進行性腎障害に対する進展の抑制に関する研究-腎糸球体及び尿細管細胞再生の腎疾患治療への応用-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100860A
報告書区分
総括
研究課題名
進行性腎障害に対する進展の抑制に関する研究-腎糸球体及び尿細管細胞再生の腎疾患治療への応用-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
林 松彦(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部)
  • 福田恵一(慶應義塾大学医学部)
  • 佐々木 成(東京医科歯科大学医学部)
  • 川村哲也(東京慈恵医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性腎障害から末期腎不全にいたる患者数は増加傾向にあり、その治療法としては、原疾患の根治と廃絶した腎機能の再生が最善であるが、今日まで実用化されていない。本研究では、これらの問題を踏まえて、腎臓の再生の可能性を検討し、実用化をはかるために立案された。
研究方法
腎臓内または腎臓外に幹細胞が存在する可能性を示考慮し、その同定を試みた。マウスの腎臓を、コラゲナーゼで処理後、個々の細胞にまで分離させ、Hoechst33342と反応させた。細胞がこの色素を十分取り込んだ時点で、fluolrescence activated cell sorter(FACS)を用いて、生細胞分画で、かつ、Hoechst33342陰性の細胞、いわゆるside population細胞を取得した。得られた細胞を培養し、4~7日後に形態を観察するとともに、抗vimentin抗体で染色を行った。前年度の検討により、変異IκB組み込みアデノウィルス(Adex IκBΔN)により、近位尿細管にNFκB抑制性の変異IκBを発現させると、アルブミン負荷による蛋白尿モデルの間質障害が抑制されることが明らかとされた。そこで、本年度は、慢性腎障害モデルで同様の検討を行った。慢性腎障害動物モデルとしては、片腎摘後抗Thy1.1抗体投与ラットを用いた。片腎摘出後1週間で、新潟大学清水教授より供与された、抗Thy1.1モノクローナル抗体を尾静脈から投与した。この抗体投与後4週間経過した時点で、開腹し、残存腎の一部を生検した。その後、Adex IκBΔN、LacZ組み込みアデノウィルス(AdexLacZ)、CTLA4-Ig組み込みアデノウィルス(AdexCTLA4-Ig)、生理食塩水を、腎動脈内に投与した。CTLA4-Igは、免疫系を介して、アデノウィルスの発現期間を延長することが知られている。その後、各群ラットの尿、血液サンプルを定期的に採取した。また、アデノウィルス投与4週間後、すなわち、抗Thy1.1抗体投与後、8週間後に動物を屠殺して、腎組織の検討を行った。造血幹細胞を自己複製、分化能を維持したままレトロウイルスを用いて外来遺伝子を導入し、これを移植することにより骨髄を改変し担体細胞を持続的に供給するシステムを開発した。5-FUにて前処置した雄マウス(DBA/2j)の骨髄を採取し, IL-3, IL-6, Stem cell factor存在下で48時間pre-incubationした後、IL-1 receptor antagonist(IL-1Ra)およびmock遺伝子(human GC)をレトロウイルスを用いて3日間感染させた。このIL-1Ra, GC産生骨髄細胞を、放射線照射した雌マウスに4日間にわたって移植した後、これらキメラマウスに抗糸球体基底膜抗体誘導腎炎を惹起させた。Donor細胞の局在はY probeを用いたfluorescent in situ hybridization(FISH)で確認した。さらに長期間有効に遺伝子を導入できることを確認するため骨髄移植後3ヵ月後に再度抗糸球体基底膜抗体を投与し、生存率の差を比較した。急性腎不全におけるE2F1の働きをより明確にするため、E2F1ノックアウトマウスを用いて急性腎不全を作成し検討した。またE2F1組み込みアデノウイルスによるE2F1過剰発現マウスにおいて急性腎不全後の腎機能を観察した。またWnt4の発現する細胞の同定を組織学的検討を用いて行った。骨髄幹細胞から誘導した機能細胞が機能を維持したまま生着しうるかを、昨年度開発したCMG細胞を用いて検証した。ミオシン軽鎖-2vのプロモーターにGFPを組み込み、CMG細胞に移入することにより、GFP発現を指標として心筋細胞を単離した。その後、心臓内にこの細胞を移植し、組織的にその変化を検討した。
結果と考察
FACSにより、腎細胞からHoechst33342陰
性細胞を取得した。約0.7%の細胞がSP細胞として分離され、4日から7日間培養したところ、一部はメサンギウム様の形態を呈し、一部は神経細胞様の形態を呈する細胞へと分化・増殖が認められた。これらの細胞を抗vimentin抗体により染色を行うと、少なくとも一部はdesmin陽性細胞であった。神経細胞様細胞に関しては、現時点でその性質を同定中である。尿中蛋白量は生食群、AdexLacZ群の間で有意差を認めず、また、AdexLacZ+AdexCTLA4-Ig群とAdexIκBΔN+AdexCTLA4-Ig群で有意差を認めなかった。また、血清クレアチニン、24時間内因性クレアチニンクリアランス、尿蛋白量ともにこれらの4群間で有意差を認めなかった。光顕所見は、これまでの報告と一致して、4週後の時点で、糸球体領域におけるメサンギウム細胞の増殖、基質の増加を認め、間質への細胞浸潤を認めた。さらに、生検4週後の時点では、最初の生検時に比べ、糸球体硬化の進展、尿細管萎縮をはじめとする間質障害の進展が対照群で明らかに認められた。AdexLacZ投与群、AdexCTLA4-Igでは対照群に比べ、やや高度な変化を認めた。これに対し、AdexIκBΔN+AdexCTLA4-Ig群では、軽度ではあるが、間質障害の軽減が認められた。現在、CTLA4-Igの発現が十分でなかった可能性につき検討中である。持続的遺伝子導入システムの開発研究ではIL-1Ra キメラはMock キメラに比し28日後のBUN, クレアチニンの上昇が有意に抑制され、組織学的にも糸球体障害が有意に抑制された。FISHでは抗糸球体基底膜抗体投与後3日目にはdonor細胞の糸球体への集族が確認され、また同時期の単離糸球体の培養上清においてIL-1Ra蛋白の分泌がIL-1Ra キメラにおいて有意に上昇していることが確認された。さらに腎炎惹起28日目に再度抗体を投与したところ、IL-1Ra キメラではMock キメラに比し明らかな生存率の延長が認められた。これらにより、骨髄改変により抗炎症性サイトカインを持った細胞が糸球体の炎症局所に持続的に供給されることにより、4ヶ月という長期に渡り糸球体障害の進展を抑制することが可能であることが示された。そこで、現在腎再生因子と考えられているHGFを持続的に障害部位に発現させることにより、腎不全自然発症マウスの腎機能の改善が可能か検討をはじめた。急性腎不全(ARF)での近位尿細管細胞は、24~48時間の間に、再生、増殖し、この時期に、E2F1が近位尿細管が劇的に発現亢進することを、ラットの虚血性急性腎不全モデルにおいて確認したが、平成13年度には、E2F1ノックアウトマウスを用いて同様の検討を行った。ARF後の腎機能は、E2F1ノックアウトマウスにおいて、野性型に比べて有意に低下していた。組織学的にもE2F1ノックアウトマウスでは、野性型に比べて近位尿細管の再生、増殖が低下していた。またE2F1ノックアウトマウスにおいて急性虚血後に発現するcyclin D1、 cyclin Aの発現も有意に低下していた。またE2F1組み込みアデノウイルスを注入後、ARF後の腎機能を観察したところ、E2F1の強制発現されたラット腎では、LacZ-アデノウイルス投与群に比べて有意に改善していた。またARF後に発現するWnt4は、共焦点レーザー顕微鏡と組織学的検討の結果、近位尿細管細胞でE2F1を発現している細胞と同じ細胞で発現しており、尿細管細胞の増殖、再生との関与が強く示唆された。継代化されたCMG細胞は、心室筋と同様のチャネル、受容体発現を示し、さらに、CMG細胞をマウス心臓に移植すると、移植された細胞はレシピエントの心筋細胞と平行した走向を示した。これら移植細胞は最低3カ月はレシピエントに生着することが観察された。
結論
腎細胞に関しては、腎内に幹細胞が存在する可能性が支持され、今後の腎再生に重要な知見が得られた。また、アデノウィルスを用いた遺伝子導入により、in situで間質硬化の改善、進行抑制が可能であることが示され、進行性腎障害の治療開発に有用な知見を与えた。さらに、改変した骨髄細胞より分泌される蛋白が、進行性腎障害を抑制しうることが確認されたことは、再生治療の手段を考える上で貴重な第一歩となる知見といえる。急性腎不全モデルからは、腎臓再生に有用
な因子が同定されつつあり、今後の応用が期待される。骨髄細胞を出発点として、心筋細胞をモデルとして、機能細胞の幹細胞を継代化しうることが証明され、その移植が機能を保持することが示された。

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