アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100864A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石原 得博(山口大学医学部構造制御病態学)
研究分担者(所属機関)
  • 東海林幹夫(岡山大学大学院医歯学総合研究科神経病態内科学)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学第一生化学)
  • 樋口京一(信州大学医学部加齢適応研究センター脈管病態分野)
  • 河野道生(山口大学医学部大学院医学研究科応用医工学系生体シグナル解析医学)
  • 横田忠明(社会保険小倉記念病院病理部)
  • 高橋睦夫(山口大学附属病院病理部)
  • 加藤昭夫(山口大学農学部生物機能科学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)外来性の線維蛋白による発症促進効果(核依存性重合反応)がアミロイドーシスの発症病理において注目されている。これまでに、マウス老化およびAAアミロイドモデルにおいて、アミロイド線維の経口および静注によるアミロイドーシスの促進効果を示した。また、異種アミロイド蛋白や異動物種のアミロイドの静注あるいは腹腔内投与、経口摂取でもアミロイドーシスの発症促進が示され、このことは、プリオン病の発症機構の解明とともに、緊急性の高い問題であり、多様な疾患群としてのアミロイドーシスの発症機序の解明の重要な糸口になると考えられる。
2)アミロイドーシスモデル動物の作製と応用。アミロイドーシスとは、さまざまな前駆蛋白が共通の線維構造としてのアミロイドを形成し、いろいろな臓器に沈着し、障害を引き起こし致死的ともなる疾患群である。いわゆる原発性や骨髄腫に伴うALアミロイドーシス、慢性関節リウマチ(RA)や結核に続発するAAアミロイドーシス、FAP、アルツハイマー病などの脳アミロイドーシス、老人性アミロイドーシスなど多くの病型がある。しかし、その有効な直接的な治療法はなく、多くは原疾患の治療による。唯一注目されているのはFAPで行われている肝移植である。また、モデル動物は十分ではなくその開発が急務である。
3)モデル動物を用いての治療法の開発
(1) ヒトの疾患により近い動物モデルを用いて治療法についての基礎的研究を行う。(2) IL-6ノックアウトマウスでアミロイドーシスが発症しないことより、AAアミロイドーシスモデルマウスにおいて抗IL-6抗体を用いての免疫療法、またAβアミロイドーシスマウスにおいての免疫療法の可能性を検討する。
研究方法
1)モデルマウスを用いたアミロイドーシス発症促進効果について。(1)種を越えたアミロイドーシスの発症促進効果の解析。 a) ヒトアミロイド線維の種類の増加(α-synuclein, lysozyme, GroES, polyglutamate などから作製したアミロイド線維)や環境から侵襲すると考えられるアミロイド線維様物質(ウシAA や絹線維、菌、飼料など)のアミロイド誘発能の解析を行う。b)外部から侵入したアミロイド線維の代謝経路の解析する為に、RAGE, HRB1レセプター などを中心とした細胞学的解析を行う。c)アミロイド(AA、AapoAⅡ)沈着臓器を肝臓に移入し、レシピエントマウスのアミロイドーシス発症の有無を検討する。d)ヒト脳アミロイド注入実験を行い、脳Aβアミロイドの発症について検討する。(2)マウスモデルでの母子間での発症促進効果とその経路を明らかにするために出産後の母雌マウスの交換やミルクの解析などを行う。(3)種々のアミロイドーシスにおいて、amyloid enhancing factor (AEF)あるいはアミロイド線維自体にアルカリ処理や過熱、焼灼などの種々の操作を行うことによって、そのAEF効果の消退を検討する。
2)モデル動物の作製と応用。(1) 脳アミロイド沈着における病態発現の分子機構と治療法の解明。a) APPswマウスにtauR406W Tgを掛け合わせて、アルツハイマー病の動物モデルを確立する。b) このマウスでtauopathyが誘発される機序を明らかにし、Aβワクチン療法を検討する。 (2) SAP欠損マウスとFAPの Tgやスウェーデン早期発症型アルツハイマー病の Tgモデルとを交配させ、脳内アミロイド沈着を調べる。SAPのリガンドの一種であるガラクトースの誘導体でアミロイド沈着の抑制を検討する。FAPの新たな遺伝子異常モデルマウス作製する。 (3) IL-6 ノックアウトマウスにアミロイドーシスが発症しないことを証明し、さらに外来性のrecombinant IL-6やSAAを投与しアミロイド発症の可能性を検討する。(4)新しく樹立したIgAを恒常的に分泌するヒト骨髄腫細胞株により、SCID-hIL6 Tg マウスで、種々の網内系賦活化を行うことによってのALアミロイド発症モデルを作製する。(5)致死的アミロイドーシスを発症するリゾチーム変異体を、酵母で発現させ、糖付加操作によって可溶化し、発症機構を解析する。
3)モデル動物を用いての治療法の開発。(1)アミロイドーシス惹起物質と併用して各種薬剤(コルヒチン、メラトニン、モネンシンなど)をマウスに投与し、アミロイドーシス発症抑制および吸収促進について解析する。(2)AAアミロイドーシスモデルマウスにおいて抗IL-6抗体を用いて、またAβアミロイドーシスマウスにおいての抗Aβ抗体を用いての免疫療法およびワクチン療法について検討する。
結果と考察
1)アミロイドーシス発症促進効果。a) AApoAIIやAAアミロイドーシスでは、アミロイド線維の血管内投与、消化管内投与および肝臓内へのアミロイド沈着臓器の移入によりアミロドーシスの発症促進を認めた。b)マウス飼育室内でのアミロイドーシス発症の拡散が観察された。c)アミロイドーシス発症マウスから生まれた仔マウスではアミロイドーシス発症の促進が認められ、母乳による発症促進因子の移行の可能性が示された。d)種々のアミロイド線維がAApoAIIアミロイドーシスを誘発した。実験的AAアミロイドーシスについても同様な結果が得られ、共通のアミロイドーシス誘発構造が示唆された。e)アルツハイマー病患者脳から抽出したAβ oligomerをAPPsw mice脳に投与すると、脳アミロイド蓄積を増強した。
2)アミロイドモデル動物の開発。a)マウス内在性のトランスサイレチン(ttr)遺伝子にMet30変異を持つマウス株を作製した。b)無SAPマウスで、IFNで誘導され、細胞増殖抑制作用を持つ核蛋白質を規定する遺伝子の発現が増強することを見出した。c) SAP欠損APP Tgマウスは学習能力が高い傾向を認めた。d)脳にAβアミロイドを再現するAPPsw Tg マウスで、脳アミロイドの沈着機序を明らかにし、Aβアミロイドの早期蓄積部位としてのlipid raftの重要性を明らかにした。e) 家族性アルツハイマー病の変異presenilin-1を発現するTgとAPPswを掛け合わせたマウスは、Aβアミロイドの蓄積促進を示した。f)ALアミロイドーシス合併したヒト骨髄腫より骨髄腫細胞株を得た。この細胞株をSCID-hIL6 Tg マウスの腹腔内に移植生存させたが、Mタンパクの負荷だけでは、アミロイド沈着は認めなかった。
3)治療法の開発。a)APPswにA_42ワクチン療法を行い、アミロイド蓄積の43%を抑制した。b)APPswにメラトニン療法を行い、アミロイド沈着を3ヶ月間抑制した。
結論
1)マウスアミロイドーシス(AApoAIIとAA)では発症促進因子の存在が明らかになった。アミロイド線維にはアミロイド誘発に関して共通構造が存在し、動物種やアミロイドタンパク質の違いを超えた発症促進効果の可能性が示唆された。
2)ヒト疾患により近いアルツハイマー病やFAPモデルマウスを開発した。モデル動物を用いての治療法の開発では、 脳アミロイドーシスのワクチン療法の有用性を示唆した。メラトニンがアミロイド沈着を抑制することを明らかにした。
これまでの結果はモデルマウスを用いて得られたものである。ヒトへの外挿を考え、1)よりヒトアミロイドーシスに近いモデルを用いた検討、2)発症因子となりうるアミロイド線維用物質の高感度検出系の開発が重要と考える。そのため1)FAPとRA、アルツハイマー病のモデルマウスを用いて、発症促進因子の移行の可能性をさらに検討する。2)食餌、腸内細菌等の生活環境やアミロイドーシス患者内のアミロイド原性物質を検出するためのモデル動物(AA やAApoAII高発現マウス等)や新たな検出方法の開発が急務である。

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