輸入食品媒介感染症に対する研究

文献情報

文献番号
200100934A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入食品媒介感染症に対する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小竹 久平(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎恵美子(仙台検疫所所長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸入食品監視としての食品媒介感染症の調査、諸外国における食品媒介感染症への対応状況の調査、及び食品媒介感染症の検査方法の検討を行い、我が国における食品監視体制のあり方を現在の検疫所で対応可能なあらゆる観点から検討し、今後の食品検疫業務における実際的な業務指針に資することを目的とする。
研究方法
◎食品媒介感染症に関する調査研究
・輸入食品に付着して侵入するベクターに関する研究
輸入食品に付着してわが国に侵入する病原ダニ類等を調査するため、平成13年1月から12月まで主としてヨーロッパ及び中国便を中心に関西空港に到着した航空機の貨物コンテナを対象に原則として月2回、コンテナ内の塵埃を小型集塵機により収集し、収集した塵埃を5mmと3mmの篩にかけ、実体顕微鏡で観察した。
・輸入貨物上屋内生鮮置き場のダニ類調査
関西空港の輸入貨物上屋内の生鮮貨物置場に炭酸ガストラップを設置し、ダニの採集を行ない、疾病媒介性ダニの有無を調査した。
・輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオの毒素遺伝子保有状況の調査
前年度(平成10年7月から同12年9月)までの調査研究では、輸入生鮮魚介類のコレラ菌検査の過程で分離される腸炎ビブリオの毒素遺伝子の検出を試みた。本年度は平成11年1月から同12年12月の間に関西空港で旅客から分離された腸炎ビブリオについて推定感染国毎に血清型を調査し、輸入生鮮魚介類由来のそれと比較した。
また、遺伝子検索を行なうに当たり、分離平板上のコロニーを釣菌して、行なう方法ではなく、増菌培養液に直接遺伝子検索を行なうべく試験条件についての検討も行なった。
◎諸外国における食品媒介感染症に関する研究
平成12年度はアメリカで実施されている食品媒介感染症のサーベイランスシステムであるFoodNetの日本版案を作成した。こようなシステムを日本に導入する上で問題となる点を調べるため、本年度は、東北地方の一般臨床医を対象に、食品媒介感染症の知識・病原体検査実施状況などのアンケート調査を行なった。また、東北地方の医療機関における便検査での検出病原体の実態調査を行なった。さらに、医師や食品衛生指導者を対象とした食品媒介感染症に関するテキストを作成した。
結果と考察
◎食品媒介感染症に関する研究
・輸入食品に付着して侵入するベクターに関する研究
調査機数は46機、調査コンテナ数は127個であった。  
調査コンテナからは疾病媒介性節足動物は採集されなかったが、それ以外の節足動物及び貝類が採集された。
・輸入貨物上屋内生鮮貨物置き場のダニ類調査
調査回数は23回、設置したダニトラップは延べ138器であった。疾病媒介性ダニ類は採集されなかったが、その他のダニ類が7回延べ11器に採集された。
この2つの調査結果及び前年度までに行なった調査結果も合わせて、検討すると疾病媒介性節足動物を付着させた植物系食品が輸入される可能性は低く、また、航空機コンテナ内や輸入貨物上屋内生鮮貨物置場で疾病媒介性節足動物が食品に交差汚染する可能性は現時点では殆ど無いと思われた。
・輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオ毒素遺伝子保有状況調査
平成11年1月から同12年12月の間に関西空港で旅客から分離された腸炎ビブリオ475株の血清型を調査し、前年度までの調査研究で得られた輸入生鮮魚介類由来の腸炎ビブリオと比較したが、一部に旅客から分離したビブリオの血清型と一致するものも見られたが、輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオの毒素遺伝子保有株の分離数が少ない事もあり、関連性を推定するに至らなかった。
また、腸炎ビブリオ毒素遺伝子検索に当たり、分離平板培地での培養をせずに増菌培養液で直接遺伝子検索を行なう方法については今後さらに検討を行なう必要がある。
◎諸外国における食品媒介感染症に関する調査研究
食品媒介感染症に関する臨床現場の実態調査では東北内科医会員(1349名)へアンケートを送付し、675名の回答を得た。この結果、下痢症患者に便検査を実施しますかと言う問いに治療開始前に必ず行なうと答えた医師は7%に過ぎない事や下痢症患者に海外旅行歴は尋ねますかと言う問いに積極的には尋ねないと答えた医師が41%あったことなどから、日常の診療に当たる臨床家が食品媒介感染症に対する認識・知識を持つ事が重要である事が示された。
また、東北5県12施設での下痢症患者の病原体検査データを分析したところ、施設により検査件数、菌検出率が異なり、その違いは医療機関が担う機能(一次医療か、二次医療か、三次医療か)により違ってくる事が推察された。
わが国において米国のFoodNetのような食品媒介感染症のサーベイランスシステムを構築しようとする場合、まず、臨床現場の医師の食品媒介感染症への認識・知識の向上が必要と思われる。その事もあり、本研究の最終年度に当たり、医師向け及び食品衛生指導者向けのテキストを作成した。
結論
輸入食品媒介感染症に関連して、航空機貨物コンテナの節足動物の調査及び輸入貨物上屋内の生鮮貨物置き場でのダニ類調査、さらに空港で旅客から分離された腸炎ビブリオと前年度までに得られた輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオ毒素遺伝子保有株との比較研究を行ない有益な結果を得た。
また、諸外国の食品媒介感染症に関する研究では食品媒介感染症に関する現場臨床医へのアンケート調査を行ない、食品媒介感染症に対する意識・知識を持つ事が重要である事が明らかとなった。また、食品媒介感染症の意識啓発のため、医師向け及び食品衛生監指導者向けのテキストを作成した。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)