生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究

文献情報

文献番号
200100950A
報告書区分
総括
研究課題名
生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
松木 容彦((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 斉藤貢一(埼玉県衛生研究所)
  • 安生孝子((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
  • 前田昌子(昭和大学・薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンによるヒトでの曝露実態の解析や曝露推移状況の把握は行政上、も急務とされ、従来のGC/MS法に代わる安価でかつ迅速なダイオキシンのスクリーニングまたはモニタリング法の開発が強く望まれている。本研究ではダイオキシンのポリクローナルまたはモノクローナル抗体の作製を行い、これらを用いてヒトの生体試料(母乳、血液、脂肪等)中のダイオキシンの簡便でかつ高感度な酵素免疫測定法(ELISA)を確立し、ヒトや動物での経日的あるいは経年的体内曝露推移のモニタリングあるいはダイオキシンによる環境汚染状況調査に資することを目的としている。
本年度は、ヒト試料に加え、さらに土壌およびハウスダストに含まれるダイオキシンに着目し、簡易なクリーンアップ法ならびに先に確立したELISAの実用性の確認を行うことに焦点を当てた。
研究方法
1.国外入手ポリクローナル抗体を用いるELISAにおける母乳、ハウスダストおよび土壌中ダイオキシンの簡易クリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討:1)母乳試料:多層シリカカートリッジを用いての PCDD/Fsと Co-PCBsの溶出パターン、脂肪最大負荷量の検討、多層シリカカートリッジ-アルミナカートリッジの2段カラムの有用性について検討した。また、確立した簡易クリーンアップ操作により母乳中ダイオキシンをELISAにより測定し、GC/MS法と比較した。 2)ハウスダストおよび土壌試料:ハウスダストについて高速溶媒抽出法(ASE)とソックスレー抽出法との比較ならびにELISAの実用性について調べた。一方、土壌試料については、ELISAにおけるソックスレー抽出-多層シリカゲルカラムの一連の簡易クリーンアップ操作確立とその実用性について検討した。
2.モノクローナル抗体を用いるELISAにおける簡易クリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討: 1)母乳試料の簡易クリーンアップの確立と実用性についての検討:脂肪をアルカリおよび酸分解処理後、新規開発の固相カートリッジによる抽出とその実用性についてGC/MSとの比較を行った。また、イムノアフィニティー抽出法の有用性について調べた。 2)臭素化ダイオキシンハプテンの合成:2,3,7-トリブロモジベンゾ-p-ダイオキシンハプテン分子の母核にし、C-4位にスペーサーの導入を図り、スクサミド、グルタミド、アジパミドを得た。 
3.イムノアッセイの検出系高感度化と実用性についての検討:ビオチン標識化ダイオキシンを標識抗原に、検出に西洋わさびペルオキシダーゼ・ストレプトアビジン複合体(HRP-SA)を用いる比色法およびピルベートフォスフェートジキナーゼ-ストレプトアビジン複合体(PPDK-SA)を用いる生物発光法について比較検討した。
結果と考察
1.国外入手ポリクローナル抗体を用いるELISAにおける母乳、ハウスダストおよび土壌中ダイオキシンの簡易クリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討:1)母乳試料:抽出に多層シリカカートリッジを用いる時、負荷した PCDD/FsおよびノンオルトCo-PCBsは、n-ヘキサン 160 mL以内で溶出されること、また、母乳から抽出した脂肪量を変えて多層シリカカートリッジ―に負荷し、脂肪最大負荷量について調べた結果、1.5 g以下が最適で、さらに、多層シリカカートリッジに新たにアルミナカートリッジを結合し、試料精製に用いた時、良好な測定結果が得られ、従来法に比し、アルカリ分解処理操作の省略化が可能であることを確認した。また、この一連のクリーンアップ操作下で得られたELISAの結果はGC/MSから得られた結果と良い相関が得られた。 2)ハウスダストおよび土壌試料:ハウスダストからのダイオキシン抽出法として、従来から環境試料に有効とされているソックスレー抽出法と迅速・簡便な抽出法として高速溶媒抽出法(ASE)について比較した結果、ASE法は従来法同様ダイオキシン定量に十分使用可能と判断された。次に、クリーンアップ法として多層シリカカートリッジを用いた時、従来のアルカリ処理-3層シリカゲルを組み合わせたクリーンアップ法と同等の良好な回収結果が得られた。、ASE抽出-多層シリカカートリッツジによるクリーンアップ処理下で得られたELISA測定結果はGC/MSから得られた結果と良い相関が得られた。
2.モノクローナル抗体を用いるELISAにおける簡易クリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討:1)母乳試料の簡易クリーンアップの確立とその実用性についての検討:モノクローナル抗体D9-36とHRP標識体ハプテン I-5-2Hの最適な感度が得られる条件を選び、抗原抗体反応時間と反応温度条件について検討した結果、ハプテン抗原と抗体を加えた後に標識ハプテンを加える順序の時、至適反応時間は 15~60分であり、また、反応温度は、室温または氷冷法30分で良好な感度が得られ、2,3,7,8-TCDDは1~100 pg/assayで標準曲線が作成できた。また、ダイオキシンを添加したバターをKOHおよび濃硫酸処理により分解後、wakogel P-28を用いて精製した結果、脂肪由来の妨害物をほぼ完全に除去でき、ELISAにより良好な結果が得られた。また、同一精製試料について併行してGC/MSにより測定したところ、2,3,7,8-TCDDおよび 1,2,3,7,8-PeCDDの回収率はそれぞれ約80%と90%であった。さらに、TMDDを添加した脂肪について新しく作製したイムノソルベントカラムに通導し、ついで逆相系ポリマー樹脂により精製した結果、ELISAの妨害物質の除去ができ、ELISAに利用可能であった。イムノソルベントとしては、D9-39を CNBr活性化セファロースに結合したものが最適で、回収率は70%であった。 2)臭素化ダイオキシンハプテンの合成:合成して得られた4,5-ジブロモカテコールと 2,5,-ジブロモ1,3-ジニトロベンゼンの両者から2工程の反応を経て、1-アミノ-3,7,8-トリブロモジベンゾ-p-ジオキシンを得、これを原料にして目的化合物のスクサミド、グルタミド、アジパミド3種のハプテンをそれぞれ 38 mg、86 mg、72 mg得た。現在、タンパク結合物を調製している。
3.イムノアッセイの検出系高感度化と実用性についての検討:モノクローナル抗体 D9-36および D2-37と4種のビオチン標識抗原(Ⅰ-5、Ⅱ-6、Ⅱ-7、Ⅱ-8)の反応性を比色法により調べ、至適条件を選択した(D9-36 100 ng/mL、ビオチン標識抗原 I-5 12.5 ng/mL)。その時のTMDDの検量線域は 0.02~62.5 ng/mL(1~3125 pg/assay)、日内変動は(CD%、n=6)は 1.6~4.6%であった。同様にしてモノクローナル抗体 D9-36とビオチン標識抗原 I-5の組合せ系について、希釈曲線を求めたところ、至適条件としては、D9-36 500 ng/mL、ビオチン標識抗原 100 ng/mLであり、 IC50値は 26 ng/mLであり同様に検討した生物発光法に比べ、比色法の方が優れた結果が得られた。 
結論
1.国外入手ポリクローナル抗体を用いるELISAにおける母乳、ハウスダストおよび土壌中ダイオキシンのクリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討:1)ポリクローナル抗体を用いるELISA とGC/MSにより同一試料の母乳中ダイオキシンの測定を行った結果、TEQは両者の間に良好な相関が得られ、ELISA法が実試料測定において十分実用性の高く、今後の母乳中ダイオキシンのモニタリング等に使用できる測定法であることが証明された。2)本ELISA法をハウスダストならびに土壌中ダイオキシン測定に適用し、GC/MS測定結果を比較した結果、TEQはともに良好な相関が得られ、環境試料分析にも十分実用性が高いことが示された。
2.モノクローナル抗体を用いるELISAにおける簡易クリーンアップの確立ならびにその実用性についての検討:1)母乳試料の簡易クリーンアップ操作の確立と実用性についての検討:ELISA法測定系を実用化させる上で脂肪除去法が隘路の一つになっていたが、市販の種々の材質のカートリッジタイプの固相カラムとの組み合わせについて多角的に検討した結果、芳香環族の化合物に選択性のある Wakogel P-28が最適であることが確認された。常法通り、脂肪をアルカリおよび酸で分解後、抽出物を Wakogel P-28に通導し、ELISAで測定したところ、TEQは、同一試料をGC/MSで測定した結果と良好な相関がみられ、本モノクローナル抗体を用いるELISA法は、母乳中ダイオキシンの測定法として実用性が高いことが示された。現在、汎用性を高めるため本ELISAキットの構築化を試みている。 2)臭素化ダイオキシンのハプテン合成:引き続き臭素化ダイオキシンのELISA構築を目的に基本的には塩素化ダイオキシンと同様の方法に従い、ダイオキシン骨格のC-1に長さの異なる3種のスペーサーを導入し、免疫化に必要量のスクサミド(38 mg)、グルタミド(86 mg)およびアジパミド体(72 mg)をそれぞれ得、現在、タンパク結合物を作製し、臭素化ダイオキシンのELISA構築計画を進めている。
3.イムノアッセイの検出高感度化と実用性についての検討:ビチオン標識化ダイオキシン4種とモノクローナル抗体2種の組み合わせ下、検出系として比色法(西洋ワサビペルオキシダーゼ:HRP-SA)および生物発光法(ピルベートフォスフェートジキナーゼ―ストレプトアビジン:PPDK-SA)について検討した結果、期待に反して、比色法に比べ生物発光系の方が感度が低かった。この要因としては用いたモノクローナル抗体では、結合がビチオン標識抗原のC-1に近いところで行われているためと考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-