内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100941A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(国立がんセンター研究所支所)
研究分担者(所属機関)
  • 兜真徳(独立行政法人国立環境研究所)
  • 山本正治(新潟大学医学部)
  • 佐々木寛(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常の生活環境における内分泌かく乱化学物質(EDC)への暴露が、人の健康影響と関連するか否かを疫学的に検討することを目的とする。平成13年度は、疫学研究を実施するための基礎的情報を得るために、人へのEDC暴露評価と、暴露に寄与する生活習慣について検討するとともに、横断面研究によってEDC暴露の健康影響およびその指標について検討を行う。さらに人の健康影響に関するエビデンスについて包括的な文献的検討を行う。また、EDCによる健康影響を明らかにするための疫学研究として、子宮内膜症の症例対照研究で症例収集を行い、さらにEDCによる健康影響のひとつであることが疑われている乳癌発症へのEDC暴露のリスクを明かにするために昨年度に作成したプロトコールにしたがって症例対照研究を開始する。
研究方法
人へのEDC暴露評価とその要因(暴露源)に関する基礎検討として、地域住民で胃がん又は大腸がんの手術を行った者57名について、手術の際に摘出した臓器の非がん部(大網)を採取し、その脂肪組織中のPCBの残留量を測定した。また、自記式調査票によって食事、職業、居住地の環境特性等について調べ、それらの関連を検討した。暴露評価に関する基礎検討として、血清中の植物エストロゲンの高感度分析のためのサンプル処理方法を開発し、分析の妥当性を検討した。さらに健常ボランティア集団約200名について分析を行い、個人間変動、摂取食品や生活習慣との関連の検討を行う。また、母乳中のダイオキシン類を評価する目的で、Ahイムノアッセイ法の妥当性についてGC/MS法と比較検討した。人でのEDC暴露の影響およびその指標に関する検討として、魚摂取量が多いと予想される北海道1漁村、沖縄1漁村及び長崎離島の計34名について、食品別摂取頻度調査、GC-MS法による母乳中ダイオキシン類量分析を行い、それらの関連について検討した。さらに採取した抹消血や臍帯血を使用し、暴露の影響としてエストロジェン代謝系に影響しているかどうかを調べる。人の健康影響に関するエビデンスの検討として、EDCと、内分泌関連がん、甲状腺機能、器官形成、小児神経発達、精子数への影響、に関する疫学研究の現状について文献レビューを行い、これまでの研究結果を整理した。一方、EDCの健康影響を検証するための疫学研究として、昨年度から継続している子宮内膜症の症例対照研究の症例及び対照例の収集を行った。また、昨年度に作成した研究プロトコールにしたがって乳癌とEDCとの関連を解明するための多施設症例対照研究を開始した。
結果と考察
一般地域住民地域住民における脂肪組織中の有機塩素系化合物残留量の測定によって有機塩素系化合物21種の存在を確認した。最も濃度が高かったのはTotal-DDTで1ppmを超えていた。次いでTotal-BHCとPCBで約0.5ppm、Total-クロルデンの約0.24ppm、ディルドリン及びヘプタクロルエポキシドの約0.04ppmであった。ヘプタクロル、ケルセン及びマイレックスは概ね0.005ppm以下であった。今後、特に検出された有機塩素系化合物残留に寄与する食生活等の要因のさらなる解析と、EDCの暴露状況と健康影響に関する規模の大きい疫学調査の必要性が示唆された。今年度開発した血清中植物エストロゲン量の分析法は再現性に優れ、諸外国に比較して植物エストロゲン摂取量が高い日本人におけるEDCの疫学研究での内部暴露評価に応用可能であると考えられた。また、高感度Ahイムノアッセイ法についての基礎的検討結果はダイオキシン類の簡易測定法の開発可能性を強く示唆しており、実用化が図れれば同時に多数の検体を対象とし、
さらにダイオキシン類以外の環境ホルモン類を加えたより総合的な研究の展開が可能となるものと期待された。魚摂取量が多いと予想される3地域の母乳中ダイオキシン類レベルは、平均が8.9~13.1 pg TEQ/g-fat(国際標準TEF)であり、出生順位、魚摂取量および居住地域との関連が示された。今後、採取した抹消血や臍帯血を使用し、暴露の影響としてエストロジェン代謝系に影響しているかどうかを調べる。文献によるエビデンスの検討では、EDCと内分泌関連がん、甲状腺機能、器官形成、小児神経発達、精子数への影響に関する疫学研究はきわめて乏しく、乳癌と有機塩素系化合物との関係が否定される以外にはEDCと健康影響との関連について言及できなかった。子宮内膜症の症例対照研究では、症例収集が終了し、子宮内膜症(StageⅡ期以上)58例、対照例(StageⅠ期以下)82例を収集し、まず血清中のPCB類、ダイオキシン類などについて米国疾病管理予防センターにおいて平成14年5月より分析を行う予定である。EDCと子宮内膜症との関連についての疫学研究はこれまでほとんどなく、これらの分析結果の検討によって子宮内膜症の発症、増悪とEDCとの関連が明らかになることが期待される。また、EDCと乳癌との関連を検証するための症例対照研究を開始し、83ペアを収集した。
結論
昨年度に引き続き、内分泌かく乱作用が疑われている化学物質が、食品や一般環境中に存在し、人が暴露していることが示され、子宮内膜症の疫学研究を継続し、乳癌の疫学研究を開始した。

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