難治性血管炎に伴う多臓器不全に係る病態の解明および治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100865A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性血管炎に伴う多臓器不全に係る病態の解明および治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 和男(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 笹田昌孝(京都大学)
  • 木村暢宏(福岡大学)
  • 山本健二(国立国際医療センター研究所)
  • 岡田秀親(名古屋市立大学)
  • 田之倉優(東京大学)
  • 岩倉洋一郎(東京大学医科学研究所)
  • 山越智(国立感染症研究所)
  • 相澤義房(新潟大学)
  • 布井博幸(宮崎医科大学)
  • 関塚永一(国立埼玉病院)
  • 竹下誠一郎(防衛医科大学)
  • 高橋啓(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多臓器不全は、白血球の再活性化で急激に発症してくる病態であり致命的である。加齢だけでも全身的な臓器機能異常がもたらされ、多臓器不全の準備状態をきたし、若年者でも全身の血管炎やリウマチ・膠原病では同様な異常が想定できる。これらが、肝不全の発症と好中球の活性化を契機に多臓器不全への進展して行くことを阻止する必要がある。このためLECT2や、IL-Raなどのサイトカインのノックアウトマウスやまた血管炎誘発モデルによる病態の解明が不可欠である。また、これらの機能不全にかかわる遺伝子、免疫、補体、血球、凝固、循環にかかわる集学的な解明が必須である。多臓器不全では肝臓の役割は大きく、劇症の肝傷害は、IFNγやIL-1、IL-6など炎症性サイトカイン、補体系、凝固線溶系、白血球の活性化を通して、血管、肺、腎、心臓などの多臓器を標的臓器として傷害をもたらす。
本研究の目的は、多臓器不全の主座となる肝臓での劇症肝炎誘発モデルを用いて、主任研究者らが作製したLECT2ノックアウトマウスなどのサイトカイン、血管炎をはじめとする炎症、免疫応答不全のモデル動物の開発、白血球の活性化機能の解析や補体の活性化のかかわりなどを多面的から検討し、診断・治療に利用可能な診断プローブやイメージングを含めた解析法を開発することである。また、各種病態モデルマウスを開発し、病態解明はもとより治療法への利用を可能にする。具体的には、川崎病をはじめとする血管炎の誘発機構を解析し、血管炎による多臓器不全の解析を通して治療法を開発する。また、分担者が明らかにしてきていたインフルエンザウイルス感染症における多臓器不全に関与するアポトーシスの誘導マーカーであるチトクロームcの意義とその利用を検討する。また、アポトーシス誘導機序の解明とその抑制による治療法の開発もめざす。さらに、新規遺伝子のLECT2の結晶解析からドラッグデザインの開発をめざし、分担者が明らかにしたIL-1Raの治療への応用も視野に入れている。
主任研究者らがクローニングしたLECT2は、肝機能異常や変形性関節症患者における異常高値、破骨細胞の破骨活性の抑制など広範な病態に関与することで注目され(Arth. & Rheum. 2000)、ドイツでも本研究は追認されている。さらにLECT2ノックアウトマウスが条件により劇症肝炎と多臓器不全様をきたすことも注目されている。これに加え、活性酸素の関連でも、ジュネーブ大Krause教授、米国テキサス大医学部Clark医学部長、Ahuja助教授、およびアイオワ大Nauseef教授との共同研究の推進が企画されているなど、国際的にも注目されている。一方、主任研究者らは、LECT2ノックアウトマウスでは多臓器不全様の劇症肝炎像を呈することを見出している。また、LECT2の結晶解析からの創薬も期待される。一方、分担者らが独自に開発したIL-1Raノックアウトマウスでの血管炎の発症や、血管炎の発症関連遺伝子の染色体マッピング、CPRによる炎症性ペプチドの制御、多臓器不全にかかわるインフルエンザウイルス感染症によるアポトーシス誘導マーカーとしてのチトクロムcの検出法の確立、自己免疫心筋炎モデルの開発がある。それらの解析をサポートするナノプローブの開発やイメージングによる生体解析の方法の確立など、他方面からの解析準備ができており、今後の発展が期待されている。
本年度は、肝臓をはじめ多臓器不全の発症や臓器障害の劇症化の早期診断と劇症化への移行を阻止するための治療法の開発をめざした。(1)劇症化と多機能不全をもたらす因子の解明、(2)モデルマウスおよびプローブの作製、(3)治療法開発について研究した。具体的には、1)病態と治療:多臓器不全に伴う心筋炎、動脈炎、不整脈の解析、インフルエンザ脳炎脳症の血中チトクロームcの意義を、家族性血球貪食症候群のTCRの多様性とクローンT細胞の関与、川崎病の血管炎における好中球の役割を明らかにする。2)病態解析モデル動物:川崎病モデルマウスによる血管傷害遺伝子の染色体をマッピングし、肝炎、関節炎・血管炎の発症機転をLECT2やIL-1Raのノックアウトマウスにより解析する。一方、多臓器不全に関わる補体C5a のCPRによる制御の重要性や、末梢好中球機能亢進とアポト-シスの遅延を解析する。3)プローブ開発と分子立体構造解析:ナノ微粒子の開発と、超高速度高感度ビデオカメラシステムを用いた微小循環測定を確立し、LECT2の結晶化を検討する。
研究方法
1)遺伝子ターゲテイングマウス:LECT2, IL-Raなどのノックアウト、トランスジェニックを作製した。血管炎誘導の多型解析(系統差)、血管炎・多臓器不全誘導マウスの開発。2)多臓器不全の発症機構の解明:サイトカイン系、補体・免疫系の役割を、ELISA法および酵素学的に測定した。血管炎、感染により誘発される臓器アポトーシスによる傷害、多様な肝機能の異常性の解析を、種々のマーカーを用いて測定した。3)診断と治療法の確立:免疫機能、遺伝子機能の異常マーカーの選定をPCR, RT-PCR法により行った。
結果と考察
本年度は、以下の成果が得られた。
多臓器不全の劇症化と修復の分子機構を明らかにするために、1)多機能不全因子の特定、2)モデルマウス作製、3)治療法開発の3プロジェクトから検討した。
1.病態と治療
(1)多臓器不全を伴う心筋炎、動脈炎、不整脈の解析出来た。
(2)インフルエンザ脳炎脳症の血中チトクロームcの意義が明らかになった。
(3)家族性血球貪食症候群のTCRの多様性とクローンT細胞の関与が示された。
(4)川崎病の血管炎における好中球の役割を明かにした。
2.機構解析モデル動物
(1)川崎病モデルマウスによる血管傷害遺伝子の染色体マッピングし、2-3の部位が特定された。
(2)肝炎、関節炎・血管炎の発症機転をLECT2やIL-1Raのノックアウトマウスによる解析の結果、両サイトカインの関与が示唆された。
(3)多臓器不全に関わる補体C5a のCPRによる制御の重要性が明らかになった。
(4)末梢好中球機能とアポト-シスの関連の解析が出来た。
3.プローブ開発と立体構造解析
(1)ナノ微粒子プローブの開発と細胞の標識の実用化の見通しができた。
(2)超高速度高感度ビデオカメラシステムを用いた微小循環観察系確立。
(3)LECT2の結晶化に成功した。
結論
多臓器不全の要因に関し、劇症化機転・修飾にかかわる炎症細胞の機能、因子、分子の特定、役割の解明、分子機構に基づく治療法の開発をめざした。1)多臓器能不全因子の特定、2)モデルマウス作製と解析プローブの開発、および3)治療法開発の3プロジェクトを発足させ、その結果、本年度は、以下の成果が得られた。
1.多臓器不全因子をターゲットにした機構解析モデル動物
(1)肝炎、関節炎・血管炎の発症機転をLECT2やIL-1Raのノックアウトマウスによる解析を行った。
(2)川崎病モデルマウスによる血管傷害遺伝子の染色体マッピングをし、特定の部位の因子による可能性を示した。
(3)多臓器不全に関わる補体C5a のCPRによる制御の重要性を明らかにできた。
(4)末梢好中球機能とアポト-シスの関連について解析した。
2.多臓器不全解析を支援するプローブ開発と立体構造解析。
(1)ナノ微粒子プローブの開発と細胞標識の実用化の道が開けた。
(2)超高速度高感度ビデオカメラシステムを用いた微小循環観察系を確立した。
(3)LECT2の結晶化の成功した。
3.病態解析と治療の指針
(1)多臓器不全を伴う心筋炎、動脈炎、不整脈の解析した。
(2)インフルエンザ脳炎脳症の血中チトクロームcの意義を検討し、その有用性を認めた。
(3)家族性血球貪食症候群のTCRの多様性とクローンT細胞が関与することから、その有用性が認められた。
(4)川崎病の血管炎における好中球の役割が明かにされた。
今後は、13年度の成果を発展させ、1)治療法開発、2)発症機構の解明、3)免疫系の機能不全、4)血管炎の多様性とその解明、5)感染により誘発される血管炎と病態、6)肝機能異常の病態の検討、7)診断と治療法確立のための免疫機能・遺伝子の特定を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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