母乳中のダイオキシン類と乳児への影響に関する研究

文献情報

文献番号
200100896A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類と乳児への影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 松浦信夫(北里大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における母乳中のダイオキシン類の濃度およびダイオキシン類濃度と生活環境因子の関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児の健康に及ぼす影響を評価する。また定点を定めて母乳中のダイオキシン類濃度のモニタリングを継続的に実施することにより、わが国の母乳汚染の状態を知ると共に、汚染対策の効果を評価する。さらに、第1子を授乳中に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親が第2子を出産した場合には、第2子を授乳中の母乳を採取しダイオキシン類濃度を測定する。また第2子が1歳に達した場合には、第1子と同様の健康診査を行う。この測定および健康診査により、児への影響をより正しく評価すると共に、第1子の母乳哺育による母体からのダイオキシン排出量を推定し、ダイオキシン類の摂取や排泄など、人体での代謝の解明に役立つ資料を得ることなどを目的とする。
研究方法
母乳約50mlを採取し、母乳中の脂肪含有量と脂肪1g当たりのPCDD7種類、PCDF10種類、CoPCB12種類を測定した。ダイオキシン類濃度は1998年の毒性等価係数(TEF)を用いて母乳中の脂肪1g当たりの毒性等価量(TEQ)として表現した。
各地域の母乳中のダイオキシン類濃度を比較するため、母乳採取地域を岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県とし、初産婦の出産後30日の母乳を採取した。またこれらの地域の過去の測定結果と比較して、各地域の経年的な変動を検討した。乳児への影響については、母乳中のダイオキシン類の測定を行った症例が1歳になった時点で、発育発達を測定すると共に、採血して甲状腺機能、免疫機能、アレルギ-反応などを検査し、マススクリ-ニング検査時のTSH値に関しても、母乳中のダイオキシン類濃度との相関を検討した。
初産後に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親が第2子を出生した場合には、第2子を哺乳中の母乳の提供を受けダイオキシン類を測定した。第1子の母乳哺育期間、母乳哺乳の程度についても調査し、第1子が哺乳したダイオキシン類の量について推測し、第2子哺乳時のダイオキシン類濃度との関連を見た。
結果と考察
1)平成13年には1府6県(岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県)の初産婦の母乳を採取し母乳中のダイオキシン類を測定した。現在までに33名の母乳の測定が終了した。平成10年から平成12年までの地域別のダイオキシン類濃度を1998年の毒性等価係数を用いてPCDDs+PCDFs+CoPCB(12種)で表わすと、全体の平均値は平成10年には24.5pgTEQ/gFatであったが、平成11年は24.1pgTEQ/gFat、平成12年は21.6pgTEQ/gFatに低下した。平成13年度に採取した母乳中の濃度は現在測定中であるが、現在までの測定の終了した検体のPCDDS+PCDFs+CoPCB(12種)の平均値は21.8 pgTEQ/gFatと平成12年とほぼ等しい値であった。
2)満1歳時の健康への影響を(1)健康調査票,(2)問診票,(3)採血により評価した。
a.免疫機能:母乳中にはダイオキシン類が高濃度に含まれることから、ダイオキシンの乳児への影響を見るために、ダイオキシンの摂取量が少ないと考えられる人工栄養の群と母乳栄養の群に別けて、両群の免役機能について検討した。
免疫機能に関しては、一部に統計上有意な差を認める値があったが、総じて母乳栄養児と人工栄養児、すなわちダイオキシン摂取群と非摂取群の免疫機能に有意差があるとは現時点では結論づけられなかった。一部に有意差を認めたデーターに関しては、今後人工栄養児の数を増やすとともに母乳からのダイオキシン摂取量を考慮して、さらに検討する必要があると考えられた。
b.甲状腺機能の母乳群と人工栄養群の比較:母乳群と人工栄養群の間で有意な差は観察されなかった。
c.1歳までの発育・発達の状況:母乳中のダイオキシン類は児の発育・発達に悪影響を及ぼしていることは認められず、出生時の身長、体重にも明らかな影響は認められなかった。
3)第2子出産後の母乳中のダイオキシン類濃度の測定:第1子を授乳中の母乳のダイオキシン類濃度を測定した母親の第2子授乳中の母乳につき、本年度までに50症例で濃度測定を完了した。第1子、第2子とも出産後30日の母乳について測定した。ダイオキシン類濃度は平成9年は3種のCoPCBしか測定していないので、以後もCoPCBに関しては3種を用い、毒性等価係数は1998年のWHOの係数を用いた。PCDDs+PCDFs+CoPCB(3種))の平均値は、第1子は24.8 pgTEQ/gFatであったが、第2子は13.8 pgTEQ/gFatと44.4%減少していた。第1子の母乳率が高いほどダイオキシン類の濃度は低下し、母乳率が66%以上であった群では、母乳中の濃度の減少率の平均は48.6%であったが、母乳率が33.0%以下の場合には16.9%の減少であった。
4)第2子の中で1歳時の採血が出来た25例について甲状腺機能を測定した結果では、何れも甲状腺機能に異常はなく、第1子の甲状腺機能との間にも明らかな相関は認められなかった。
以上のように、わが国の母乳中のダイオキシン類を測定した今回の結果により、わが国の母乳中の濃度は諸外国の報告に較べて特に高いものではなく、また近年には低下傾向にあることが明らかになった。また、1歳児の健康状態の評価では、わが国の乳児にダイオキシン類の汚染によると考えられる著しい影響は認められなかった。しかし、全ての乳児がある程度の汚染を受けているので、影響を正確に知るには、低濃度の曝露の児の検査結果と比較する必要がある。本研究班の調査結果では、第1子の哺乳により母体中のダイオキシン類の濃度は約50%に減少するので、今後第2子以降の児を含めて母乳中の濃度と児への影響を研究することにより、より正確な児への影響が明らかになるものと期待される。
結論
わが国の乳児が哺乳する母乳中のダイオキシン類濃度は、地域により多少の差が認められた。しかし、母乳中の濃度は低下傾向にあることが伺われた。
母乳中のダイオキシン類による明らかな乳児への影響は認められなかった。
第2子が哺乳する母乳中のダイオキシン類は、第1子が母乳から摂取したと考えられる計算上のダイオキシン類が多いほど低下し、平均44.4%減少していた。

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