特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究

文献情報

文献番号
200100892A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 衛郎(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中村治雄(三越厚生事業団)
  • 白井厚治(東邦大学医学部附属佐倉病院)
  • 江崎 治(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 廣田晃一(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 関田清司(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の到来とともに生活習慣病の発症率が高まってきており、食生活の改善、運動などによるその一次予防が国民の緊急の課題となっている。一方で、国民所得の増加、健康に対する関心、知識の向上、食経験に基づく知見の積み重ねなどから、健康の保持・増進、疾病予防を目的として特定保健用食品やいわゆる健康食品、栄養補助食品等に対する関心が高まってきている。こうした食品は適切に摂取することにより食生活を通じて国民の健康の保持・増進に寄与する。
特定保健用食品に関しては、その有効性と安全性がヒトで検証され許可される。従って、その摂取により軽度の異常、あるいは正常高値例の改善に寄与するようになった。しかし、許可の際のヒト試験は、被験者の数が必ずしも充分ではないこと、性差、年齢差及び健常人やいわゆる半健康人等身体状況を異にする全ての被験者層を対象として有効性が評価されている訳ではないこと、また、非常に多品目の製品の登場により、同様の効果を示す複数の特定保健用食品が長期に併用される機会も増えており、その有効性のみならず安全性の評価も重要となってきている。
現在、特定保健用食品に汎用されている素材として食後中性脂肪の上昇抑制及び体脂肪の蓄積抑制に対してジグリセリド、境界域コレステロ?ル値に対して大豆たんぱく質と植物ステロール含有ジグリセリドがある。
一方、特定保健用食品に使用される素材には、大豆たんぱく質、アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮等抗原性を有するものが多数存在する。従って、特定保健用食品においても過敏反応を惹起する可能性がある。また、いわゆる健康食品として数多く出回っている機能性食品素材の中には、将来、特定保健用食品として申請される可能性のある素材も数多くあると思われるが、効果と安全性は充分には検証されていない。有効性の機序についても、充分には明らかにされていない。
そこで、今回、同意を得られたヒト症例及び実験動物を用いて特定保健用食品素材の1)有効性の再評価(ジグリセリド、植物ステロール含有ジグリセリド)、2)組み合わせ摂取の有効性、安全性(ジグリセリドあるいは植物ステロール含有ジグリセリドと大豆たんぱく質)について検討し、問題点については是正策を講ずることを目的とした。また、特定保健用食品素材の3)アレルギー発現、並びに4)抗肥満作用を示す食品素材、n-3系脂肪酸を含む魚油、の有効性についても検討した。さらに、5)ラットで精巣毒性を示すことが明らかとなった抗肥満食品素材、ガルシニアエキスの有効成分である、ヒドロキシクエン酸(HCA)の精巣毒性発現の有無と、その毒性像を検討した。
研究方法
ジグリセリド(エコナ):2型糖尿病者14名、非糖尿病者7名の計21名(年齢45歳―65歳までの平均56歳)を被験者とした。脂肪酸組成を同じくしたトリグリセリドあるいはジグリセリドを40g含有するトリグリセリドクリームスープ(トリグリセリドCS)あるいはジグリセリドクリームスープ(ジグリセリドCS)をそれぞれ摂取し、2時間毎6時間まで採血し、主に血清脂質レベルの変動と安全性の指標について分析した。(白井)
植物ステロール含有ジグリセリド(植物ステロール含有エコナ)と大豆たんぱく質:血清コレステロール値が200mg/dl以上の管理、治療中の症例(年令45才から75才の男女20例)を被験者とした。被験者は、植物ステロール含有エコナ1日約10g摂取を1?2ヶ月続け、その上に豆乳(大豆蛋白として10g/日)を併用摂取1ヵ月行い、さらに豆乳を中止し、植物ステロール含有エコナのみとして1?2ヶ月経過をみている。検査項目は、主に血清脂質レベルの変動と安全性の指標についてである。(中村)
ジグリセリド(エコナ)と大豆たんぱく質:若齢ラットに20%(wt %)の大豆たんぱく質とエネルギー%の異なる(15、30および50 eng%)エコナを含む食餌を4週間自由摂取させた。血清脂質濃度、血糖値、インスリン濃度を分析するとともに、病理切片を作成して主要臓器への影響を観察した。糞中へ排泄される胆汁酸およびジアシルグリセロール量への影響も調べている。また、同様の実験系で、コレステロール負荷の影響についても検討した。(斎藤、永田)
アレルギー発現:米国立医学図書館がインターネット上で提供しているPubMedを用いてIndex Medicus収録文献の粗検索を行い、食品素材のアレルギーその他過敏症例に関する文献を収集整理した。また、大豆のアレルゲンであるトリプシンインヒビターをモデルとしたアレルゲンの高感度検出法の開発について検討した。(廣田)
魚油(n-3系脂肪酸):脂肪エネルギー比を一定にした高脂肪食(摂取エネルギーの60%)の、n-6系のサフラワー油食とn-3系の魚油食、対照の高炭水化物食をマウスあるいはラットに一定期間与えた。PPARαの活性化剤であるフィブレートの影響についても検討した。肝臓よりmRNAを抽出し、Northern Blot法、ジーンチップ法を用いて遺伝子発現を解析した。肝実質及び非実質細胞を分離・採取し、初代培養肝細胞でUCP2の発現量についても調べた。(江崎)
ガルシニア:5週齢のF344ラット雄50匹を1群10匹よりなる5群に分け、1群には対照としてラット飼育用粉末飼料を、他の3群にはHCAを0.13、0.66、3.31%混じた同飼料を、残りの1群には陽性対照としてガルシニアパウダー(GP)(HCA66.2%含有)を5%(HCAとして3.31%)混じた同飼料をそれぞれ4週間自由摂取させた。各群の7匹は本試験群として精巣の定量的ステージ分析を含む病理学的検査に供し、残りの3匹はサテライト群として精巣の電子顕微鏡検査およびBrdU免疫染色による細胞増殖活性解析に供した。(関田)
結果と考察
結果=ジグリセリド:全例の平均値変動をみると、カイロミクロンの出現はジグリセリドCSではトリグリセリドCSに比し遅延した。中性脂肪、総コレステロール、HDL?コレステロールの変動には差がなく、レムナント様リポ蛋白コレステロールの上昇はジグリセリドではやや軽度であったが有意差はなかった。糖尿病者と非糖尿病者を比較すると、糖尿病者では両スープともに中性脂肪の上昇が顕著であった。ジグリセリドCSはトリグリセリドCSに比し中性脂肪の上昇はやや軽微であった。レムナント様リポ蛋白コレステロールには有意差を認めなかった。血糖上昇は、糖尿病群で高値傾向を示したが、ジグリセリドとトリグリセリド摂取間に有意差を認めなかった。(白井)
植物ステロール含有ジグリセリド(植物ステロール含有エコナ)と大豆たんぱく質:エコナ10g/日摂取1?2ヶ月後の13例では、エコナ摂取前後で変化はみられないが、LDL-コレステロールは有意差を認め(P=0.0261)、5%減少していた。トリグリセライド、HDL-コレステロール、血糖値、体重に変化はなかった。なお、hs-CRP(高感度CRP)は減少する例が多いが、有意ではなかった。これに対して、エコナ摂取に豆乳を負荷した例ではLDL-コレステロールは7.1%の減少でエコナ単独よりも低下率が強かった。その他のパラメーターには特に問題はなく、安全性に支障はみられなかった。(中村)
ジグリセリド(エコナ)と大豆たんぱく質:ラットに投与したずれの食餌条件下でも組合せ摂取により脂質代謝、体脂肪蓄積および血糖指標に顕著な改善効果が認められたが、エコナの過剰摂取により肝機能指標値が上昇し脂肪組織重量が増加した。病理学的な異常所見は観察されなかった。(斎藤、永田)
アレルギー:系統的な文献検索の結果、通常アレルギーを惹起しないと思われる食品素材でも、特殊な環境においてはアレルゲンになるという報告が、特定保健用食品の素材においても見出された。また、大豆のアレルゲンであるトリプシンインヒビターをモデルとしたアレルゲンの高感度検出法を開発し、1 amol (アットモル) /assayの検出が可能になった。(廣田)
魚油(n-3系脂肪酸):魚油摂取による脂肪蓄積抑制効果は、魚油濃度依存的に認められた。この抑制効果は、PPARαのターゲット遺伝子LPL、ACSの発現量の変化と一致した。ジーンチップによる遺伝子解析の結果、魚油食により免疫反応、脂質代謝、抗酸化関連の遺伝子が著しく増加していた。免疫反応に関与する遺伝子はPPARαを介した調節ではないことが示唆されたが、抗酸化関連の遺伝子についてはPPARαの活性化を介した調節が行われていることが示唆された。魚油によるUCP2の発現増加は肝実質細胞で認められ、PPARαの活性化を介した作用であることが示唆された。(江崎)
ガルシニア:一般状態、体重および摂餌量では、異常や群間差は認められなかった。器官重量では、精巣実重量の有意な低値と精巣上体の実重量および比重量の有意な低値が3.31%HCA群および陽性対照群で認められた。肉眼および組織学的所見では、何れの群でも精巣に明らかな変化は認められなかった。精巣の定量的ステージ分析では、3.31% HCA群および陽性対照群でプレレプトテン期以降の精母細胞が有意な減少を示し、精子細胞についてはグループ2(ステージVII?VIII)で 有意な減少が認められた。また、各HCA投与群で精祖細胞数がやや多く、陽性対照群では有意な増加を示した。3.31% HCA群および陽性対照群のいずれにおいても、精子形成サイクルステージⅩⅠの精細管で、セルトリ細胞間の細胞外腔に拡張や嚢胞状膜様構造物が観察され、セルトリ細胞には膜の不連続部位、滑面小胞体の拡張やライソゾームの増生が、精子細胞の変性、伸長精子細胞の壊死とともに認められた。(関田)
考察=トリグリセリドCSに比しジグリセリドCSは、食後高脂血症抑制などに、糖尿病群でやや傾向が認められたが、顕著でなく、積極的な効能は認められなかった。また血糖にも影響を持たなかったが、ケトン体産生には抑制的で、むしろβ-酸化が低下している可能性が示唆された。
植物ステロール含有ジグリセリドの摂取により、LDL-コレステロールが約5%有意に減少し、僅かではあるがLDL-コレステロールの減少作用のあることを確認した。これは1.5%含有される植物ステロールの効果と考えられる。この減少率は、元来コレステロール摂取量の多くない日本人一般では、外因性、内因性のコレステロールの吸収を抑制する働きとしては妥当であると考えられる。さらに、大豆蛋白との組み合わせ摂取により、LDL-コレステロールに約7%の減少が認められ、作用機序の異なる二種の特定保健用食品の併用効果を確認できたものと考えられる。安全性にも特に問題はなく、併用摂取は、今回の摂取量の範囲内では有用性があると判断された。
動物試験では、大豆たんぱく質とエコナの組合せ摂取は、通常食および高コレステロール食いずれの条件下でも血清脂質濃度を低下させ、さらにエコナの摂取は投与量依存的に血中脂質濃度を低下させた。ジアシルグリセロール摂取による血清脂質濃度低下作用は、その加水分解によって生じるモノグリセリドが消化管内において吸収されにくいミセルを形成するためと、吸収された後トリグリセリド再合成に影響するためと考えられる。その効果は、コレステロールの吸収抑制と胆汁酸の排泄促進効果を促す大豆タンパク質との組合せによりさらに効果的であった。今回の実験は約1ヶ月間の飼育期間における比較検討であるが、エネルギー比15%で他の油脂と比較して体脂肪蓄積抑制的な効果を示した。しかし、エコナの過剰摂取は肝機能指標値の上昇と脂肪組織重量増加による脂肪蓄積傾向が観察されており、過剰摂取への注意が必要と思われる。
特定保健用食品素材にはアレルギーを惹起することが良く知られているものがある。最も問題になるのは、経口摂取でアレルギーを惹起する食品アレルゲンであり、特にラベル等に明示されていない、製造工程での混入や交差性のある食品素材による場合であろう。このような事故を避ける為には、食品素材だけでなく、特定保健用食品そのものにそのような予期せぬ混入がないかを検査する必要があり、そのための高感度でかつ特異性の高い検出法の開発が必要である。ICT-EIA法は免疫学的な特異性の高い検出法の中でも最も検出感度の高い方法の一つであり、今回、この方法を大豆トリプシンインヒビターの検出に応用し、1 amol/assayの感度を得た。1 amolのたんぱく質はアレルゲンとして作用し得る限界以下の量と考えられるが、もしこの方法によりトリプシンインヒビターを検出し得たとすれば、大豆あるいは類縁植物の混在が示唆されたことになり、もしラベル等に明示されていない場合には問題となりうる可能性がある。
魚油の摂取はPPARαを活性化させることにより、肝臓での脂肪酸のβ酸化に関与する遺伝子の発現を増加させ、脂肪酸のβ酸化を亢進させることにより抗肥満作用を及ぼしている可能性が示唆された。一方、魚油は長鎖脂肪酸を多く含むことや、PPARαの活性化のためペルオキシゾームでのβ酸化が活発になり活性酸素の生成も上昇すると考えられるが、これに対しては抗酸化関連遺伝子の発現を増加させることで生体を酸化から防御する可能性が考えられた。従って、安全性について今回は検討していないが、抗肥満作用や血中脂質低下作用をもつ魚油摂取は生活習慣病の予防に有効であると考えられた。
HCAを3.31%添加(GP5.0%相当)した飼料を4週間投与したラットには明らかな精巣毒性が発生すること、その変化および程度はGP5%添加投与群による変化と同質、同程度であることが明らかとなった。このことから、GP投与による精巣毒性はその主成分であるHCAにより生じた可能性が示唆された。また、精祖細胞数には各群で差が見られないことから、HCAの精巣毒性の初期変化はセルトリ細胞にまず発生し、その細胞膜に何らかの障害が生じ、その結果二次的に生殖細胞に毒性影響を及ぼすものと考えられた。なお、HCA0.66%添加飼料(GP1.0% 相当)投与、すなわちHCAの1日平均摂取量 584.7 mg/kg は精巣への影響を及ぼさない量であると考えられた。
結論
食後トリグリセリドの上昇に対しては、トリグリセリドCSに比しジグリセリドCSが特に優れているとは思えない結果となった。被験対象の違いにより従来とは異なる結果が得られ、今後更に検討する必要がある
軽度の高コレステロール血症者に植物ステロール含有ジグリセリド1?2ヶ月摂取にて、5%の有意なLDL-コレステロールの減少を認めた。さらに、豆乳を併用した例では、LDL-コレステロールのさらなる減少(7%)を認めると共に有害事象もみられず、今回の摂取量の範囲内では、併用についての有用性が確認できた。
通常食あるいは高コレステロール食を与えた動物において大豆タンパク質とエコナの併用摂取は、血清脂質濃度および血糖指標に対して有用性が確認出来た。体脂肪蓄積に対しても等エネルギー比の対照油脂と比較したとき抑制的な効果を示し、病理組織学的な安全性も認められた。しかし、エコナ過剰摂取により肝機能指標値の悪化と脂肪組織重量の増加が観察されており、摂取量には注意を要する。
通常アレルギーを惹起しないと思われる食品素材でも、特殊な環境においてはアレルゲンになるという報告が、特定保健用食品の素材においても見出され、確認試験の必要性が示唆された。そこで大豆のアレルゲンであるトリプシンインヒビターをモデルとしたアレルゲンの高感度検出法を開発した。
魚油の抗肥満作用は、肝でのPPARα活性化によること、又、肝細胞でのUCP2の発現増加が関与していることが示された。又、魚油によるPPARα活性化機序により抗酸化に関与する酵素の発現量が変化することが示された。
HCA3.31%添加飼料(GP5.0%相当)を4週間投与したラット(HCAの平均1日摂取量2957.4mg/kg/day)には明らかな精巣毒性が発生すること、その変化および程度はGP5.0%添加飼料を投与した群による変化と同質、同程度であることが明らかとなった。このことからGP投与による精巣毒性はその主成分であるHCAにより生じた可能性が示唆された。さらに、HCA0.66%添加飼料投与(GP1.0% 相当)、すなわちHCAの1日平均摂取量 584.7 mg/kg/day は精巣への影響を及ぼさない量であると考えられた。
以上、有効性の再評価により再現性が得られないもの、得られるものがあり、幅広い被験者層で更に検討する必要がある。しかし、食品素材でもあり、併用によっても過剰摂取を避ければ安全性は高いものと思われる。アレルギー惹起性に関しては、種々のアレルゲンに対して検出感度の高い方法を確立し、特定保健用食品素材についてのスクリーニングが安全性の点から必要となろう。HCAに関しては、ヒトでの影響は不明であるが、今後市場におけるガルシニア製品のHCA含量の測定を含めて、詳細な検討が必要と思われる。

公開日・更新日

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