文献情報
文献番号
200100879A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来のリステリア菌の健康被害に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
五十君 靜信(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 山本茂貴(国立感染症研究所)
- 牧野壮一(帯広畜産大学)
- 本藤良(日本獣医畜産大学)
- 神保勝彦(東京都立衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
21,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人畜共通感染症の一つであるリステリア症は本来動物の感染症であり、その原因菌Listeria monocytogenes(リステリア)は動物や土壌等の環境中に広く常在している。その結果、乳肉製品を中心に食品から高頻度に分離されてきた。しかし、我国におけるリステリア症の感染源や感染経路については不明で、欧米で報告されているような食品が感染源になった事例はこれまで確認されていない。食品が世界的に流通しており、リステリアの低温増殖性といった特性から、本症が食品を介して感染を起こす可能性は高い。そこで、我々の研究班では、日本で発生しているリステリア症の実態をアクティブサーベーランスにより掌握した上で、本症が食品を介した感染症であるのか、感染の実例が存在するのか、そして、臨床分離菌株、環境分離株および食品由来株の詳細な検討により、感染源がどこにあるのかを明らかにすることを目的とする。加えて、リステリア症の診断、本菌の分離培養手法や疫学マーカーの解析に関する標準的な方法を確立する。
研究方法
日本で発生しているリステリア症の実態をアクティブサーベーランスにより掌握する。地方衛生研究所、拠点となる病院および国立感染症研究所の感染症情報センターとの連携をとりながら、リステリア症の疑いがある症例の発生情報と、その分離菌株の提供を受け、疫学情報の検討を行った。髄膜炎に関する疫学情報については、新興・再興研究事業で平成12年度より活動している髄膜炎菌のプロジェクトチーム(主任者山井先生)との連繋を取りながら行った。研究の趣旨を説明した上、同意が得られた症例については、臨床材料の提供を受け、研究班が新規に開発したELISA法によるリステリア特異的抗体価の測定および、患者周辺環境からの菌の分離を試みた。2001年3月に北海道で発生した集団事例を詳細に検討し、リステリアの確定診断に関する問題点を明らかにし、その解決方法の開発と分離菌の株の疫学的解析手法を検討した。
臨床分離菌株、環境分離株および食品由来株の収集を行い、詳細な分子生物学的な検討を加え、疫学的解析手法の開発を行うと共に、臨床分離株と食品および環境分離株との関係を比較検討した。リステリアの疫学マーカーの検索とその標準化に関しては、各種由来の異なる菌株の遺伝解析および生化学性状を比較するための疫学マーカーや手法を確立し、標準的な方法の確立を試みた。リステリアの食品汚染にかんする文献を検索し、どのような食品が汚染を受けているかをまとめた。この中から、実害の想定される食品については、汚染実態調査を実施した。
臨床分離菌株、環境分離株および食品由来株の収集を行い、詳細な分子生物学的な検討を加え、疫学的解析手法の開発を行うと共に、臨床分離株と食品および環境分離株との関係を比較検討した。リステリアの疫学マーカーの検索とその標準化に関しては、各種由来の異なる菌株の遺伝解析および生化学性状を比較するための疫学マーカーや手法を確立し、標準的な方法の確立を試みた。リステリアの食品汚染にかんする文献を検索し、どのような食品が汚染を受けているかをまとめた。この中から、実害の想定される食品については、汚染実態調査を実施した。
結果と考察
北海道で発生したナチュラルチーズによる集団食中毒事例を検討したところ、リステリアがチーズという食品を介して患者に摂取されたという事実はほぼ確認された。しかし、この事例では、リステリアがヒトへ感染したことを直接示すことが出来なかったこと、疫学マーカーとして用いたPFGEの信頼性の2つが問題点と思われた。リステリアがヒトに感染を起こしたことを臨床的に確認する手法に関しては、本年度、主任研究者五十君がヒトの血清からELISA法によりリステリアの菌体成分特異的な抗体価を測定する方法を検討した。リステリアの主要な病原因子であるリステリオリジンO(LLO)を遺伝子組換えにより大量に作成し、LLO特異的抗体価をELISA法にて測定することにより、感染の有無を判定する。リステリア症の疑われる髄膜炎発症者の血清を用いて、抗体価の測定を行ったところ、その高い抗体価からリステリアの感染を疑う試料が観察された。まだ、改善点はあるが、引き続き検討を行い、ヒトにおけるリステリア症の診断に応用して行きたい。
リステリアにおいては、他の菌でしばしば菌株の同一性を判定する決め手として用いられるPFGE法の実績があまりない。そこで研究班では、多数の分離株を用いて、リステリアのPFGEによるパターン解析を行った。その結果、同一の血清型の分離株同士はほぼ同一の泳動パターンを示した。出血性大腸菌O157などで菌株間の同一性の判定に大変有用に用いられている方法ではあるが、リステリアへの適用は慎重でありたい。用いる制限酵素を変えるなどPFGE法にもまだ条件検討の余地はあるが、他の手法の検討も必要と思われる。今年度分担研究者本藤が示したiap遺伝子領域内の多型領域のゲノム解析はPFGEに代わる有効な手法の一つである。
我が国に於けるリステリア症の発生状況については、地方衛生研究所、各地の拠点病院および国立感染症研究所の感染症情報センターと連繋をとりながら情報収集を試みたが、症例数が極端に少ないこともあり、過去10年間さかのぼって発生状況を調べることにした。そこで、昨年度から研究を開始した髄膜炎研究班(主任者山井先生)のご協力をお願いし、全国約2300ヶ所の病院のリストを作成し、流動研究員奥谷が中心となって、アンケート調査を開始した。アンケートの回収、集計は2年目以降の作業になる。
リステリアの臨床株、環境分離株、食品分離株の収集は順調に進んでおり、これらの株を用いた病原関連因子、疫学マーカーなどに着目した解析を行った。分担研究者牧野は、12種類の病原因子について検討し、株により病原因子のパターンが異なることを示し、この方法により菌株の病原性の強さを推定可能であるかを検討している。分担研究者本藤は、ヒトで臨床的に高頻度に分離される血清型4b株について、分子疫学的解析を試み、iap遺伝子領域内の多型領域のゲノム構造を研究した。その結果、汚染鶏肉とヒト感染において疫学的関連性が示唆された。さらにこの手法を用いることにより、同一菌株による地域常在汚染の実態が明らかとなった。
国内における食品のリステリアの汚染状況は、報告されている論文の集計により明らかにした。食肉からの分離は多数報告されており、動物種を問わず、本菌が食肉を汚染していることがわかる。牛、豚、鶏肉ともほぼ同様にリステリアの汚染が見られるが、ブロック肉に比べ、カットされた肉での汚染率が高かった。これはリステリアが低温増殖性であることと関係しており、肉の流通や処理の過程で次第に汚染率を上げているものと思われる。特に重要と考えられる生食用食品については、文献によるデータは少ないが、数%の汚染率が報告されていたため、実際に流通している市販食品を購入し、汚染実態調査を行った。
市販されている食肉製品の汚染実体調査は分担研究者神保が担当した。生食用食肉からL. monocytogenesは検出されなかった。調理用食肉のL. monocytogenes検出率が10~40%であるのに比べ、生食用食肉は衛生管理に配慮がなされていると考えられた。調理用食肉の汚染菌量はすべて1g当たり1個未満であり、ICMSFの提案している一般食品中のL. monocytogenes規格である1g当たり100個未満と比較して少ない菌量であった。
魚介類加工品の実態調査は、分担研究者山本が担当し、麻布大学の丸山教授の協力のもとに行われた。魚介類加工品、特に加熱工程が無く加工され、そのまま食されるready to eat食品を対象にListeria 属の調査を行った。14品目中5品目がListeria 属およびL.monocytogenes陽性であったことは魚介類加工品が鮮魚介類と同様に高い汚染であることを示した。L.monocytogenes の汚染菌量については1検体が4.3cfu/gであったが、その他はほぼ0.3cfu/g以下であった。したがって、健康成人がこれらの汚染された食品を喫食したとしても、リステリア症を引き起こす可能性は低いと思われる。しかしながら、これらの食品は当然ハイリスクの人達も食べる食品であるため注意が必要である。
リステリアにおいては、他の菌でしばしば菌株の同一性を判定する決め手として用いられるPFGE法の実績があまりない。そこで研究班では、多数の分離株を用いて、リステリアのPFGEによるパターン解析を行った。その結果、同一の血清型の分離株同士はほぼ同一の泳動パターンを示した。出血性大腸菌O157などで菌株間の同一性の判定に大変有用に用いられている方法ではあるが、リステリアへの適用は慎重でありたい。用いる制限酵素を変えるなどPFGE法にもまだ条件検討の余地はあるが、他の手法の検討も必要と思われる。今年度分担研究者本藤が示したiap遺伝子領域内の多型領域のゲノム解析はPFGEに代わる有効な手法の一つである。
我が国に於けるリステリア症の発生状況については、地方衛生研究所、各地の拠点病院および国立感染症研究所の感染症情報センターと連繋をとりながら情報収集を試みたが、症例数が極端に少ないこともあり、過去10年間さかのぼって発生状況を調べることにした。そこで、昨年度から研究を開始した髄膜炎研究班(主任者山井先生)のご協力をお願いし、全国約2300ヶ所の病院のリストを作成し、流動研究員奥谷が中心となって、アンケート調査を開始した。アンケートの回収、集計は2年目以降の作業になる。
リステリアの臨床株、環境分離株、食品分離株の収集は順調に進んでおり、これらの株を用いた病原関連因子、疫学マーカーなどに着目した解析を行った。分担研究者牧野は、12種類の病原因子について検討し、株により病原因子のパターンが異なることを示し、この方法により菌株の病原性の強さを推定可能であるかを検討している。分担研究者本藤は、ヒトで臨床的に高頻度に分離される血清型4b株について、分子疫学的解析を試み、iap遺伝子領域内の多型領域のゲノム構造を研究した。その結果、汚染鶏肉とヒト感染において疫学的関連性が示唆された。さらにこの手法を用いることにより、同一菌株による地域常在汚染の実態が明らかとなった。
国内における食品のリステリアの汚染状況は、報告されている論文の集計により明らかにした。食肉からの分離は多数報告されており、動物種を問わず、本菌が食肉を汚染していることがわかる。牛、豚、鶏肉ともほぼ同様にリステリアの汚染が見られるが、ブロック肉に比べ、カットされた肉での汚染率が高かった。これはリステリアが低温増殖性であることと関係しており、肉の流通や処理の過程で次第に汚染率を上げているものと思われる。特に重要と考えられる生食用食品については、文献によるデータは少ないが、数%の汚染率が報告されていたため、実際に流通している市販食品を購入し、汚染実態調査を行った。
市販されている食肉製品の汚染実体調査は分担研究者神保が担当した。生食用食肉からL. monocytogenesは検出されなかった。調理用食肉のL. monocytogenes検出率が10~40%であるのに比べ、生食用食肉は衛生管理に配慮がなされていると考えられた。調理用食肉の汚染菌量はすべて1g当たり1個未満であり、ICMSFの提案している一般食品中のL. monocytogenes規格である1g当たり100個未満と比較して少ない菌量であった。
魚介類加工品の実態調査は、分担研究者山本が担当し、麻布大学の丸山教授の協力のもとに行われた。魚介類加工品、特に加熱工程が無く加工され、そのまま食されるready to eat食品を対象にListeria 属の調査を行った。14品目中5品目がListeria 属およびL.monocytogenes陽性であったことは魚介類加工品が鮮魚介類と同様に高い汚染であることを示した。L.monocytogenes の汚染菌量については1検体が4.3cfu/gであったが、その他はほぼ0.3cfu/g以下であった。したがって、健康成人がこれらの汚染された食品を喫食したとしても、リステリア症を引き起こす可能性は低いと思われる。しかしながら、これらの食品は当然ハイリスクの人達も食べる食品であるため注意が必要である。
結論
2001年上旬に北海道で発生したナチュラルチーズによる集団食中毒事例で、リステリアがチーズという食品を介して患者に摂取されたという事実を確認したことから、我が国においても食品を介した本症の発生を想定した対策が必要であると思われる。まず、リステリアの診断法として、ELISA法を開発した。リステリアの臨床株、環境分離株、食品分離株を収集し、病原関連因子、疫学マーカーなどに着目した解析を行い、これまで用いられてきた方法の問題点を明らかにし、新たな疫学的解析法を検討した。リステリアで菌株の同一性を示す方法としてPFGEを適用する場合注意が必要であることを示した。リステリアの病原因子の検討から、株により病原因子の保有パターンが異なることを示した。iap遺伝子領域内の多型領域のゲノム解析により汚染鶏肉とヒト感染において疫学的関連性が示唆された。我が国に於けるリステリアの食品の汚染状況を文献により集計し、主にどのような食品が汚染されているかをまとめた。市販されている生食用食肉の汚染実態調査調査ではリステリア属菌が検出されたが、L.monocytogenesは、検出されなかった。鮮魚類、生食用鮮魚類の汚染実態調査では、一部の食品にリステリアの汚染が認められたが、汚染菌数は低かった。
公開日・更新日
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