし、制度の運用にあたって必要となる諸規定類の整備を行うこととした。
3. GMPハード
GMPハード関連の実務者によるワーキンググループ(WG)を組織し「原薬、医薬品添加剤工場のGMPハード対応に関する指針」の原案を作成する。そこで作成された原案について、日薬連、原薬工、薬添協及び製機研の各GMP委員会の関係者による合同検討会の場で再検討し、原案の修正を行い、最終案とする。原案の作成にあたって、医薬品添加剤GMPハード自主基準、ICH/「原薬GMPガイドライン」、ISPE のGMPハード対応ガイド「BASELINE」を参考とした。
結果と考察
研究結果=
1. 不純物プロファイル
1.1 アンケート調査
既存原薬での不純物プロファイルに基づく製造工程管理等のあり方、対処方法、昨年度の本研究で提示した「基準不純物プロファイル設定のための基本的要件及び方法(案)」及び「不純物プロファイルの同等性評価基準(案)」への意見等について、合計120社からの回答が得られた。アンケート結果は設問ごとに、無回答の企業を除いて、主として東西及び原薬工の2群に分けて整理し、解析を試みた。詳細は、分担研究報告書及び添付資料を参照されたい。
1.2 不純物プロファイル作成の基本的要件
不純物プロファイルを確立すべき対象(類縁物質、残留溶媒、無機化合物)として何を考えるべきか、必要ロット数をどう考えるか、分析法の選択と要求される分析精度又は検出レベルはどの程度か、検出された不純物に対する同定の必要性等につき、回答を求めた。
昨年度提案した(案)に対して変更の必要があると考えられた項は、基準となる不純物プロファイルの確立に必要なロット数の項であり、不純物プロファイルが製造工程管理だけでなく変更管理にも用いられること及びFDA/BACPACIでは「代表的な連続する3ロット又はそれ以上のロット」に改められたことを考慮し、BACPACに整合させることが妥当と考えられた。
(案)に対しての主要な変更点は「必要ロット数」であるが、その他若干の見直しを行い、「基準不純物プロファイルを設定するための基本的要件及び方法」を定めることができた。
1.3 不純物プロファイルの同等性評価
不純物プロファイルに基づく製造工程管理においては、例えば、製法変更があった被験原薬のプロファイルが基準となるプロファイルに一致しているのか否か、何をもって判断するのか、基準となる考え方を示す必要があることから、昨年度の報告で「不純物プロファイルの同等性評価基準(案)」を提案した。この(案)が医薬品の製造現場からみて妥当なものであるかにつき、いくつかの視点からの設問を作成し、回答を求めた。
アンケート結果及びICH/(Q3A)の不純物ガイドラインを踏まえ、①不純物総量に基づく同等性評価は行わない、②規格値に基づく同等性評価は原則として行わない。ただし、ICH/の不純物ガイドラインに基づいて不純物規格が設定されている原薬は除くことを明記する。また、新規不純物に対する同等性評価基準については、ICH/(Q3A)の不純物ガイドラインが改められる予定であることから、「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」に規定された安全性確認の閾値以下のとき、新規不純物に関する不純物プロファイルは同等と判定する。」のように具体的数値を示すことなく規定する方が適切であると考え、(案)における具体的な数値規定を削除することとした。
2. 医薬品添加剤GMP
2.1薬添GMPに関するQ&A
医薬品添加剤製造管理者の資格の問題。また、添加剤メーカーは医薬品用の添加剤だけでなく、食品添加物、化粧品原料又は一般工業用化学物質などをマルチに生産していることから、すべての製品に対し薬添GMPを適用できないとの特殊事情をかかえていることに由来する質問も多数あり、一定の条件が満たされるなら、柔軟に対応することで問題ないとの見解を示した。一方、GMPによる製造管理を「異物管理を重点に実施すればよいか」という質問のほか、異物の分類又は管理基準の存在についてなど、異物に関する質問は多数あり、関心の大きさが窺われた。その他、薬添GMPの実施にあたっての様々な課題(基準のレベル、ラベル表示、不純物、ロットの定義、文書類の作成にあたっての優先順位、委受託における取り決め事項、バリデーション等に関する質問が多数寄せられ、それぞれに対して懇切な回答を示した。
2.2 審査制度
薬添GMPは平成10年度に作成され、その後現在に至るまで試行段階にあるが、実施体制を着実に整備している企業と未だ整備できていない企業との間に2極分化が進行しつつあり、より一層の普及・促進のためには、従来までとは異なる方策が求められていた。一つの打開策として、第三者機関により自主基準の実施状況の審査を行い、受審企業に対して受審証明書を発行し、ユーザーからの求めがあれば審査結果を開示するという仕組み「審査制度」をスタートさせることとした。
IPEC-Americaの監査制度、日本食品添加物協会の認定制度及びISOの認定制度を参考にして、分担研究報告中に別図で示されるような審査の仕組みを考え、この制度の運用に当たって必要となる審査制度管理規程等、9種類の諸規程、諸規則を整備した。
3. GMPハード
平成13年度は「原薬、医薬品添加剤工場のGMPハード対応に関する指針」を作成した。本指針においては、原薬および医薬品添加剤の製造工場の新設、増設および改造に際しての共通する課題である「汚染防止」、「適格性評価(Qualification)」等の一般的事項といずれの工場にも共通する「建物」、「空調」、「製造用水」、「その他のユーティリティー」、「電気」、「計装・制御」等の個別的事項に分けて記載することとした。なお、本指針は原薬の製造を想定して記載しているが、医薬品添加剤の製造管理に際しても、そのGMPハード対応については本指針が参考となる。
考 察=
1. 不純物プロファイルの確立と同等性評価アンケート調査によれば、製造工程管理に不純物プロファイルを適用している例が現状においても少数ながらあるが、大勢としてはこれからの課題である。製造工程管理に不純物プロファイルを適用するには、まず各原薬の基準不純物プロファイルの確立から始めなければならないが、製造頻度も考慮すると短期間に多数の原薬について、それぞれの不純物プロファイルを確立するわけにはいかない。各企業において優先順位を定め、順位の高いものから順次対応する必要がある。行政側としては、不純物プロファイルによる製造管理体制の構築には相当の時間を要することを考慮しての柔軟な運用が求められる。一方、製造者側にあっては、同等性評価基準に従って「同等である」と判定できなかった場合、同等と判定できなかった原因を明らかにし、対応策を講じることが肝要となる。製造工程の変更があった場合、不純物プロファイルの変化することは容易に予測できるが、この場合は新製法による新たな基準不純物プロファイルの確立が必要になる。新たな基準不純物プロファイルにおいて、従来のプロファイルで認められていた既知不純物については従前のレベルでの管理が望ましく、新規不純物には不純物ガイドライン(ICH/Q3A)の基準に基づいた対応が必要と考えられる。
2. 医薬品添加剤GMP
2.1 薬添GMPに関するQ&A
自主基準として作成した薬添GMPに関して現場からの問題点がいくつか指摘されており、これに対して文書で回答することにより、より一層理解が深まるものと考えられることから、Q&A形式でこれらをまとめた。なお、バリデーション基準の作成も要望されているが、これについては今後の課題とされている。しかし、本研究によるQ&A集は今後の医薬品添加剤の製造管理及品質管理のレベルアップのために活用されることが期待される。
2.2 審査制度
薬添GMPのより一層の普及・促進を図るために、IPEC-Americasの監査制度等を参考にして新たに審査制度を導入することとした。この制度の運用にあたって必要となる諸規定・諸規則等、基本的な文書類を整備した。この制度を実施に移すためには、メーカーおよびユーザーなど関係者との十分な協議・検討が必要であり、審査員の養成等、実施に向けては十分な準備期間と体制整備が必要と思われる。
3. GMPハード
「原薬、医薬品添加剤工場のGMPハード対応に関する指針」は、原薬を中心に記述しているが、医薬品添加剤の製造工場においても同様のGMPハード対応が必要となる。しかし、医薬品添加剤GMP自主基準の普及はこれからの課題であるのが現状であることから、医薬品添加剤工場において本指針を参考としてもらうためには、Q&Aの作成等、普及のための一層の努力が必要と思われる。本指針に添付したアンケート調査結果からもわかるとおり、GMPハード対応については、従来まとまった解説、事例等がなかったこと、すべての企業が同じようには対応しきれないことから、個別企業の対応には過不足が見られるのが現状である。本指針では、個別企業がGMPハードについて、適切・円滑に対応できるように、その考え方を具体的に解説し、多くの選択肢を提示している。
結論
1. 不純物プロファイルの確立と同等性評価
原薬GMPガイドラインにおける不純物プロファイルによる製造工程管理等を円滑に実施するために「基準不純物プロファイルを設定するための基本的要件及方法」及び「不純物プロファイルの同等性評価基準」を作成するとともに、不純物プロファイルの同等性判定手順を示した。
2. 医薬品添加剤GMP
薬添GMPの策定後、説明会の開催、異物発生状況調査、「適正評価のためのガイドブック」などの作成作業を行ってきた。本年度は、IPEC-GMP(2001)及び医薬品添加剤工場に対する調査等を踏まえて、薬添GMPのQ&A集を作成した。また、自主基準の実施状況の審査を第3者機関により行うことが、メーカー及ユーザーの双方にとって有益であり、その普及・促進が期待できることから、審査制度の概要を定め、運用にあたって必要となる諸規定等の整備を行った。
3. GMPハード
「原薬・医薬品添加剤工場のGMPハード対応に関する指針」を作成した。本指針は、原薬、医薬品添加剤工場のGMPハード対応について、初めてまとまった解説・事例集であることから、関係者にとって有益かつ貴重な参考資料として役立つものと思われる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-