食品用器具・容器包装等の安全性確保に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100889A
報告書区分
総括
研究課題名
食品用器具・容器包装等の安全性確保に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
河村 葉子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田国広(東京都立衛生研究所)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
科学技術の進歩、食品流通の国際化、社会構造の変化、環境問題など器具・容器包装をとりまく状況は大きく変化し、それに伴い様々な問題が派生してきている。食品衛生法の器具・容器包装の規格基準は20年間ほとんど改正されておらず、諸外国との差異が指摘されている。そこで、欧米及び我が国の安全性確保のためのシステムを比較し、ハーモナイゼーションの可能性を検討する。一方、廃棄物対策から容器包装のリサイクルが進められているが、再生プラスチックの食品用途への使用には安全性の確保が不可欠である。そこで、ポリエチレンテレフタレート(PET)を中心に欧米等におけるリサイクル包装材の使用状況、安全性確保のための承認システムやガイドライン、承認状況等の調査を行い、我が国における安全性確保の方向性を明らかにする。また、器具・容器包装の規格試験のなかには、有害試薬を使用しているものや分析精度に問題があるものなどがあるので、安全で精度の高い試験法を開発する。さらに、器具・容器包装による食品の汚染については、これまでは主に器具・容器包装の側から溶出物の検討を行ってきたが、コンビニ弁当等のフタル酸エステル汚染のような予期しない食品汚染の可能性があることから、食品の汚染物調査から器具・容器包装由来と思われる化学物質を見つけ出す。
研究方法
規格基準のハーモナイゼーション及びリサイクル包装材については、出版物、インターネット、直接の情報交換等により、諸外国及び我が国の情報を収集し、検討を行った。規格試験法については問題点を検討し、試験法の改良または代替試験法の開発を行い、食品汚染物については市販の93加工食品中のプラスチック可塑剤の調査を行った。
結果と考察
1)我が国、米国及び欧州連合(EU)について、器具・容器包装、特に合成樹脂製品の安全性確保のためのシステム、規格基準等の比較検討を行った。その結果、各国の特徴が明らかになるとともに、米国、EU及び日本のシステムの間にいくつかの相違点や問題点があることが浮き彫りとなった。例えば、米国では市販前の承認制度を根幹としているが、EUや我が国には一部を除いてないこと、欧米では安全性確保システムの中心の1つとして法制化されたポジティブリストがあるが日本では法制化されたものはないこと、規格基準の中心となるべき移行量の試験については、日本では蒸発残留物試験が相当するが、汎用樹脂以外の一般合成樹脂には規定されていないこと、溶出試験においてはその基本となる試験温度、試験時間、擬似溶媒が大きく異なること、欧米では安全性評価基準が成文化されているが我が国にはないことなどである。今後これらの個別の問題についてさらに掘り下げて検討し、日本が欧米の規格基準とハーモナイズすることが可能であるか、独自の道をいくとすればどのような方向性をとりうるか、どのような根拠に基づくのか等を明らかにしていく必要がある。2)容器包装からリサイクルされたプラスチックの食品用途への使用についてポリエチレンテレフタレート(PET)を中心に調査を行ったところ、米国ではFDAにより再生プラスチックの食品用途への使用に関する承認システム及びガイドラインが整備され、すでに72件が認可を受けている。そのうち、再生PETは46件とほぼ2/3を占めており、しかもその多くが機能性バリアーなしに食品と直接接触して使用することが許可されている。特に化学的再生法はすべて食品との直接接触を認めており、今後申請承認なしに食品用途への使用を認める方針であることを表明している。一方、欧州では欧州連合(EU)の支援のもと、再生プラスチッ
クの安全な使用を目指して活発に研究プロジェクトが進められ、それらをもとにガイドラインの法制化が進められている。また、国際生命科学協会がEU原案に沿ったガイドラインを出しており、ドイツ、スイス等は独自の規制を行っている。スイスやオーストラリアでは3層構造の再生PETボトルがいち早く使用されてきたが、超洗浄方式による再生材を用いた直接接触のボトルも生産が開始された。我が国においても、再生PETの食品用途への使用に向けて、生産技術の開発、安全性確認の試験等が進められており、できるだけすみやかに安全性確保のための枠組みを構築していく必要がある。3)食品衛生法の規格試験法のうち、クレゾールリン酸エステル(TCP)試験法は有害試薬である四塩化炭素を使用しており、操作が煩雑で回収率やばらつきに問題がある。そこで、TCPをアセトニトリルで抽出し、固相抽出カラムにより精製を行い、アルカリ分解することなくHPLC-UVで一本のピークとして定量する方法を開発した。本法は簡便で回収率・再現性ともに良好であった。また、合成樹脂一般規格のカドミウムおよび鉛材質試験において、塩酸処理した試料では高濃度の鉛が検出されるのに、規格試験法ではその1/10の測定値しか得られない事例が生じた。その原因を検討したところ、試料に共存していた硫酸バリウムに鉛が吸着され、測定値が大幅に低下することが判明した。そこで、現行法の改良を試み試料灰化後に塩酸処理を行うことにより、共存金属による妨害を受けない良好な試験法を確立することができた。さらに、合成樹脂一般規格及びゴムの重金属試験では、試験実施に不可欠な操作法の指定、鉛標準溶液、試験溶液の採取量などが記載されておらず、このままでは試験を実施することが困難である。今後は、重金属試験法を器具・容器包装の規格基準の中に記載するといった抜本的な改正が必要と考える。これらについては今後、規格試験法を改正することが望まれる。4)フタル酸エステル類以外のプラスチック可塑剤のうち、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル) (DEHA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジアルキル(DAA)、セバシン酸ジブチル(DBS)、O-アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、グリセロールジアセテートラウレート(DALG)の6種類を対象とし、市販のアルコール飲料、油脂類、乳製品、菓子類、ファーストフード、即席食品、乳児用粉ミルク、ベビーフードの計93検体を調査した。その結果、カップ入りの日本酒から最高7.30μg/gのATBCが検出された。この容器のふたに使用されたキャップライナーから、重量比で30~48%のATBCが検出され、これが日本酒に移行したものと考えられた。また、ベビーフード2検体から5.47及び4.76μg/gのDALGが検出されたが、これらは容器包装の可塑剤由来ではなく、原料の豆腐に消泡剤として使用された食品添加物グリセリン脂肪酸エステル由来と推定された。DEHAとATBCは低濃度ながら乳製品を初めとする多くの食品で広範囲に検出され、普遍的な混入源が存在することが示唆された。
結論
器具・容器包装の規格基準のハーモナイゼーション、リサイクル包装材の安全性確保、規格試験法の精度向上、器具・容器包装由来の食品汚染物について研究を行い、いずれも器具・容器包装の安全性確保の上で重要な問題を明らかにすることができた。これらの問題について、今後さらに研究を続ける必要があると考える。

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