食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100902A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
西尾 治(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤健一郎(国立公衆衛生院)
  • 牛島廣治(東京大学医学部)
  • 長谷川斐子(感染症研究所)
  • 鈴木 宏(新潟大学医学部)
  • 藤本嗣人(兵庫県衛生研究所)
  • 大瀬戸光明(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 杉枝正明(静岡県環境衛生科学研究所)
  • 古屋由美子(神奈川県衛生研究所)
  • 春木孝裕(大阪市立環境科学研究所)
  • 西 香南子(三重県保健環境研究所)
  • 新川奈緒美(鹿児島県環境保健センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のウイルス性食中毒事例はノーウォークウイルスによるものが多く、社会的な問題となっており、その対策が緊急課題である。アジア・アフリカ等ではA型肝炎ウイルスの濃厚汚染地域が多く、また一部では依然として野生ポリオウイルスの存在している地域も見られる。従って輸入生鮮食品を介して上記ウイルス等が入り込む危険性が高いと推察される。本研究は食品の微生物学的安全性の確保による国民の健康増進を目的として、ウイルスの定量的検査法の開発、国産および輸入生鮮魚介類のウイルス汚染実態、食中毒様集団発生事例の疫学、ウイルス学的検索、安全性の評価、分子疫学的解析、環境中のウイルス汚染、地図情報システムによる危機管理シュミレーション、下痢原性大腸菌検査法の改良等について研究を行った。
研究方法
ウイルス学的安全性評価のためのウイルス定量を目的としてリアルタイムPCR法はサッポロウイルス並びにA型肝炎ウイルスで設定しRT-PCRと比較検討した。ノーウォークウイルスはリアルタイムPCR法で陰性のものの遺伝子配列を調べ、プローブとプライマーの設定を行った。海水からのウイルス濃縮法の陰電荷膜方法について検討した。生カキ244件、ヒオウギ貝25件およびホタテ貝12件についてノーウォークウイルスおよびA型肝炎ウイルスについてリアルタイムPCR法でウイルス汚染状況を定量的に調査した。二枚貝養殖海域の海水4地点、プランクトンは5地点で原則として月1~2回採取しウイルス汚染の検査を行った。輸入魚介類は主に中国、韓国、北朝鮮からの二枚貝(ハマグリ、アカガイ、アサリ等)240件、およびアメリカ産カキ4件、インドネシア、インド、フィリピン、ベトナム、ミャンマーからのエビ類24件、計268件について、ノーウォークウイルス、サッポロウイルス、A型肝炎ウイルスの検出をリアルタイムPCR法およびRT-PCR法で実施し、さらに3種類の細胞を用いてウイルス分離を行った。食品媒介集団発生84事例の疫学調査と患者便723件、従業員98名、吐物10件および原因食品12件についてウイルス学的検索を、遺伝子解析はPCR産物を用い遺伝子配列を決定し行った。乳幼児におけるノーウォークウイルス感染と分子疫学的解析は日本の保育園児44名を14ケ月の間連続して採取したふん便921件およびベトナムの乳幼児下痢症患者からのふん便337件を用い、ノーウォークウイルスをの検出と分子疫学的解析を行った。危機管理シュミレーショーンとして食品媒介集団発生と乳幼児下痢症患者のノーウォークウイルス感染について検討した。散発性下痢症患者由来大腸菌1,588株および健康者由来大腸菌61株について遺伝子学的および生物学的検査法の開発・改良を実施した。
結果と考察
ノーウォークウイルス、A型肝炎ウイルス、サッポロウイルスのリアルタイムPCR法の改良・確立を行い、リスク評価が行える定量検査法を確立した。海水からのウイルス濃縮法を検討したところ陽電荷膜法よりも陰電荷膜法が優れていた。国産生カキでは25%、ヒオウギ貝は4%のノーウォークウイルス汚染が認められた。ホタテ貝は陰性であった。また全ての二枚貝はA型肝炎ウイルス陰性であった。東南アジアからの輸入二枚貝は240件中32件(13%)からノーウォークウイルスが、中国産のハマグリ2件およびウチムラサキ貝1件からA
型肝炎ウイルスが、北朝鮮産ハマグリ1件からサッポロウイルスが検出され、この貝はノーウォークウイルスにも汚染されていた。また、中国産ハマグリ1件から組織培養法でウイルスが分離されたが、ポリオウイルスは否定された。従って輸入二枚貝は240件中35件(15%)がウイルスに汚染していた。エビでは23件中2件(9%)からノーウォークウイルスが検出された。輸入魚介類を介してわが国にウイルスが入り込んでいることが明らかとなった。輸入生鮮魚介類の喫食に際しては充分に加熱することにより感染防止が可能で、衛生教育が必要である。ウイルス性食品媒介集団発生84事例調査では98%がノーウォークウイルスによるもので、1事例は中国産ウチムラサキ貝によるノーウォークウイルスとA型肝炎ウイルスの混合汚染であった。原因食材ではカキが37%で最も多く、その他にウチムラサキ貝、アサリ、バイガイ、ミル貝等の二枚貝も見られた。患者とカキから検出されたノーウォークウイルスでは遺伝子型が多様であったものの、患者とカキで同一のものも認められ、カキとの関連性が強く示唆された。乳幼児の間でノーウォークウイルスの流行が起きており、食中毒事例と同様な遺伝子型が検出され、食品汚染との関連性が示唆された。食中毒事例のノーウォークウイルス陽性の原因食品からは二枚貝1個あたりウイルス200コピー以上の汚染が認められ、感染・発病させる量が存在していた。またノーウォークウイルスは吐物を介して、ヒトからヒトで感染が起きていることが示唆された。冬期の河川水はノーウォークウイルス陽性の時が多く、検出されるウイルス量も多く認められた。海水の検査ではウイルス陰性であったが、そこで養殖されている二枚貝は必ずしも陰性でなかった。プランクトンはウイルス陰性の時が多く、一時的に陽性となった。このことから、カキ等二枚貝のウイルス学的安全性の確保には浄化槽の整備等の河川・海水のウイルス汚染防止対策が不可欠で、総合的な対策が必要である。食品を介する集団発生の危機管理として地図情報システムの応用について検討を行ったところ、この方法は感染源の追跡、感染拡大防止に有効な手段であると考えられた。下痢原性大腸菌の現在の検査法は不完全で、局在性、凝集性及び拡散性付着性大腸菌の病原関連遺伝子13種類を検査できるようにした。これら細菌によって食品汚染がおこる危険性があるので、これらの細菌を確実に診断できる検査法を早急に確立する必要がある。
結論
わが国のウイルス性食中毒集団発生事例の多くはカキ等の二枚貝が原因となっている。生カキ等のリスク評価が達成され、安全性が確保されればウイルス性食中毒事例の約40%は防止できると予測される。そのためにはヒトのふん便から排泄されるウイルスによる河川・海水の汚染と二枚貝におけるウイルス蓄積・濃縮の関連性を総合的に研究するとともに、原因食品のウイルス量と発病におけるリスク評価を行うことが緊急課題と考えている。さらにA型肝炎ウイルスおよびノーウォークウイルス等が輸入生鮮魚介類を介してわが国に浸入し、健康被害も起こしているので、輸入生鮮魚介類のウイルス学的安全性を確保する監視体制の整備が必要である。

公開日・更新日

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