難治性皮膚疾患に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100868A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性皮膚疾患に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 公二(愛媛大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大河内仁志(国立国際医療センター)
  • 玉井克人(弘前大学)
  • 品川森一(帯広畜産大学)
  • 白方裕司(愛媛大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病性潰瘍、褥創、難治性下腿潰瘍、栄養障害型先天性表皮水疱症などの難治性皮膚疾患に対しては有効な治療法がなく、培養皮膚移植法による治療が期待される。培養皮膚移植は患者自身の細胞を用いる自己移植と他人の細胞を用いる同種移植に分類され、自己移植は主としてstem cell移植を、同種移植はbiological dressing効果を目的として使用される。同種移植は熱傷などの緊急性の患者に用いられるが最終的には生着しないことおよび潜在性の感染症の可能性が完全には否定できないことなどから、緊急性よりもstem cellの生着が重視される難治性皮膚潰瘍に対しては自己培養皮膚移植が適している。しかし、培養皮膚移植は現在、臨床的に普及しているとは言い難い。その理由として、1)現在表皮細胞培養法として普及しているGreenらの方法は牛胎児血清を使用し、プリオン感染の危険性が懸念されること、2)毛嚢、汗腺などの皮膚付属器あるいは血管を備えた人工培養皮膚が開発されていないこと、3)広く臨床応用を可能にするために必須である低コストかつ簡便な培養皮膚の保存法および輸送法の開発が不十分であること、4)先天性表皮水疱症などの遺伝性疾患の治療に不可欠な遺伝子治療の基礎技術の開発が遅れていること、5)これらの研究、開発の基礎となる皮膚構成細胞のstem cellの基礎的研究が臨床応用開発の視点で行われていないことなどが挙げられる。本研究は上記の培養皮膚の問題点を解決した皮膚難治性疾患に対する自己培養皮膚移植法を確立することを目的として行う。
研究方法
角化細胞のStem cellの単離・培養に関する研究では、正常角化細胞(新生児包皮由来)、無血清培地(KGM-2)を用いた。まず低密度培養を可能にするために、培養液の検討を行い、角化細胞の培養上清を新鮮な培養液に25%%, 50%, 75%加えて96穴プレート上で限界希釈法により細胞増殖を比較検討した。セルソーターを用い、コラーゲンIVでコートした96穴プレートにalpha6インテグリンないしbeta1インテグリンを強発現している細胞を1個ずつ播種し、倒立顕微鏡で経時的に観察した。感染症の高感度診断技術の確立に関する研究(PrPSc検出のための高感度サンドイッチELISA法の開発)に関しては、大腸菌で発現させた組換えマウスPrP(rMoPrP23-231) をPrP遺伝子欠損マウスに免疫して常法に従い細胞融合を行い、ハイブリドーマの上清をrMoPrP23-231でスクリーニングを行ない、ハイブリドーマを樹立した。欠損組換えマウスPrP、各種動物組換えPrP及びペプスポット膜を用いて、抗体の性状解析を行った。PrPScの変性剤GdnSCN濃度をcaptured ELISAにより検討し試料調整法を検討した。
牛由来材料を用いない培養法の確立に関しては、MCDB153 type II無血清培地のアミノ酸、微量分子の配合量を検討し、さらに添加因子を種々組み合わせることで完全無血清培養法を確立した。培地の可否についてはすでに保存している角化細胞を用いる系と初代培養の系の両方で検討した。さらに、完全無血清にて培養した角化細胞を用いた三次元培養皮膚の作製が可能かについて検討した。Ⅶ型コラーゲンcDNAのクローニングに関しては、ヒト角化細胞cDNAライブラリーからRT-PCR法にて分割してcDNAを作成し、それぞれを制限酵素切断とライゲーション処理にてcDNAを作成した。得られたcDNAの塩基配列をシーケンサーで確認し、正常ヒトcDNAの塩基配列と一致しているかについて確認した。また、アデノウィルスベクターを用いた三次元培養皮膚への遺伝子導入について検討した。
結果と考察
ケラチノサイトの培養上清を25%, 50%, 75%加えたものの方が新鮮な培養液のみの場合よりも低密度で増殖できることが示された。通常の培養条件では96穴1wellに100個以下の場合、増殖しないのに対して、特に50%, 75%加えたものでは1wellに5-10個程度の細胞からコンフルエントになるまで増殖できた。培養上清中の細胞成長因子等を、ELISA法を用いて検討したが、新鮮な培養液と有意差のあるものは見いだせなかった。alpha6インテグリンないしbeta1インテグリンを強発現(上位10%)している細胞は1個からコンフルエントになるまで(約2-3万個)増殖することが可能であった。1日に1回細胞分裂をし、2-3週間でコンフルエントになった。1週間目ころから角化した細胞が出現し、10日以降には樹状突起をもった神経細胞様のものも出現した。培養上清中に存在するケラチノサイトの生存と増殖に関与する因子はケラチノサイト自身が産生しているものであり、それが何であるかを追求することは意義あることと思われる。また1個から2-3万個に増殖する過程で分化した細胞が出現しており、一部樹状突起をもつ神経細胞様の細胞が出現したのも興味深い。対称分裂と非対称分裂のメカニズムを考える上で重要な点と思われると同時に、ケラチノサイトの未分化状態維持機構の解明につながる可能性を秘めていると思われる。プリオンの変性分散には2.6M以上のGdnSCNが必要であった。プリオンの高感度診断法としてELISAを確立した。mAb 44B1をcaptured抗体として固相化し、mAb 72-5からビオチン化Fabを調整し、HRP標識ストレプトアビジンと共に検出系として、ELISA系を構築した。感染マウス脳乳剤を非感染マウス脳乳剤で2倍段階希釈し、各希釈からウエスタンブロット用、ELISA遠心、ELISA遠心無しの試料を調整し、各々の方法で検出限界を求めて感度の比較を行った。ウエスタンブロット法では2E-8,ELISA遠心無しでは2E-9、ELISA遠心で2E-14が各々の検出限界であった。今回確立されたELISA法は遠心を省いて試料を調整してもウエスタンブロット法と同等以上の感度であった。先に今回使用したウエスタンブロット法の系とスクリーニングに用いられているキットの感度の比較を行い、ウエスタンブロット法が、4倍ほど感度が高い成績を得ている。このことから、本ELISA法は遠心操作を加えない簡便法の場合でも十分スクリーニングに用いることができると推測された。MCDB153 type II培地のアミノ酸含有を変更した培地を作製した。添加因子の最適の濃度を決定し、カルシウム濃度を変更した。保存培養角化細胞を用いて細胞の増殖能を検討したところ、従来の培地と同等ないしはそれ以上の増殖が認められた。正常ヒト皮膚から初代培養を行ったところ、同程度の細胞増殖が認められ、さらに継代を繰り返して細胞増殖能を検討したところ、7-10代の継代が可能であった。新規無血清培養法で培養した角化細胞を用いて三次元皮膚を作製し、組織学的に完成度を比較検討したところ、従来の方法とくらべ何ら遜色のない三次元培養皮膚が完成した。この培養法は培養液の見直しと添加因子の調製を繰り返すことで達成できたと考えられる。また、この培養法を用いて培養した角化細胞は従来の方法で分離した角化細胞と同様に、良好な三次元皮膚を形成
しうることが示された。今回の培養法では角化細胞の増殖は比較的早く、臨床応用に関しても有利であると思われる。細胞の増殖が早い分、分化の形態を呈する細胞の比率も多少多い印象を得ており、今後さらなる培養液の改良が望まれる。今回の研究では、角化細胞全体でその増殖能を比較検討したが、今後は幹細胞を特異的に増殖させる培養液の開発を進めてゆくべきであると考えられる。ヒトⅦ型コラーゲンcDNAのクローニングに成功した。さらに、三次元培養皮膚へのアデノウィルスベクターを用いたマーカー遺伝子の導入に成功した。これらの成果により栄養障害型表皮水疱症の遺伝子治療が発展することが期待される。
結論
角化細胞の無血清培養法を確立することに成功した。また、プリオンの迅速な検出法を開発したことは今後の培養皮膚移植を開発する上で大きな功績であるといえる。さらに、1個の細胞から2-3万個の細胞まで増殖させることが可能となったことは、今後の再生医療において大きな意味を持つと考えられる。これら培養法の基礎技術の改良に加え、Ⅶ型コラーゲン遺伝子のcDNAが得られたことは表皮水疱症患者の遺伝子治療が飛躍的に進むことが予想される。

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