医薬品等の副作用又は医療用具の不具合情報の収集及び活用に関する研究

文献情報

文献番号
200100958A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の副作用又は医療用具の不具合情報の収集及び活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中野 達也(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本直樹(東京医科歯科大学医学部微生物学教室)
  • 杉山雄一(東京大学薬学部製剤設計学教室)
  • 佐藤均(昭和大学薬学部臨床分子薬品学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、国内で公開されているインターネット上の厳選された関連情報サイトを探索し、それらで提供されている情報を、一般あるいは関係者だけに、提供するシステムを開発することを第一の目的とした。この研究と並行して、医薬品の副作用や相互作用に関する分子構造に基づく解析や予測の基盤整備を指向した研究を進めることとした。そのために従来は印刷物にとどまっていた、わが国で一般名が付けられた殆ど全ての医薬品に関する名称と構造の基本情報をディジタル化し、これをさらにデータベースとして開発することにした。また、薬物の副作用や相互作用を分子レベルの知見から解析予測するために、代表的な薬物代謝酵素であるチトクロームP450と薬物との相互作用に関するデータベースを開発することとした。さらに、これらの薬物が標的とする生体内の受容体と薬物との結合をシミュレートするコンピュータシステムを検討することとした。
研究方法
検索エンジンの開発に関してはWeb上にある、国外国内の信頼のおけるサイトを厳選し、これらのサイトが提供している情報を、検索エンジンを用いて自動的に収集するシステムを開発する。医薬品の一般名と構造データベースの開発については、一般名、構造式、化学名、分子式、分子量、CAS登録番号などの項目についてデータベースを作成し、インターネットで公開する。チトクロームP450が関与する薬物間相互作用について反応速度論的なパラメータを集めたデータベースを開発する。受容体の一つであるエストロゲン受容体と医薬品を含む各種のリガンドとの結合性を新しく開発している分子計算手法(非経験的フラグメントMO法)を用いて検討する。マイクロアレイやSAGEによって得られる包括的遺伝子発現プロファイルから、シグナリングパスウェイに関する新知見を引き出すための新しいデータ解析法を確立し、その信頼性についての評価を実験によって行う。
結果と考察
副作用を含む医薬品の有用サイトを対象とした情報収集と提供システムを、http://www.nihs.go.jp/dig/searchengine.html で公開した。我が国で承認された医薬品の一般名称(JAN)のデータベースをhttp://moldb.nihs.go.jp/jan/ で公開した。今後JANに掲載される医薬品の構造式及び化学名をJP14のルールに従ったものに改訂していく必要がある。薬物代謝酵素P450による薬物相互作用データベースのプロトタイプを作成した( http://moldb.nihs.go.jp/cyp/ )。これについては現在公開準備中である。構造活性解析に関しては、線解析の構造が公表されているエストロゲン受容体に関して、非経験的フラグメントMO法による結合エネルギーと、実験から得られた結合能とを比較し、高い相関を得た。遺伝子発現プロファイルからより有益な情報を引き出すために新しいデータ解析法を考案し、この解析法をEBERs発現細胞・コントロール細胞に対するSAGEデータに対して適用した。まずEBERs発現細胞とコントロール細胞の遺伝子発現プロファイルを比較し、EBERs発現細胞とコントロール細胞で発現が亢進していた遺伝子を上位から50ずつ抽出した。次にそれぞれの遺伝子のプロモーター配列をヒトゲノム配列データベースから抽出し,それぞれの配列にどのような転写因子結合モチーフが含まれているかを調べた。EBERs発現細胞とコントロール細胞で現れる転写因子結合モチーフを整理したところ,EBERs発現細胞では転写因子Paxファミリーと,それとは別の転写因子ファミリー(転写因子(A)とする)が特異的に活性化されていることが推察された。
結論
1990
年代の生物医学研究は、二つの大波に洗われた。最初の波は1994年頃から湧き上がったインターネット・ウエブ革命であり、第二の大波が2000年6月にピークに達したヒトゲノム解析計画の進展である。本研究の第一の目標は、インターネット上にある医薬品の副作用を含む有用情報を調査し、これに独自の情報コンテンツを加えた情報提供システムを構築することであったが、これはまさに第一の波によって生まれた課題であった。また、医薬品と標的との結合とそれが引き金になる生体反応の分子レベルでの精密な記述は、いわゆるゲノム創薬やポスト・ゲノム時代の医薬品研究の基盤であり、ゲノム革命の申し子である。この意味で、本研究の第二の課題は、ゲノム解析計画の進歩と軌を一にしている。ただ、ゲノム創薬やSNPsなどポストゲノム研究には、大きな研究費が投じられている割りには、本研究で取り上げた、医薬品基本情報の電子化や上市後の情報の活用、標的の同定や薬物が標的に結合した後の信号の流れなどに関しては、まだ関心が低く、残念ながら研究費も少ない。本研究の意義は、医薬品研究の歴史的な転換点において、昨日よりは明日の課題に焦点を合わせたことにある。その証拠には、本研究は、その途中で多くの協力者がでてきたことである。本件研究で残された課題は、こうした協力者の参加をえて、よりスケールを大きくして取り組むべきであろう。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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