残留農薬分析の効率化と精度向上に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100894A
報告書区分
総括
研究課題名
残留農薬分析の効率化と精度向上に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所・大阪支所)
  • 岡 尚男(愛知県衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成14年3月現在、229農薬に対して農作物中の残留基準値が設定されている。食品輸入量の急激な増加と多様化の中で、これら多数の基準値への適合性を検査するためには、迅速、簡便且つ精度が高いスクリーニング試験法が必要である。局長通知法による既存のスクリーニング法、すなわち作物試料中の農薬を有機溶媒で抽出し、精製した後、GC及びHPLCで測定する方法は必ずしも効率的とは言えず、より効率的なスクリーニング法の開発が必要である。一方、分析手法や測定法は日進月歩であり、新たな手法を取り入れて、より簡便で質の高い公定試験法を作成する必要もある。本研究では行政検査に適する試験法開発を目的として、今年度は次の3課題の研究を実施した。(1)安定同位体を内部標準物質とするタンデムマススペクトロメトリー(MS/MS)を用いた柑橘類中残留農薬の効率的スクリーニング法の開発、(2)N-メチルカルバメート系農薬の試験にLC/MSを使用した簡便な新試験法の開発、(3-1)超臨界流体抽出(SFE)による野菜、果実中の残留農薬分析に関する研究、(3-2)原子発光検出器付きガスクロマトグラフ(GC-AED)の残留農薬分析への応用
研究方法
各課題の研究方法は次の通りである。
(1)柑橘類中のチアベンダゾール(TBZ)、イマザリル(IMA)及びオルトフェニルフェノール(OPP)について、MS/MSによる検出条件の最適化を図り、試料導入キャリヤーの種類、試料導入条件を検討した。次いで、内部標準物質を選択し、試験溶液の調製法を検討した。検量線の直線性を確認した後、市販のレモン、オレンジ及びグレープフルーツを用いて本法による添加回収実験を実施した。
(2)N-メチルカルバメート(NMC)系農薬21種とそれらの代謝物または異性体12種を、レモン、オレンジ及びグレープフルーツに添加(0.1μg/g)し、アセトンで抽出、次いで酢酸エチルで再抽出し、2種のカートリッジカラムで精製した。ポストカラム反応蛍光検出HPLCとLC/MS(SIM)を用いて定量し、定量値を比較した。
(3-1)159農薬(有機塩素系26、ピレスロイド系14、カルバメート系17、有機リン系46、有機窒素系48、その他8)について、トマト、ホウレンソウ及びレモンからの添加回収率をSFE法と有機溶媒抽出法とで求めた。次いで、市販の野菜、果実27種類、43検体中の残留農薬をSFE法と有機溶媒抽出法で分析し、両者の分析値を比較した。
(3-2)タマネギ、ネギ及びシイタケの溶媒抽出液1mLに21農薬の標準混合溶液0.1mLを加え、フロリジルカラムにより精製処理したものを試験溶液とし、塩素あるいは硫黄元素を測定対象としてGC-AEDに注入し、各農薬の回収率を求めた。
結果と考察
各課題の研究結果は次の通りである。
(1)柑橘類中のTBZ、IMA、OPPについて、フローインジェクション・エレクトロスプレータンデムマススペクトルメトリーによる同時スクリーニング試験法を開発した。選択性に優れたMS/MSと、安定同位体を内部標準物質として用いることにより、迅速で精度の高い分析法が確立できた。レモン、オレンジ及びグレープフルーツを試料として、各防カビ剤をそれぞれその使用基準値である10mg/kg(TBZ、OPP)及び5mg/kg (IMA)添加した場合の回収率は77~101%、変動係数は0.7~4.2%であった(n=5)。また、本法では、試料調製から分析結果を得るまでの所要時間は僅か15分程であった。
(2)オレンジでは全てのNMCがポストカラム反応蛍光検出HPLCで測定できたが、レモンとグレープフルーツでは、それぞれ8種、10種のNMCが妨害ピークと保持時間が一致し、正確に定量できなかった。これらをLC/MS(SIM)で定量した結果、ほとんどの場合に試料由来の妨害を受けずにNMCの定量ができた。HPLCとLC/MSの定量値はよく一致した。添加回収率はブトキシカルボキシム等一部のNMCを除き、60.1~97.8%であった。HPLCにおける検出下限はほとんどの場合試料中0.005μg/gであった。LC/MSにおける検出下限はHPLCと同等程度のものが多かった。
(3-1)トマト、ホウレンソウ及びレモンについて、SFE法と有機溶媒抽出法で添加回収実験を行った結果、一部の農薬を除きほぼ同じ回収率と精度が得られた。SFE法は良好な回収率(70~120%)が得られた135を超える農薬に対して適用可能と思われる。回収率がやや低かった(50~70%)5~13農薬と回収率が120%を超えた11農薬でも、再現性は良かったのでスクリーニング分析は可能と思われる。低回収率(<50%)だった農薬のうち、EPTC等3農薬は濃縮時の揮散を防止すれば適用できる可能性がある。クロロタロニル、キャプタン、カプタホール、ジコホール、アミトラズ、ジクロフルアニド、イミベンコナゾール代謝物1及びメトリブジンの8農薬にはSFE法は適用困難と思われる。次に、実試料中の残留農薬を測定し、分析値を有機溶媒抽出法と比較した結果、一部の農薬を除き分析値は非常に良く一致し、精度も良かった。検出された58種類の農薬中分析値が異なったのは、操作中の分解によりSFE法で分析値が低くなるクロロタロニル及び原因不明であるがSFE法で高い値となるフルバリネート等ピレスロイド系の5農薬であった。
(3-2)検討した21農薬は塩素を測定対象としたとき、1ngの注入で全て検出できた。また、キャプタン、ジクロフルアニド等6農薬は、硫黄を測定対象にしても検出可能であった。 硫黄を測定したとき、炎光光度型検出器と異なりGC-AEDでは検量線が直線性を示すため、定量性に優れていた。ネギ抽出物に農薬を添加(試料中濃度として0.1ppm)し、フロリジルカラムで精製後、塩素を対象に測定すると妨害ピークはほとんどなかったが、硫黄では多くの妨害ピークが認められた。タマネギでは70~120%の回収率が得られたが、シイタケでは回収率の低い農薬が多かった。回収率が低い農薬も、さらに精製すると検出される場合があり、妨害成分の影響で注入口などでの分解が促進されたか、あるいは原子化が抑えられた可能性もある。
結論
残留農薬分析の効率化と精度向上のために、スクリーニング試験法と個別試験法の開発及び改良を研究した結果、以下の有用な成果を得た。
(1)タンデムマススペクトルメトリーと、安定同位体を内部標準物質として用いることにより、迅速かつ精度の高い分析法が確立できた。
(2)ジクロロメタンを使用せず、柑橘類に適用可能なN-メチルカルバメート系農薬のHPLC及びLC/MSによる分析法が確立できた。
(3-1)添加回収実験及び実試料の分析値を有機溶媒抽出法の結果と比較することにより、SFE法の有用性及び適用範囲が確認できた。
(3-2)GC-AEDでは含硫黄作物中の有機塩素系農薬等多くの農薬が妨害を受けずに感度よく検出できることが示唆された。
これらの研究結果の多くは、検討した各分析法が実試料に適用可能であることを示すものである。分析法が衆知されれば、実用的な試験法となるものと考えられる。

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