ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100874A
報告書区分
総括
研究課題名
ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
衛藤 義勝(東京慈恵会医科大学小児科/DNA医学研究所遺伝子治療研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 大橋十也(東京慈恵会医科大学小児科/DNA医学研究所遺伝子治療研究部門)
  • 井田博幸(東京慈恵会医科大学小児科)
  • 鈴木義之(国際医療福祉大学臨床医学研究センター)
  • 芳野信(久留米大学医学部小児科)
  • 田中あけみ(大阪市立大学小児科/発達小児医学)
  • 島田隆(日本医科大学生化学第二講座遺伝子治療)
  • 乾幸治(大阪大学医学部小児科)
  • 高田五郎(秋田大学医学部小児科)
  • 高柳正樹(千葉県こども病院内分泌代謝科)
  • 大野耕策(鳥取大学医学部脳神経小児科)
  • 大和田操(駿河台日本大学病院小児科)
  • 辻省次(新潟大学脳研究所臨床神経科学部門神経内科学)
  • 辻野精一(国立精神神経センター神経研究所疾病研究第5部)
  • 難波栄二(鳥取大学遺伝子実験施設)
  • 鈴木康之(岐阜大学医学部医学教育開発研究センター)
  • 桜庭均(東京都臨床医学総合研究所臨床遺伝学研究部門)
  • 北川照男(東京都予防医学協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,580,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度の本研究班の目的は(1)ライソゾーム病の本邦における実態調査(2)ライソゾーム病患者の生活調査(3)ライソゾーム病の診断指針の作成(4)ライソゾーム病のスクリーニング法の開発(5)ライソゾーム病の酵素補充療法の検討(6)ライソゾーム病の新しい治療法の開発(7)ライソゾーム病の病態の解明、である。それぞれの分担研究者によりテーマにそった研究が行われた。
研究方法
(1)に関しては井田、大橋らが全国の200床以上の病院にアンケートによる一次調査を実施した。大和田は特にゴーシェ病、ファブリー病に関しての全国調査を2度にわたって行い両調査の比較検討を行った。辻は当該施設における成人のライソゾーム病に関して詳しい臨床検討を加えた。(2)に関しては鈴木(康)辻野がムコ多糖症、Krabbe病、Pompe病、NCLを対象にパイロット的にWeeFIMによる患者ADLの検討を行った。(3)に関しては、班員全員でそれぞれの疾患につき検討を加えた。(4)に関してはムコ多糖症のDABを用いた検討を田中がパイロット的に施設限定のスクリーニングを行った。ファブリー病に関しては北川が尿中のα-galactosidase AをELISA法で測定し、そのスクリーニング法の開発を試みた。田中らは肥大型心筋症の患者さんを血清中α-galactosidase A活性によりファブリー病をスクリーニングした。(5)に関しては芳野、高柳らがゴーシェ病で現在酵素補充療を行っている患者さんに関して臨床的検討を加えた。(6)に関しは鈴木(義)大野、難波らがケミカルシャペロン法によるライソゾーム病の治療法の有効性を検討した。島田、辻野らはAAVベクターを用いてそれぞれファブリー病、酸性マルターゼ欠損症のモデルマウスに遺伝子治療を行い、その有効性を検討した。また田中はアデノウイルスベクターを用いてGM1gangliosidosisのモデルマウスに対して遺伝子治療を行いやはりその有効性を検討した。(7)に関して桜庭はGM2 gangliosidosisの遺伝子変異の蛋白分子構造にあたえる影響を検討した。乾はファーバー病の遺伝子変異を検索した。高田はニーマンピック病の患者細胞において放射線誘導アポトーシスを検討した。
結果と考察
ライソゾーム病の全国調査では回収率は29.8%であった。患者総数は516例であった。大和田らが行った両調査の比較で、新しい調査ではゴーシェ病では2型がへり1型が増え、ファブリー病は患者数が増加しており30~40歳代になると腎症状、心症状が明らかになることが確認された。辻の成人例の検討では当該施において38年間に14例のライソゾーム病症例を経験した。疾患の内訳はgalactosialidosis、Gaucher病、metachromatic leukodystrophy、Krabbe病、GM2 gangliosidosis、Scheie症候群、Hunter症候群であった。(2)WeeFIMによるQOLの評価は6症例でおこなった。2歳4ヶ
月のハンター病は総得点57点、5歳のハンター病は80点、2歳2ヶ月時に骨髄移植を行ったハーラーシャイエ病の6歳男児では満点の126点であった。Krabbe病、NCL、Pompe病は最低点であった。(3)ライソゾーム病の診断指針の作成は現在検討中であり、当該年度は問題点を明らかにしたのみであった。ファブリー病、Acid maltase欠損症の診断基準に問題点が指摘された。今後訂正を加える予定である。(4)尿中α-galactosidase AをELISA法で測定することにより、ファブリー病をスクリーニングした。Cut-off値を酵素蛋白量として3.0ng/mlとしたところ敏感度100%、特異度96.3%であった。肥大型心筋症の患者さんにおけるスクリーニングでは1例Fabry病が発見された。ムコ多糖症のDABを用いたスクリーニングでは今回患者は発見されなかった。(5)ゴーシェ病における酵素補充療法の臨床効果の検討ではI型に対する効果は顕著であった。しかしIII型において神経症状は全く改善されず、むしろ治療中にも進行した。(6)リソゾーム蓄積症の新しい治療法の開発では大きく分けて2つのアプローチを行った。一つは遺伝子治療でありもう一つは低分子物質を用いてのケミカルシャペロン法である。AAVを用いての遺伝子治療の検討ではファブリー病とacid-maltase欠損症を対象としてモデルマウスを用いての検討を行いマウスでは効果が確認された。ケミカルシャペロン法の検討では1-デオキシガラクトノジリマイシン、N-(n-ブチブチル)-デオキシガラクトノジリマイシン、GalX(新しい化合物)をGM1ガングリオシドーシス、モルキオB病の細胞に投与したところ特定の遺伝子異常をもつ細胞で、残存酵素活性の有意な上昇が確認できた。またGlcX(新しい化合物)でもF213I変異をもつゴーシェ病細胞で活性の上昇を認めた。(7)ライソゾーム病の病態解析では日本人ファーバー病の酸性セラミダーゼ遺伝子変異を検索した。1例はF97E/G235Rでありもう一例はΔV96/ΔV96であった。GM2ガングリオシドーシス0異型の遺伝子変異の蛋白質立体構造におよぼす影響を明らかにした。ニーマンピック細胞および正常細胞における細胞外ストレスによるアポトーシス誘導の違いを明らかにした。
結論
本年度の研究によりある程度本邦に於けるライソゾーム病の患者数の実態が明らかになった。今後は2次調査を行いWeeFIMなどを用いて患者さんのQOLを評価してゆく。成人例のライソゾーム病患者の実態についても積極的に検討を加える予定である。本年度開発したスクリーニング法でパイロット的に実際スクリーニングを行いその有用性につき検討を加える。またファブリー病における心筋症、腎不全などのようなハイリスク群においてもスクリーニングを行ってゆく。現在行われているゴーシェ病の酵素補充療法に関しては神経症状には効果がなく、日本でも早急にこのタイプのゴーシェ病に関してコンセンサスの得られる治療指針を作成してゆく。新しい治療法の開発はマウスに於ける有用性は確認できたのでヒトへの応用を視野に入れた研究を行う。病態に関しては治療法の選択に影響がある可能性があり、今後も遺伝子、蛋白、細胞レベルの研究を進める。

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