食品用の器具、容器包装などの安全性の評価法等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100877A
報告書区分
総括
研究課題名
食品用の器具、容器包装などの安全性の評価法等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
有薗 幸司(熊本県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高尾雄二(長崎大学)
  • 高良真也(長崎大学)
  • 石橋康弘(長崎大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
初年度は、市販プラスチック食品用の器具、包装容器等の1) 予備的スクリーニング、2) スクリーニング分析に適した前処理法及び高感度分析法の改良等を目的とした。
研究方法
1) 予備的スクリーニング  種々の食品容器等に含まれる添加剤、未反応物、材質由来の物質などの溶出状況を把握するために、種々の食品容器等を用いたメタノールおよび熱湯による抽出実験を繰り返した。しかし、メタノール抽出では、いずれの食品容器等からも検出されるピークの数が非常に多く本研究の目的にはそぐわないと判断した。食品容器等14検体(No.1~4:お椀, No.5: 竹串, No.6: フライパン, No.7, 8: 紙コップ, No.9: 竹製しゃもじ, No.10, 11: 箸, No.12: コップ, No.13: 調味料入れ, No.14: どんぶり)から熱湯により溶出してくる化学物質の定性分析を以下の方法で行った。試料(No.1~14)に熱湯を30分接触させ溶出させた。溶出温度は95℃とした。ただし、No.12, 13は耐熱温度を考慮して、それぞれ70℃、80℃とした。放冷後、水中の有機化合物のみをトラップするために、Sep-Pak PS-2を用いて固相抽出を行い、濃縮後、試験溶液とした。なお、本実験では、controlとしてガラスフラスコとの対照実験を毎回並行して行った。試験溶液は、GC/MS及びNISTのMSライブラリーにより定性した。
2) スクリーニング分析に適した前処理法及び高感度分析法の改良等  市販の食品容器等からの化学物質の溶出を高感度にスクリーニングする手法として、その他のプラスチック製品と比較して溶出が少ないと予想されるPETボトルを用いて、次の二種の手法を試みた。
(1) 市販のPETボトル細片と吸着剤がコーティングされた小型の攪拌棒を10 mlの水中に浸漬し、室温で6 hの吸着実験を行った。この後、この攪拌棒を急速加熱及びトラップ部を有するGC/MSの試料導入部に設置し、水中で吸着された有機化合物を加熱脱着後、冷却トラップに一旦捕捉し、急加熱の後、一斉分析した。以後この手法をSBSE (Stir Bar Sorptive Extraction)と呼ぶ。
(2) PETボトルの細片1.0 mgを直接、試料導入部に設置し、Heガス流通下、60℃、10 minの加熱を行い、気化して来たガス成分を冷却トラップ部に濃縮し、その後、急速加熱を行い、GC/MSで一斉分析した。以後、この手法をTDS(Thermal Desorption System)直接熱抽出法と呼ぶ。
結果と考察
1) 予備的スクリーニング  試料No.14ではcontrolとほとんど同じクロマトグラムを示した。すなわち、この容器では、熱湯への目立った有機物の溶出はみられなかった。その他の13検体ではcontrolと異なるピークがいくつも認められた。それらは主にベンゼン環、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有する有機化合物であった。特にNo.1と5では多くのピークが観察された。MSライブラリーのスペクトルとよく適合し、かつ食品容器等の添加物して通常用いられていると確認されたもののいくつかを次に示す。
Dimethyl phthalate (可塑剤); No.1, 2, 6, 7, 8
Dibutyl phthalate (可塑剤); No.1, 5, 6
Cresol (防腐剤、殺菌剤など); No. 5, 9
Dibutylated hydroxytoluene (酸化防止剤); No. 3, 10
Benzophenone (紫外線吸収剤); No. 1
Triphenyl phosphate (安定化助剤); No.1
これより、No.4及びNo.10~14についてはここに示した添加物はみられなかったこと、そして、14検体中6検体と多くの試料からフタル酸系の可塑剤が溶出されたことがわかる。また、竹材であるNo.5と9からCresolが溶出された。Cresolは竹の腐食防止として用いられていると思われる。また、No.3と10からはDibutylated hydroxytolueneが溶出した。これらは素地や表面塗装の種類は異なるものの、どちらも抗菌加工製品との表示があった製品であることから、抗菌加工を施す際にDibutylated hydroxytolueneが用いられた可能性がある。
本実験により、食品容器等から様々な有機化合物の溶出が認められたが、このうち内分泌攪乱化学物質に指定されているDibutyl phthalateやBenzophenoneをはじめ、体内に取り込まれると人体に影響を及ぼすものも含まれていた。ただし、初年度では定性分析のみを目的としているため、今後、定量分析を行う必要も考えられる。
2) スクリーニング分析に適した前処理法及び高感度分析法の改良等
SBSE法では、小さなピークとしてn-Dibutylamine, N-Ethyl-benzenamine, Naphthalene, Phosphonic acid-tributyl ester等が検出され、TDS直接熱抽出法では、比較的はっきりとしたピークとしてAcetone, 6-ethyl-5-hepten-2-one, n-Octanal, n-Nonanal, n-Decanal, 6,10-Dimethyl-5,9-undecadien-2-one, Diethyl phthalate, n-Hexadecane, n-Heptadecane, Methyl ester Tetradecanoic acid, n-Octadecane, 1-Methylethyl ester tetradecanoic acid, n-Nonadecane, Methyl ester hexadecanoic acid, Dibutyl phthalate等が検出された。すなわち、PETボトルではTDS直接熱抽出法により多くの有機化合物が検出できることがわかった。
次に、このTDS直接熱抽出法を用いて、以下の食品用プラスチック製品および素材(ポリプロピレンコンテナー、ポリ塩化ビニリデン製ラップフィルム、シリコン樹脂加工性のクッキングペーパー、ペーパーシート、お茶紙パック、ソース用フィルム、アクリロニトリル・スチレン樹脂製の弁当箱のフタ、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂系の熱硬化性樹脂)からの気化成分の分析を試みた。
この結果、同定できたものだけでも10~20種類程度の非常に多くのピークが観察された。例えば、弁当箱のフタからは、Acetone, Acrylonitrile, Ethylbenzene, Styrene, Benzaldehyde, Propylbenzene, Dichlorobenzene, Benzeneacetaldehyde, Acetophenone, n-Nonanal, n-Decanal, Styrene dimmer, BHT, Diethyl phthalate等が検出された。
結論
予備的スクリーニングでは、固相抽出法を用いて食品容器等14検体から熱湯により溶出してくる化学物質の定性分析を行った。その結果、13検体でcontrolと異なるピークがいくつも認められた。それらは主にベンゼン環、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有する有機化合物であった。MSライブラリーのスペクトルとよく適合し、かつ食品容器等の添加物して通常用いられていると確認されたもののいくつかは、Dimethyl phthalate (可塑剤)、Dibutyl phthalate (可塑剤)、Cresol (防腐剤、殺菌剤など)、Dibutylated hydroxytoluene (酸化防止剤)、Benzophenone (紫外線吸収剤)、Triphenyl phosphate (安定化助剤)であった。
スクリーニング分析に適した前処理法及び高感度分析法の改良等では、SBSE (Stir Bar Sorptive Extraction)法とTDS(Thermal Desorption System)直接熱抽出法を試みた。その結果、SBSE法よりもTDS直接熱抽出法が、比較的はっきりとしたピークとして多数の化学物質が検出できることがわかった。また、このTDS直接熱抽出法を用いて、食品用プラスチック製品および素材(ポリプロピレンコンテナー、ポリ塩化ビニリデン製ラップフィルム、シリコン樹脂加工性のクッキングペーパー、ペーパーシート、お茶紙パック、ソース用フィルム、アクリロニトリル・スチレン樹脂製の弁当箱のフタ、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂系の熱硬化性樹脂)からの気化成分の分析を試みた。その結果、測定したすべてのプラスチック系容器・素材から、同定できたものだけでも10~20種類程度の非常に多くのピークが観察された。ただし、これら2種の手法は、いずれも少量の試験サンプルで、かつ、簡便・高速に一斉分析が可能であることから、食品容器等の一次スクリーニングとして非常に優れた手法と考えられる。また、食品容器等の実際の使用状況下での溶出等を考慮すると、両手法を並行して、食品容器等のスクリーニング分析を行う必要があると考える。

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