シックハウス症候群に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100918A
報告書区分
総括
研究課題名
シックハウス症候群に関する疫学的研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
飯倉 洋治(昭和大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 勝沼俊雄(東京慈恵会医科大学小児科)
  • 田村弦(東北大学医学部第一内科)
  • 山本一彦(東京大学医学部アレルギー・リウマチ科)
  • 坪井康次(東邦大学医学部心療内科)
  • 櫻井治彦(中央労働災害防止協会)
  • 吉村健清(産業医科大学産業生態科学研究所臨床疫学)
  • 森本兼曩(大阪大学大学院社会環境医学)
  • 吉良尚平(岡山大学大学院医歯学総合研究科国際環境科学講座公衆衛生学分野)
  • 岸玲子(北海道大学医学研究科予防医学講座公衆衛生学)
  • 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
65,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は新築・改築等による住宅環境の変化による健康障害「シックハウス症候群」の疫学調査を行うことが最終目的である。特に新築家屋に移ってから色々な訴えを起こす人が増加し、住宅の問題と健康の関係が急激にクローズアップされてきた。しかし、この問題の解決は極めて複雑な背景が存在することが段々と判ってきた。
1970年代シックビルディング(SBS)が世界的に話題になり、アレルギー疾患患者の症状増悪にSBSが関与し、中でもカビの問題が注目され、本邦でも研究が盛んになった時期があった。また、オフィスレディーが不定愁訴を多く訴えることから、高層ビルディングの気圧と精神的問題も検討され、色々な研究が一時なされたが、因果関係が不明のまま余り問題にならなかったが、近年新築住宅に転居後に不定愁訴、粘膜症状を訴える患者さんが多く、社会問題になってきた。この新しい問題点に対し、厚生労働省は「シックハウス症候群(SHS)」の名前をつけ、住宅環境と健康の問題解明に乗り出した。本研究はこの一つのプロジェクトであり、2年間研究を行ってきて、シックハウス症候群の姿がうっすらと理解できる段階に入ってきたといえる。今回はこの点にも言及し、更に家庭内環境の問題点をどのように理解し、患者さんの訴えとの関係を結び付けるかの基礎的検討も行っていく。また、訴えの多い患者さんの背景を検討すると、アレルギー疾患患者が多いことが判明した。このアレルギー疾患に関してはある程度の知識がある研究者が多いが、重要な問題がここにも存在することが判った。それはアレルギー症状(状態)がひどく室内科学物質(CS)の影響を受け易い状態のなのか、遺伝的にCSに過敏な人が影響を受けているのかである。この問題を解明する目的で、SHSと考えられる患者さんの遺伝子解析を行う研究も必要になってきた。そこで、今年度は何を検討するかの調査を行い、次年度に実行するよう検討した。また、今年度品川区の小学校全体を中心に、調査用紙を配布し、SHSと考えられる症状を呈した児童と、保護者についての疫学調査結果解析を行った。この解析は地域住民の住宅状況の調査として極めて重要と考える。以上のようにSHSの調査を行う上で、考え方・基礎面・臨床面で重要な問題が2年目で明確になり、3年目の疫学調査に有効に結び付けていきたい。
研究方法
各研究者の独自のプロジェクトと、共通調査用紙での検討を行なう方法、基礎と臨床のペアーでの調査研究といくつかに分かれて研究を行った。1)疫学調査①調査用紙に関して:調査用紙は研究班の統一調査用紙として用いた。前年度は一つの調査用紙で子どもと、成人の調査を行ったが、成人と、子どもは区別すべきであるとの意見も多く、今年度は区別して調査した。この調査用紙に関しては、研究者が実際SHSと診断されている場合、別の調査用紙で患者さん背景を調査した。②CS・VOCの測定に関して:測定の実際は新築家屋のVOC測定、家庭内の空気清浄器を設置した前後でのVOC測定、実際シックハウス症候群と診断されている患者さんの血液と、健康人の血液の比較。更に経気道的にVOCを曝露の測定を被検者の胸元に装着した携帯用のポンプで被検者の接する空気を24時間吸引することにより測定した。③遺伝子検討に関して:シックハウス症候群遺伝素因への候補遺伝子からのアプローチの検討をSNPによるアソシエーション・スタディーの基礎検討を行った。④精神・心理面に関して:鑑別診断が重要であり今後は精神神経との違いを調査用紙から検討していけないのかの研究を行なった。⑤シックハウス症候群の考え方に関して:SHSを言葉でどのように捉えるかの検討を、各研究者の報告から行なってみた。
結果と考察
1)疫学調査結果に関して(1)成人の調査結果から:田村らは東北6県の内科、小児科を標榜している病院、診療所2,901施設を抽出し、調査用紙を配布し、担当医師に本調査の自由意思調査をおこなった結果、14%の施設から回答があり、SHSと診断された患者さんは外来314人、入院20人で、東北地方ではSHSの認識が非常に低い傾向と判断される結果であった。一方、相模原の秋山はアレルギー疾患との関連を探る目的で、気管支喘息患者及び患者さんと同居する家族の調査を行った結果、喘息患者162人、非喘息患者253人の調査ができた。これら患者さんの自宅で起こる各症状の頻度の検討では、最も多かった訴えが心理面の訴えで、喘息あり群20.1%、なし群7.9%。次に多かった訴えは気道症状で、喘息あり群で19.8%、なし群で3.2%。三番目は鼻症状で喘
息あり群は16%、なし群は8.7%。四番目は体の不調で、喘息あり群は16%、なし群が6.7%であった。目の訴えは五番目で、喘息あり群は13%、なし群は7.1%であった。これらの症状が改築・新築とどのように関係するかの検討を行なった結果、目の症状は、喘息あり群23.8%、なし群16.7%。鼻症状で、喘息あり群30.8%、なし群27.2%。咽喉症状は有り群55.6%、なし群25%で、改築の影響は喘息がある無しでも強く受けていることがはっきりした。悪化の原因を何と考えるかの検討では、最も多かったのは①壁や床の建材の臭い71.4%、②塗料の臭い55.4%、③エアコンの臭い51.8%、④家具の臭い37.5%、⑤防痛剤の臭い35.7%であった。岸らは建築業者と共同で住宅調査を行い、1,775件の住宅から564件の回答を得て解析を行った。その結果、何らかの症状を訴えた人は210人の37.2%であり、対象住宅1775軒を基にすると11.8%(210/1,775)であった。これら患者さんの臨床症状別検討を行なうと、順に鼻症状25.4%、皮膚症状24.3%、目の症状22.0%であった。この調査でのアレルギー疾患保有との関係を検討した結果、アレルギー患者さんは皮膚の訴えが多かった。シックハウス症候群は新築・改築をきっかけに色々な症状が出ることから、築年数との検討を行ったところ、有意な関係は見出せなかった。その他、住宅環境で問題になる、絨毯・換気・防虫剤に関して、北海道では症状悪化に関係がみられなかった。飯倉らの品川区全公立小学校児童、保護者の調査は回収率75.5%(7,438人)、これらの対象で検討を行なった。男女比は1,246人対6,085人で女性が多かった。これらの人の中での有訴者は2,593人(34.9%)であった。築年数と症状の発現に関しては有意な関係はどの期間でもなかった。症状別の頻度検討では、①目の症状70.0%、②鼻症状67.5%、③体の不調60.0%、④心理面の訴え40.5%であった。アレルギー疾患患者に関する検討では、有訴者の中でのアレルギー疾患保有者は495人(19%)であった。症状悪化の家庭内原因物質に関しては、①エアコンと考えられると答えた者の内アレルギーありは146人(29.5%)、アレルギーなし429人(20.4%)、②ペット関して:アレルギーあり101人(20.4%)、アレルギーなし229人(10.9%)、③塗料に関して:アレルギーありは90人(18.2%)、なしは210人(10.0%)であり、④シャンプーに関して:アレルギーあり86人(16%)、なし231人(11.0%)で、これらは有意にアレルギー疾患保有者が高かった(p<0.001)。日常生活と症状の関係を検討したところ、ストレスを感じている人が有意に症状を訴えていた(p<0.001)。また栄養バランスの悪い人、飲酒を続けている人に有意差を認めた(p<0.01)。森本らの調査では、改築に伴う有訴者は男性29.7%、女性47.2%であった。日常生活との関係で、ストレス、適正労働時間が有意に影響している結果であった(OR=62、.82)。今回の調査で、注目される点は、昨年と異なり、臭いの訴えが多かった。特に山本らの報告で、1,000人の対象のうち、有症状者365人中64.9%に臭いと症状の関係を上げていることから、臭いは重要な一つの因子と考えられる。(2)児童の調査結果から:品川区の小学校児童の調査回収数は8,023人(81.4%)であった。有効回答率は98%(7,863人)であった。男子3,893人(49.5%)、女子3,970人(50.5%)であった。症状を訴えた有訴者は2,801人(35.7%)であった。新・改築と症状の出現に関する検討では特に差が認められなかった。症状別検討では①鼻症状を訴えた者は2,119人(75.7%)。②咽喉症状を訴えた者は1,637人(48.8%)、③気道症状を訴えた者は923人(33%)、④皮膚症状を訴えた者は865人(30.9%)であった。アレルギー疾患との関係ではアレルギー疾患を有する者は837人(29.9%)であった。このアレルギー疾患を有する患者さんの検討を行ってみた。築年数との関係の検討で、20~29年の期間のみアレルギーあり、なし群で有意の差が認められたが(p<0.001)、他の期間では差がみられなかった。症状の悪化と原因物質の関係では①エアコン:アレルギーあり群162人(19.3%)、なし群281人(14.3%)、②ペット:アレルギーあり群146人(17.3%)、なし群261人(13.3%)、③ファンヒーター
:アレルギーあり群99人(11.8%)、アレルギーなし群198人(10.1%)、④シャンプーに関して:アレルギーあり群72人(8.6%)、アレルギーなし群100人(5.1%)であった。
小児の日常生活因子とシックハウス症候群の症状との関係は、ストレス、運動が有意に関係していた(p<0.01)。このことから、毎日運動が予防に有効と考えられる。
2)VOS・CS測定に関して:宮崎らはシックハウス症候群と診断された患者のVOCをヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー/質量分析法を用いて測定した。その結果、パラジクロルベンゼンが69%で最も高濃度に検出された。次いでキシレンが39%の人から検出され、トルエンが23%の人から検出された。健康人の検査でも最も高かったのがパラジクロルベンゼンで88%、次がトルエン72%、キシレン28%であった。このパラジクロルベンゼンはシックハウス症候群患者より、健康人のほうが高かった。一方キシレンは患者のほうが高めで、生活環境の中にこういった物質の曝露が日常的に行われている結果であった。VOCの経気道的曝露に関しての検討では、トルエンが最も高く、次いでパラジクロルベンゼン、酢酸エチル、キシレンの順であった。パラジクロルベンゼンが検出された健康成人は経気道曝露濃度と、血中濃度の間に有意な相関が見られた。また、池田らはシックハウス症候群患者の自宅に活性炭入りの空気清浄器を設置し、ホルムアルデヒド、VOCを前後で測定した結果、設置後ホルムアルデヒド、VOCが増加していた。また、使用開始直後独特な臭いを感じたが、段々と慣れ、総合的には空気清浄器の設置で環境はよくなっている結果であった。訪問患者さんの家庭はアトピー性皮膚炎の治療にアルコロールをよく用いることから、エタノールが光触媒で不完全に分解されアセトアルデヒドが精製されている可能性が考えられる。吉良らは新築家庭のVOCを測定したところ、酢酸ブチル、ブタノール、酢酸エチル、キシレンの順であった。また、新築移転前と移転後の自覚症状の検討とCSの測定での検討では、症状を訴えてもCS濃度は基準以下であった。さらに、解剖学実習室を2度調査した結果、ホルムアルデヒドが高濃度に測定され、改善が必要な状況であった。3)シックハウス症候群と遺伝子の関係:今年度はホルムアルデヒド代謝に関連する遺伝子、アルデヒドデヒドロゲナーゼ15遺伝子、アルコールデヒドロゲナーゼ7遺伝子を候補遺伝子として特定し、次年度はこのSNPを研究していく。4)精神的な面からの検討:坪井らは転居した94人のうち心身に不調を来した群33人来さなかった61人について、心因的傾向についての評価する質問紙を用いて検討を行なった。新築、転居でストレスを感じる人は心身の不調も訴える人が多かった。5)調査用紙の再検討に関して:今回の調査用紙は成人と児童を分けて調査し、それなりの検討でよかったと思えたが、幾つかの修正箇所が出てきた。特にスクリーニング調査の中では、日常生活の問題点を整理し、シックハウス症候群症状に影響する睡眠時間、集団生活でのストレス、食生活等をわかりやすく記載しての検討を行なうべきといえる点が次回の重要な点である。6)シックハウス症候群の臨床的定義の検討:今回の各研究者の研究結果をまとめると、シックハウス症候群は「[飯倉1]化学物質、アレルゲン、微生物、等の影響により、家庭内環境の微妙な変化で、健康障害が起きた状態」と、定義付けてはどうかと考える。今回は、シックハウス症候群に関して各研究者が各々「シックハウス症候群とはどの様状態を表現するのか」のイメージを持って研究に臨んだと考えられる結果で、一年目の手探り状態と非常に異なる結果となり、各人が興味ある結果を報告してくれた。それが最もはっきりしている点は、今回の調査研究の結果から、断定とまで行かぬが「シックハウス症候群とは~」と、ある程度言葉にできる状況を呈示してくれたことである。このことがある程度でもはっきりすると、今後の調査が非常に行いやすくなり、さらに多くの人にもSHSがどの様なものか理解してもらえると言える。今回の疫学調査の臨床面の検討で興味があったのは品川区立全小学校児童と保護者の調査で、両方の回収率が75%以上で、その解析結果の重要性である。この調査結果での有訴者は34.9%で、最も多かった訴えは目の症状(70%)次いで鼻症状(67.5%)、体の不調(60.0%)、心理面の訴え(40.5%)の順であった。この時の児童の調査では有訴者が35.7%で、最も多かった訴えは鼻症状(75.7%)、次いで咽喉症状(48.8%)
、気道症状(33%)、皮膚症状(30.9%)であった。このことから、児童と成人では調査項目が同じでも、訴える症状がかなり異なることが判明した。特に今回は、児童の保護者が回答したものが成人の調査対象であることから、同じ傾向が得られるのかと推察していたが、非常に異なる結果であり、目の症状の訴えの差がこのように異なることは、調査を実施する迄検討がつかなかった。従来のSHSの報告がほとんど成人のものであったが、今回小学校の児童を対象に行って、この違いがはっきりしたことから、今後の調査では対象年齢をはっきりして問題点を討論する必要があることがはっきりした。さらに、今回の調査で、日常生活の因子との関係を検討したところ、ストレスの多い生活をしている人にSHSの症状が多くみられること、また、飲酒の多い人や栄養バランスの悪い人も問題であったことは、日常生活のアドバイス、SHSのコンサルテーションにおいて一つの重要なポイントと考える。成人の調査の回収率が全体的の低かったことは、各研究者が指摘していたように、SHSの概念がはっきりしない説明用紙が一つ問題であったと言える。しかし、岸らの調査で回答のあった中での有訴者を検討すると37.2%で、飯倉らの調査と変わりないが、調査用紙を配布し、回答が得られなかった数を、問題無しと数えるとSHSは11.8%になると報告していることは、注目に値する数と言える。結局、岸らの報告が意味する所は、軽い訴えは回答に入らぬことも多いと考えられるし、何もないから回答しなかったともとれ、今後の調査用紙は何もなかった人にも回答がもらえる工夫が必要と反省させられた。このことは、調査用紙の作成に関係する問題であるが、2年目の調査では、調査用紙の作成に時間をかけ7回の改定を行ったものであるが、まだ改定の余地がある結論であった。さらに、調査用紙の検討を行なうと、今回まとめていて気が付いたことの一つに、日常生活状の健康に関する因子をもっと正確に検討すべきと言える結果であった。病気にかかりやすい人、かかりにくい人の背景の検討が十分でなかった。特に、生活環境との問題では、長時間生活することから少しの変化でも段々と影響を受けることがあり、2年間研究を行ってきて、やっと気が付いた問題点である。今までのSHSに関する報告で、個体差の検討が少なかったが、この研究班のメンバー構成に内科系の医師が多く、新しい観点で病状を検討できたことが良かったと思う。化学物質の測定を並行して行ってきたが、1年目は疫学と繋がりがはっきりしなかったが、今回はこの並行研究が非常に重要であることが判ってきた。実際SHSと診断し、家庭訪問を行い、空気清浄器を設定した前後でのVOCの値は非常に興味有る結果で、必ずしもVOC濃度が減少するものではなく、ある物質は減少するが、有る物質は増加していた。そして、その家庭内にアトピー性皮膚炎患者がいて、消毒液を使用することが多いと、いくら空気清浄器を稼動していても問題の解決には完全な指導ではなかった。また、健康な家庭のVOC測定濃度がSHS患者の家より濃度的には高い状態であったが、これなどから考えさせられることは、ホスト側の要因も非常に関係してくるもとが強く示唆された。特に、生活様式、食生活状態、遺伝的背景などが今後の注意点として問題になってきた。今回の研究で、CS濃度が基準以下でも訴えをする人がいたこと、また、基準以上でも空気清浄器の使用で、全体的には生活が楽になった人がいることは、人によっては特定なCSに非常に過敏であり、また有る物質にはどうにかなるといった、個人のCSに対する感受性があるような結果で、次年度からスタートする遺伝子多型との研究が非常に興味が持たれる。精神的な面の調査結果は、成人の疫学調査で多くの人が重要と指摘していた。このことの解決には単に心理相談で片付くような問題でなく、SHSをしっかり理解し、根本的な問題を解決する方向での心理面の問題と、鑑別診断の問題がある。ここでも問題になるのが、患者背景で、遺伝的にCSに感受性が高い人なのか、他の疾患の背景があり、CSが病気発症の誘因になったのか重要な検
討事項である。今回の研究ではっきりしたことは、この問題で次年度の大きな課題になってきた。最も重要な論点はSHSの定義である。筆者は今回の研究班員の報告をまとめると次のようにSHSを臨床的に定義してよいと思う。今回の研究から、SHSとは「化学物質、アレルゲン、微生物等の影響により家庭内環境の微妙な変化で、健康障害が起きた状態」と、臨床的に定義してはと考える。この定義はあくまで今回の研究結果からのまとめで、絶対的のものでないが、今後の研究の基準として、この考えで対応し、修正を行っていけばより良い定義が導き出せると確信する。
結論
今回は基礎、臨床面の研究結果が一段と進み、今後の残されたポイントがはっきりしてきた。1)疫学調査用紙にSHSは次のように考えるといった表現が記載できると思う。このことは、今後の調査の上で非常に重要な問題で、幅広い集団が抽出された中からCSの強い人、アレルギーが強い人、カビ等微生物の強い人と区別していくことが妥当ではないかと言える。2)臨床症状を訴える家庭のCS測定の意味が重要であることが判明。このことは、単に空気清浄器を設置すればよいと言うわけでなく、これらの機器からのVOCの増加もあることを注意しておく必要があることが判った。このことに関して、今後は家庭内環境調査を簡便にできる方法の開発が重要といえる結果であった。3)臨床上SHSを「化学物質、アレルゲン、微生物等の影響により家庭内環境の微妙な変化で、健康障害が起きた状態」と定義し、今後の研究に使用してはどうかと思う。[飯倉1]

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