文献情報
文献番号
200100923A
報告書区分
総括
研究課題名
生活環境中の化学物質が胎児脳と出生後の発達に及ぼす影響の疫学研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 細川徹(東北大学教育学研究科)
- 岡村州博(東北大学医学系研究科、東北大学医学部付属病院周産母子センター)
- 助野典義(宮城県保健環境センター)
- 仲井邦彦(東北大学医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシン,PCB,メチル水銀など生活環境由来の化学物質が母体に蓄積し,経胎盤または経母乳に児に移行することが判明しており,健康影響が危惧されている。本研究では,このような化学物質による児の脳への影響の有無を検証することを目的に,周産期における曝露状況を把握しつつ,生まれた児の健康影響,特に心理行動,認知の発達を指標として前向きに追跡するコホート研究を着手した。本年度は2年目に当たり,到達点を確認すると共に,追跡研究で必要な生後7ヶ月(修正月齢)に実施する心理検査バッテリーを作成し,交絡要因の把握のため,育児環境調査の方法を検討した。また,ダイオキシン類の分析戦略を確定するため,ダイオキシン試料を高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法とレポータージーンアッセイ(CALUX Assay)により比較し,バイオアッセイ法の有効性を検討した。
研究方法
事前説明から母乳収集までの過程は前年度の通りの方法とし,イオンフォームド・コンセント取得後に,母体血,臍帯血,胎盤,臍帯の採取を行い,生後3日目にブラゼルトン新生児行動評価による検査を行った。退院前に食事摂取頻度調査を実施し,毛髪を採取した。母乳は生後30日前後を目安として郵送により収集した。以上の研究に加え,児の発達を追跡する調査を開始する時期であり,心理検査バッテリーとして,新版K式発達検査を主検査とし,Bayley Scaleoh Infant Development (BSID)による発達試験を行うと共に,Fagan Test of Infant Intelligence (FTII)を採用することとした。生体試料の分析戦略を策定するため,本年度はダイオキシン類の分析について検討した。そのため,ダイオキシン類を高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法により公定法に基づいて測定するとともに,レポータージーンアッセイであるCALUX Assayにより同時に分析し,得られたデータの相関性などの検討を行った。交絡要因を測定するため,アンケート式による育児環境調査のための方法を検討した。なお,研究全体を通してデータベースによる一元管理を実施しており,データを共同研究者に提供する場合は,IDによる遡及可能な匿名化処理を行った。
結果と考察
登録の到達点は2002年3月7日の時点において,事前説明739名,登録者321名であり,事前説明を受けた43%の方から参加受諾が得られた。すでに214名の新生児が出産しており,新生児行動評価は185名に実施した。目標サンプル数は450程度であり,生後7カ月の追跡調査出席率が今のところ90%程度と高いことを含め,疫学研究に必要なサンプル数の確保の見通しがついた。
追跡調査における心理検査バッテリーの決定に際しては,まず海外PCB疫学で主流となっている発達検査であるBSIDの採用を決めたが,国内での使用例がなく標準化もされていない。そこで国内で標準化作業が終了している新版K式発達検査を並行して実施させると共に,BSIDの分析を素点で行うこととした。しかしながら,BSIDについては新版K式発達検査との比較を含め,国内でのなんらかの標準化の努力が必要と考えられた。また,PCBなどの影響が知能の発達を遅らせることが指摘されており,そこで児の将来の知能を予見可能と言われているFTIIを発達検査に組み合わせた。一般的な知能試験は42ヶ月から応用可能であり(例えばK-ABCなど),生後7ヶ月におけるFTIIと42ヶ月における知能検査の関連性を考慮した検査バッテリーが有効と考えられた。なお,追跡調査は7ヶ月の後は18ヶ月,42ヶ月を予定している。この7ヶ月における一連の検査バッテリーでの拘束時間は45分程度であり,まだ症例は少ないものの良好な経過であることを報告する。
ダイオキシン類の分析を高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法とCALUX Assayにより行ったが,相関係数0.98以上という極めて良好な結果が得られた。ただし,計算された毒性当量(TEQ)はCALUX Assayで常に絶対値が高くなる傾向が観察され,この乖離に関しては今後とも基礎的な資料の収集が必要と考えられたが,高い相関性から判断して,CALUX Assayは信頼性を有する分析法と推測された。また,化学分析ではダイオキシン類は狭義のダイオキシンとコプラナーPCBに分離されて測定される。一方,CALUX Assayは分離せず混合物として分析することが可能であり,今回,分離の有無による差を検証するため,混合物での測定と,分離して個別に測定し計算上で総和を求めた場合で比較したが,結果はよく一致することが確認された。従って,CALUX Assayでは未知の化学物質を含め,様々な化学物質の生物活性の総和を表現することが可能と期待された。高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法は血液20-30 mLを必要とするのに対し,CALUX Assayは10 mLであり,必要とする試料量が少ない。CALUX Assayはコストも安く,分析に要する時間も短い。疫学研究では多数の検体を適切な費用で分析する必要があり,CALUX Assayは有望と結論された。
児の発達は様々な要因により影響を受けるため,交絡要因として,食事調査,育児環境調査,社会経済的環境調査,母親IQなどの測定が必須である。育児環境調査は欧米では訪問法によるHOME (Home Observation for Measurement of the Environment)が用いられる。本研究ではHOMEの流れを汲みアンケート法に改変された育児環境調査法を使うこととし,調査票を作成した。30項目からなり,生後6ヶ月と18ヶ月用がある。
児の発達を追跡する前向きコホート研究では,結果の集約まで時間が必要であり,今後とも疫学調査プロトコールを確定しながら継続研究が必要と考えられた。
追跡調査における心理検査バッテリーの決定に際しては,まず海外PCB疫学で主流となっている発達検査であるBSIDの採用を決めたが,国内での使用例がなく標準化もされていない。そこで国内で標準化作業が終了している新版K式発達検査を並行して実施させると共に,BSIDの分析を素点で行うこととした。しかしながら,BSIDについては新版K式発達検査との比較を含め,国内でのなんらかの標準化の努力が必要と考えられた。また,PCBなどの影響が知能の発達を遅らせることが指摘されており,そこで児の将来の知能を予見可能と言われているFTIIを発達検査に組み合わせた。一般的な知能試験は42ヶ月から応用可能であり(例えばK-ABCなど),生後7ヶ月におけるFTIIと42ヶ月における知能検査の関連性を考慮した検査バッテリーが有効と考えられた。なお,追跡調査は7ヶ月の後は18ヶ月,42ヶ月を予定している。この7ヶ月における一連の検査バッテリーでの拘束時間は45分程度であり,まだ症例は少ないものの良好な経過であることを報告する。
ダイオキシン類の分析を高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法とCALUX Assayにより行ったが,相関係数0.98以上という極めて良好な結果が得られた。ただし,計算された毒性当量(TEQ)はCALUX Assayで常に絶対値が高くなる傾向が観察され,この乖離に関しては今後とも基礎的な資料の収集が必要と考えられたが,高い相関性から判断して,CALUX Assayは信頼性を有する分析法と推測された。また,化学分析ではダイオキシン類は狭義のダイオキシンとコプラナーPCBに分離されて測定される。一方,CALUX Assayは分離せず混合物として分析することが可能であり,今回,分離の有無による差を検証するため,混合物での測定と,分離して個別に測定し計算上で総和を求めた場合で比較したが,結果はよく一致することが確認された。従って,CALUX Assayでは未知の化学物質を含め,様々な化学物質の生物活性の総和を表現することが可能と期待された。高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法は血液20-30 mLを必要とするのに対し,CALUX Assayは10 mLであり,必要とする試料量が少ない。CALUX Assayはコストも安く,分析に要する時間も短い。疫学研究では多数の検体を適切な費用で分析する必要があり,CALUX Assayは有望と結論された。
児の発達は様々な要因により影響を受けるため,交絡要因として,食事調査,育児環境調査,社会経済的環境調査,母親IQなどの測定が必須である。育児環境調査は欧米では訪問法によるHOME (Home Observation for Measurement of the Environment)が用いられる。本研究ではHOMEの流れを汲みアンケート法に改変された育児環境調査法を使うこととし,調査票を作成した。30項目からなり,生後6ヶ月と18ヶ月用がある。
児の発達を追跡する前向きコホート研究では,結果の集約まで時間が必要であり,今後とも疫学調査プロトコールを確定しながら継続研究が必要と考えられた。
結論
生活環境由来の化学物質と児の健康影響,特に心理行動および知能の成長との関連性を検証する前向きコホート研究を継続した。生後7ヶ月の追跡研究として発達検査を含む検査バッテリーを確立し,育児環境調査の方法をアンケート式によって策定した。化学分析ではダイオキシン類分析について,レポータージーンアッセイであるCALUX Assayが有望であると結論された。前向きコホートであるために結果を明確にするにはまだ時間が必要であり,調査を継続する。
公開日・更新日
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