ダイオキシンのリスクアセスメントのための疫学研究

文献情報

文献番号
200100926A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシンのリスクアセスメントのための疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 晋(地域医療・福祉研究会)
研究分担者(所属機関)
  • 岩本 功(周南記念病院名誉院長)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所、保健科学部長)
  • 斎藤美麿(山口県立大学教授)
  • 小川雅広(山口県立大学教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンのリスクアセスメントのために、枯葉剤散布のダイオキシンが高濃度に蓄積している環境(ホットスポット)で暮らしている人々がどのような状況にあるか、記述疫学的手法によりデータを整理して、健康被害の有無を整理していく。
研究方法
ベトナム側が指定したダナン市を対象地として、日本のNGO-IMAYAの助けで、ベトナムのハノイ医科大グループと共同で活動する。ベトナム側からの、枯れ葉剤被害者救済委員会(Agent Orange Victims Fund)副議長のベトナム赤十字の理事長や、ハノイ医科大学副学長でダイオキシン委員会の副代表Nguyen Van Tuong 医師、厚生技官Tran Van Phuong医師、ハノイ友好病院のルン前院長、グエン院長、ビン医師等の協力により、ベトナムのホットスポットの1つであるダナン市在住の10歳から15歳の児童120名の血清を採取、同時にヘドロや土壌、魚の採取を行った。採取した試料は本研究員の飯田隆雄(福岡県保健環境研究所、保健科学部長)により分析された。さらに、ダナン陸軍病院のDr.Quangによるダイオキシンによる健康障害についての報告データを整理した。
結果と考察
平成13年度も引き続き、ベトナムの枯れ葉剤被害者救済委員会(Agent Orange Victims Fund)の許可を得て、ベトナム赤十字やハノイ医科大学と共同で日本側のNGO-IMAYAを中心に作業を展開した。但し、ダイオキシン・サンプル試料をハノイ医科大より福岡県に持ち帰る時、9月11日のテロ事件から数日しか経過してなかったため、香港空港での警戒体制は極度に緊張しており、荷物のダイオキシン冷凍試料の説明を求められたので「現代の化学物質で最も毒性の強い物質」と説明したことから、誤解が生じ、試料の持ち込みを拒否され・さらに没収されてしまい、我々の研究活動に大きな障害となった。
だがしかし、平成14年の3月3日から6日まで、アメリカ・ベトナム共同でダイオキシン国際会議がハノイで開催され、我々の研究チームを構成しているハノイ医科大のバン教授やフイ・フイ教授の、さらにはツオン副学長と、私達の日本側スタッフ飯田氏の研究が重要であるとの学会長コメントが発表されたのは輝かしい成果といえる。
我々の研究チームであるハノイ医科大スタッフのデータでは、ダナン市の異常出生頻度は明らかに高く、我々が測定した土壌ダイオキシン値も極めて高いことが分かった。Dr.Quangによるダナン軍病院の統計では、ホットスポット周辺で高頻度に奇形児の出生が見られることや、発ガン率の高まりが懸念されるデータであった。
福岡県保健環境研究所の分析結果は、血清試料3件はtotal TEQ濃度が、それぞれ116、106、102 pg/g lipidと100pg/g lipidを超えている。この値は日本の一般人の平均値(37 pg/g lipid)と比べて約3倍,ベトナム一般人平均値(ハノイ13.2 pg/g lipid)と比べると約8倍と高かった。なかでも特に毒性が最も高いと考えられるTCDDが一桁高い。血清試料が子供のプール血清であることを考慮すると一般の食品由来のバックグラウンドレベル汚染の結果とはとうてい考えられず、特定の汚染源が存在すると考えられる。
MudとSoilは、それぞれ、TCDDが4823および8138 pg/g (dry basis)、total TEQが5240および8292 pg/g (dry basis)であった。これらの値は日本の基準では処理を要するレベル1000 pg/g (dry basis)を遙かに超えている。さらに、両試料のcongener別濃度を比較するとTCDDはsoilがmudの1.7倍高いが、OCDDは逆にmud (17971 pg/g)がsoil (1387)の13倍であった。これは、mudでは相対的に分解しやすいTCDDが消失しているのかもしれないと推測できる。
魚試料のダイオキシン類濃度は日本の魚類と比べて大差ないがcongenerパターンを比べると日本ではCo-PCBがtotal TEQの大きな割合を占めるのに対し、ベトナムの魚試料ではCo-PCBよりPCDDの割合が高い。
いずれにしても、限られた試料の分析結果であるので、今後多くのサンプルについて調査して汚染実態の解明と影響評価を行うべきであろう。一般的には、戦後の長い年月でベトナム戦争中の枯れ葉剤も減衰していると考えられていたが、アメリカ空軍基地の跡地であるダナンではきわめて高濃度のダイオキシン汚染が確認された。この原因は、ベトナム側の説明によると、終戦時にきわめて大量の備蓄してあった科学薬品類をドラム缶のまま、空軍基地内の池や湖、あるいは谷間に放棄したり埋め立てたりしていたために、これまで誰も気がつかなかったものが、戦後25年も経過してドラム缶が朽ちて内容物が浸出することにより、周辺地域住民に多大な被害を継続的にもたらしている可能性があると推測するしかない。
上記の結果を基に考えると、今後はダナン市に於ける汚染状況をより詳細に表すことの出来るマッピング法による汚染マップを作成し、地域住民に対するダイオキシン汚染地域からの隔離を計り、予防としての疫学調査に発展させていくことが、これまでの3年間の研究結果として結論づけられる。
結論
一般的には、戦後の長い年月でベトナム戦争中の枯れ葉剤も減衰していると考えられていたが、アメリカ空軍基地の跡地周辺ではきわめて高濃度のダイオキシン汚染が判明した。この原因は、ベトナム側の説明によると、終戦時にきわめて大量の備蓄してあった科学薬品類をドラム缶のまま、空軍基地内の池や湖、あるいは谷間に放棄したり埋め立てたりしていたために、これまで誰も気がつかなかった。ところが、戦後25年も経過すると、ドラム缶が朽ちて内容物が浸出することにより、周辺地域住民に多大な被害を継続的にもたらしていることが分かった。
我々の調査は、ベトナム南部の7カ所のホットスポットと呼ばれる高濃度汚染地域の1カ所を選択して、年齢10-15歳年少者の健康調査と血液サンプルを採取した。分析はさらに続けるが、来年からの研究計画には、ホットスポット周辺で高頻度に奇形児の出生が見られることから、山口大学病理学教室にPhi教授の推薦による医師を受け入れて、ガンの発生等の研究に取り組んで貰っている。軍病院のデータによるダイオキシンの汚染による健康被害についてさらなる調査とダイオキシン分析のための標本収集が必要である。

公開日・更新日

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