タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価

文献情報

文献番号
200100955A
報告書区分
総括
研究課題名
タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
若林 敬二(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川森俊人(国立がんセンター研究所)
  • 多田敦子(国立がんセンター研究所)
  • 高村岳樹(国立がんセンター研究所)
  • 遠藤治(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳がん、精巣がん等の発生に環境中の内分泌撹乱物質が関与していることが示唆されている。更に、内分泌撹乱作用を示すダイオキシン等の化合物は生物濃縮が起こりやすく、大きな社会問題になっている。ダイオキシン類は食物、大気、水及び土壌中より検出されており、そのヒト曝露量は大都市地域で 0.52-3.53 pgTEQ/kg/day と報告されている。ダイオキシン類の大きな発生原因の一つとして、ゴミの焼却炉における加熱反応が関与していることが指摘されている。
一方、我々のより身近な生活環境で、加熱反応が係っているものとしては、喫煙や加熱調理食品が挙げられる。タバコの煙は喫煙者に直接摂取される主流煙と空気中に拡散する副流煙があり、両者の煙ともニトロソアミン類、多環性芳香族炭化水素化合物等の発がん物質が含まれている。又、焼肉、焼魚等に代表される加熱調理食品にもヘテロサイクリックアミン(HCAs)等の発がん物質が存在していることが報告されている。しかしながら、タバコの煙及び加熱食品中のダイオキシン類の広範な分析研究は未だ行われておらず、正確な定量値の報告はほとんどない。
本研究においては、日常生活に密着した加熱食品中のダイオキシン類の定量を行い、生活環境中に存在しているダイオキシン類の由来を正確に把握し、それらのヒト健康に及ぼす影響を評価することを目的とする。また環境中にはダイオキシンやPCB類と同様な毒性を有する未知化合物が多く存在しているものと推定される。そこで、ダイオキシンと同様にヒトアリルハイドロカーボンレセプター(AhR)を介した系での内分泌撹乱作用を示す化合物についても本研究の対象とする。以上の研究から得られる成果は、公衆衛生学的見地より重要な基礎的研究資料となるばかりでなく、ダイオキシン類等の内分泌撹乱物質のヒト曝露量のバックグラウンドを知る上で貴重なデータになるものと思われる。
研究方法
昨年度までに加熱食品中のダイオキシン類の定量法の開発をおこなったので、同方法を用いて加熱調理前および加熱調理後の食品中のダイオキシン類の定量をおこなった。すなわち、国産の豚、鶏肉およびベーコン100 gを生肉のまま、あるいはフライパンを用いて強火で加熱し、加熱肉と加熱時流出油に分けてそれら画分に含まれるダイオキシン類の定量を行った。
また、加熱調理後新たに生成するダイオキシン様作用を示す化合物を検索することを目的として、変異・がん原性物質として知られているヘテロサイクリックアミンのヒトアリルハイドロカーボンレセプターを介した転写活性化能について調べた。
結果と考察
1)加熱調理前および加熱調理後の食品中のダイオキシン類の定量
前回までに国産の牛肉100 gを生肉のまま、あるいはフライパンを用いて強火で加熱し、加熱肉と加熱時流出油に分けて、夫々の試料中のダイオキシン類を測定した。今回は前回に引き続き、豚肉、鶏肉、ベーコンについて生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDFの濃度をGC-SIMSを用いて測定した。
豚肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~160 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~180 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~160 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ1.5 pg-TEQ/g、0.54 pg-TEQ/g、0.22 pg-TEQ/gと算出された。これらの値は別の前処理法の結果から豚肉のロットによっては約十分の一の値を示すものもあることがわかった。しかし、いずれの場合も、H7CDDsやO8CDDの加熱による増加、2,3,4,7,8-P5CDFなどの加熱調理による減少が明らかになった。これは加熱により低塩素化合物から高塩素化合物へ変化した可能性が考えられるため、このような化学変化が起きうるか十分な検討が必要と思われる。
一方で、焼肉と流出油の合わせた総TEQ値は生肉のモノより減少していることから、毒性の強いダイオキシン類の減少が顕著である事がわかった。
鶏肉についても同様に検討したところ、鶏肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~11 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~9.2 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~7.5 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ2.2 pg-TEQ/g、1.4 pg-TEQ/g、0.3 pg-TEQ/gと算出された。鶏肉の場合、加熱調理後のダイオキシン類はT4CDDs, H6CDDs, P5CDFs, H6CDFs以外は全て増加した。異性体別に見るとO8CDDの増加が顕著であった。しかしながら、TEQ値は減少していることから毒性の強いダイオキシン類の増加は認められず、むしろ減少していることが明らかになった。
ベーコンについては、生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~100 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~61 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~62 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ12 pg-TEQ/g、4.4 pg-TEQ/g、4.2 pg-TEQ/gと算出された。ベーコンについては、加熱調理における大幅なダイオキシン類の生成は観察されなかったが、O8CDFについては加熱調理後、生肉にくらべて増加する傾向にあった。総TEQ値はこの場合も減少した。
これまでの報告で、ヒト(日本人)が1日のうちに摂取するダイオキシン量は0.26~3.26 pg/kgbw/dayとされている(ダイオキシンリスク評価検討報告書 平成9年5月)。このうち肉・卵から摂取する割合は全体の約20%であることが知られている。前回までに得られた結果では、牛肉の毒性評価値は調理前で0.47 pg-TEQ/g、調理後で0.35 pg-TEQ/g であった。また豚肉では総TEQ値はそれぞれ1.5 pg-TEQ/g、0.76 pg-TEQ/g、鶏肉では2.2 pg-TEQ/g、1.7 pg-TEQ/g、ベーコンではそれぞれ12 pg-TEQ/g、8.6 pg-TEQ/g であった。いずれの場合も加熱調理によりダイオキシン類が減少することが明らかになった。また、加熱調理後は油にダイオキシン類が流出するため、加熱肉のTEQ値は、生肉に比較して約30%程度減少していることが分かった。このことから、加熱調理により、ヒトは、平均的には生肉からのダイオキシン摂取推定量よりも、低い値のダイオキシン量を摂取していることになるが、豚肉に見られるようなロット間のばらつきが多い場合もあり、今後の評価に関しては十分な検討が必要である。
2)環境中の新規内分泌撹乱作用物質の検索
焼き肉や焼き魚などには変異・がん原性を示す化合物群HCAsが含まれている。今回これらの化合物二十種類のAhRに対する転写活性化能を、AhR並びに転写活性因子として_-galactosidaseを発現させた酵母(YCM3)を用いて調べた。多くの化合物は試験した範囲内では転写活性化能を示さなかったがA_C並びにMeA_CはAhRに結合し転写活性化することが示された。
このように加熱調理することによりダイオキシンのみでなく、ダイオキシン様作用が推察される化合物も生成することが明らかになった。A_C並びにMeA_Cはダイオキシン類に比べるとそのAhRを介した転写活性化能は低いことが予想されるが、他の活性の高い化合物も生成している可能性があるため、今後の検討が、更に必要である。
結論
1)豚肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~160 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~180 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~160 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ1.5 pg-TEQ/g、0.54 pg-TEQ/g、0.22 pg-TEQ/gと算出された。
2)鶏肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~11 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~9.5 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~7.2 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ2.2 pg-TEQ/g、1.4 pg-TEQ/g、0.3 pg-TEQ/gと算出された。
3)ベーコンの生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.~100 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.~61 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:N.D.~62 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ12 pg-TEQ/g、4.4 pg-TEQ/g、4.2 pg-TEQ/gと算出された。
4)焼き肉や焼き魚などには変異・がん原性を示す化合物群HCAsが含まれているが、その中でA_C並びにMeA_CはAhRに結合し転写活性化することが示された。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)