副腎白質ジストロフィーの治療法開発のための臨床的及び基礎的研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100863A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎白質ジストロフィーの治療法開発のための臨床的及び基礎的研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
辻 省次(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木康之(岐阜大学医学部)
  • 古谷博和(九州大学医学部附属脳神経病研究施設)
  • 加藤俊一(東海大学医学部)
  • 今中常雄(富山医科薬科大学薬学部)
  • 加藤剛二(名古屋第一赤十字病院)
  • 加我牧子(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 橋本有弘(三菱化学生命科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、副腎白質ジストロフィー(ALD)について、有効な治療法を確立していくことにある。ALDは白質ジストロフィーの中では最も頻度の高く、幅広い年齢層で発病する予後不良の難病である。本研究では、1.治療研究の基盤としてALDの疫学・自然歴を明らかにする、2. 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation、HSCT)の有効性評価と適応基準を明確にする、3.ALDPの生理的機能の解明および病態機序の解明する、の3点を主な目的として実施した。
研究方法
ALDの全国規模の臨床疫学調査を実施した。HSCT施行例につき検討を行った。また、臨床経過、治療効果の評価のためMRIのcentralized review、小児神経心理学の評価体制の構築を行った。MRIのcentralized reviewについては、本邦のHSCT施行例につきLoes scoreの評価を行なった。 神経心理学面についてはMoserらの提案をもとに本邦独自の検査バッテリーを立案し実施可能性と有用性・妥当性を検討した。病態機序に関して、HSCTの治療効果を明らかにするためALDP遺伝子のノックアウトマウスにLacZトランスジェニックマウスの造血幹細胞を骨髄移植し、組織ごとの極長鎖脂肪酸(VLCFA)レベルの変化と、レポーター遺伝子(LacZ)の発現を検討した。ALDPならびにペルオキシソームABCタンパク質PMP70のリン酸化とタンパク質間の相互作用をについて検討した。長鎖脂肪酸アシルCo合成酵素活性を有する新規遺伝子リピドーシン(lipidosin、Lpd)の発現特異性を免疫染色および in situ ハイブリダイゼーションによって検討した。(倫理面への配慮)分子遺伝学的研究は、被験者の同意を得て行った。
結果と考察
ALDの疫学調査1990-1999年におけるALDの受療患者数は286名で、推計患者数は185名であった。発症頻度は男子3~4万人に1名と推定され、欧米と近似した値であった。病型別では小児型が最も多く、年齢層では成人が過半数を占めた。AMNはその約半数が成人大脳型に進展した。小児型は全般的な進行が早く、成人型も多岐にわたる脳機能障害が進行することが明らかとなった。AMNは歩行障害が早期に出現、その他の神経症状の進行は遅かった。今後前向き研究により正確な自然歴の把握が重要と考えられた。
HSCTの臨床効果について国内において23例(男22例、女1例)に対しHSCTがなされている。年齢は1-15歳(中央値8歳)で初回移植の幹細胞源は骨髄18例、臍帯血5例であり、ドナーは同胞13例、非血縁者10例であった。移植後の生着は23例中19例に認められ17例が生存中である。移植前後の神経学的評価が可能であった18例では、無症状期に移植した4例全例が未発症、発症後に移植した14例では神経症状が改善もしくは進行が停止した症例は3例であった。発症早期のHSCTが大脳型ALDの症状の進行に対し有効であると考えられた。HSCTを実施後長期観察例3症例について詳細に検討した。移植結果と効果は移植時のIQやMRI所見と強く相関し、病初期で移植を実施できた症例ほど移植後の精神神経症状は良好であり、MRIでの白質病変は移植後1年以後には進行が停止している。移植後の評価は1年以内は3~4カ月毎、1年以降は年に1回ずつ行うのが適当であると思われる。評価にあたっては本研究班が構築した評価ネットワークが非常に有用であり、今後本ネットワークを活用した前向き研究が望まれる。MRIのcentralized reviewについてLoes scoreを用いてcentralized reviewを実施した。16例のHSCT実施例のMRIに対しcentralized reviewを行った。7例で1年半以上の長期にわたる画像変化を追うことが可能であった。Loes scoreは移植後で1年間は平均5点悪化するが、その後安定化し1年半以降はほとんど変化しないことが明らかとなった。この所見はミネソタ大学の報告とも一致しておりHSCTの効果を推察させる結果であった。小児大脳型ALD症例の神経心理学の評価体制の構築Moserらの提案をもとに検査バッテリーとして全般的知能、言語機能、視覚認知、構成能力、記銘・記憶力、注意・実行機能に加え、聴覚認知機能検査と神経生理学的検査を含めて立案した。これらの検査については、1日半の日程で大部分の検査を実施でき、各症例の認知機能障害の特徴を明らかにできた。MRIより早期または広汎な病変が見いだされた症例もあり、診断、治療評価に有用であることが示された。稀少疾患には施設間共同研究が欠かせないが、本研究では国内5専門施設から紹介を受けた患者に特定の一施設に来院して検査を受けて頂き、神経心理学的評価を行うことが出来,今後の前向き研究にとって重要な基盤を構築することができた。ALDの病態機序に関する研究6匹のALDP遺伝子のノックアウトマウスにLacZトランスジェニックマウス造血幹細胞を骨髄移植し、組織ごとのVLCFAレベルの変化と、マーカー遺伝子の発現について検討を行った。VLCFAレベルは全てのマウスの脾臓で有意に低下しており、中枢神経系では6匹中2匹で低下が認められた。Western blotting による解析では移植マウスの脾臓、肺にALDPの発現が確認されたが、中枢神経系では殆ど認めなかった。しかしレポーター遺伝子であるLacZ蛋白は、VLCFA値が低下している骨髄移植マウスでは、大脳神経細胞にその発現が確認され、移植造血幹細胞由来のマーカー蛋白が、ALDPノックアウトマウスの神経細胞に存在している事が確認された。ALDPとPMP70はリン酸化を受けること、そのリン酸化はチロシンキナーゼ阻害剤で強く阻害されること、抗リン酸化チロシン抗体で認識されることが明らかになった。さらにリン酸化される条件下、ALDPはPMP70と複合体を形成することが示唆された。一方、ALDの標的モデル細胞として、マウス副腎皮質由来細胞株Y1、ラットグリア細胞株C6Bを用い、脂肪酸代謝解析系を確立した。両細胞において、リグノセリン酸はパルミチン酸とは異なる代謝パターンを示し、遊離型脂肪酸として長時間細胞内に存在していた。ALDにおいて、副腎、大脳白質が選択的に障害される機序に関連して何らかの介在因子の関与が推測される。その候補としてLpdについて検討し、ラットおよびマウスにおいてALD標的器官である脳、副腎、精巣のアストログリア細胞、副腎皮質ステロイド産生細胞、ライディッヒ細胞に特異的に発現していることを明らかとした。 LpdはALDにおける組織特異的障害発症機序に関わる介在因子の有力な候補分子であると考えられる。
結論
ALDの臨床疫学調査
を実施し、その実態について新知見を得た。小児神経心理学、MRI画像のcentralized reviewの体制を構築し、HSCT実施例に対して調査研究を実施し、その臨床効果が示唆され、これを今後の前向き研究でさらに検討する必要がある。

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