強皮症調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100840A
報告書区分
総括
研究課題名
強皮症調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
新海 浤(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 治(群馬大学)
  • 稲垣 豊(国立金沢病院)
  • 尹 浩信(東京大学)
  • 片山 一朗(長崎大学)
  • 桑名 正隆(慶応義塾大学)
  • 西岡 清(東京医科歯科大学)
  • 畑 隆一郎(神奈川歯科大学)
  • 前川 嘉洋(国立熊本病院)
  • 森 聖二郎(千葉大学)
  • 森  満(札幌医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
強皮症の病因・病態についてはまだ不明な点が多く、患者のQOLを著しく障害する臓器線維症、ことに皮膚硬化に対する有効な治療法もない。 治療法の決定には病期による病態の把握、臨床像と自己抗体の関連を早急に検討することが重要である。 当班ではこれまで本症は単なる臓器線維症と異なり、コラーゲン線維の硬化が特徴であり、多因子により発症することを述べてきた。 そこで病因・病態および危険因子の検討を最近の線維化機構の分子レベルの研究に焦点をあて将来の治療の開発につなげるように検討した。さらに臨床的に応用を出来るよ、に自己抗体の簡易検出法を開発した。また疫学班の協力を得て個人票情報をデ-タ化した電子ファイルを用いた解析からデーターの有用性を検討した。
研究方法
1)臨床調査個人票情報をデ-タ化した電子ファイルを用い解析、2) 病因・病態および危険因子の検討、3) 自己抗体の高感度検出法の開発、4)治療法の開発
結果と考察
臨床調査個人票情報の有用性
平成11年度に医療費の公費負担を受けた強皮症11,381例の臨床調査個人票情報をデ-タ化した電子ファイルを用い解析から、全体の性比(女性/男性)は7.3で、30歳未満では値が低かった。
推定期間は平均約8~11年の罹病期間と推定できた。男性で約8年、女性で約10~11年で、男女別推定発症年齢分布は女性では発症が35歳代から、男性では40歳代から増加してくる。レイノ-現象出現率は20歳以上で高い出現率を示し、特に40歳以上80歳未満では90%以上であった。
自己抗体では抗Topo-(I)抗体が肺線維症と関連を持ち、かつ抗セントロメア抗体とは相反する関連を持つことがわかった。自己抗体(抗Topo-I抗体, 抗セントロメア抗体)の保有と肺機能検査成績結果の割合%VCとDLCOは抗セントロメア抗体のみ陽性例が、抗Topo-I抗体のみ陽性例や両者とも陽性例より肺機能低下例が少ない傾向にある。
分光画像による強皮症の評価
安静時のoxyHb分布画像
安静時の健常者は10例全ての人が指先のoxyHbが一番多く、SSc患者は8例中2例に指先の虚血が認められ、8例中2例で全体のoxyHbが多い人が認められた。
総ヘモグロビンの変化
冷却30秒後の左手の3領域は、速やかにtotalHbが回復してくる。これは、健常者、SSc患者共に見られた。冷却をしていない右手は、健常者では冷却中にtotalHbが安静時と変化が認められないかまたは上昇する。一方、SSc患者は8例全例において、冷却中にtotalHbが減少することが認められた。これは対側の手の温度低下を回復させる機能障害を物語る。
分光画像技術は、非接触・非侵襲な安全でかつ短時間に画像情報を取得でき、SSc患者の酸素代謝の評価、薬効評価に有用である。
病因・病態および危険因子の検討
IL-12を37名の強皮症患者(dcSSc 27名,lcSSc10名)から採取した血清をELISA法を用いて解析した。 SLE (n=6)患者および健常者コントロール (n=41) 血清に比較して,強皮症患者血清 (n=37) は有意に高いレベルを示した.とくにdcSSc患者はlcSSc患者に比べより高い血清IL-12レベルを呈した。これらの血清IL-12レベルは、IL-6、 IL-8、 TNFαや IFNγなどの炎症性サイトカインの血清レベルとは相関はなかった。高IL-12価(350pg/ml以上)を示す患者では、指尖部潰瘍形成と相関が認められ、血沈やCRPなどの非特異的炎症パラメータ、レイノー現象などの末梢循環不全、食道症状が出現しやすい傾向にあった。
コラーゲンの異常蓄積の原因を明らかにするために、細胞の微小環境を形成するコラーゲンマトリックスによる皮膚線維芽細胞のコラーゲン合成制御について調べた。皮膚線維芽細胞のコラーゲン合成活性はI 型コラーゲン上では促進され、三次元のI 型コラーゲンゲルでは逆に阻害を受ける。強皮症患者線維芽細胞のコラーゲン合成は対照の細胞と同様な制御を受けたが、I 型コラーゲン上でも、三次元のI 型コラーゲンゲル内においても対照の細胞より活性が高い。 COL1A1遺伝子では、第一イントロンに、COL1A2 鎖遺伝子では上流3.4キロ塩基対に2次元のコラーゲンマトリックスに応答してCOL1A2鎖遺伝子の転写を促進する配列の存在が示唆された。細胞は細胞外マトリックスの示す位置情報をインテグリンなどのレセプターを介して細胞内に伝達して応答していると考えられた。
インテグリンαvβ5により細胞外マトリックX中のproteolytic cascadeが制御されている可能性が示唆されている。強皮症皮膚線維芽細胞は正常皮膚線維芽細胞と比較して2倍程度のインテグリンβ5を発現し、細胞表面のインテグリンαvβ5の発現量も、強皮症皮膚線維芽細胞で亢進していた。強皮症皮膚線維芽細胞におけるインテグリンαvβ5の発現の亢進が、細胞外マトリックスのproteolytic cascadeを調節しているのみでなく、・型コラーゲン遺伝子の発現の亢進にも関与している。
強皮症患者由来線維芽細胞は、健常者由来の細胞に比し、コラーゲンCOL1A2の発現増加とともに、IL-4受容体αの発現増加も認められた。一方、デルマトポンチン(DPT)の発現は著明に抑制されていた。健常者線維芽細胞ではDPTを抑制しない濃度のIL-4で、患者線維芽細胞においてDPTの発現を明らかに抑えた。この濃度で患者線維芽細胞においてCOL1A2の発現を明らかに増加させた。強皮症患者におけるDPTの発現減少は、IL4-受容体αの発現増加によることが示唆された。強皮症で見られたIL-4受容体の発現増加は、膠原線維沈着増加の原因考えられた。
強皮症皮膚線維芽細胞は、正常皮膚線維芽細胞と比較してI型、II型TGF-β受容体の発現が亢進し、EGFはII型TGF-β受容体遺伝子発現量,蛋白量を増加させた。
強皮症におけるコラーゲン遺伝子発現亢進の機序は、同遺伝子プロモーター領域に4つのcis-acting elementが存在し、転写因子Sp1/Sp3が結合することを明らかとした。Sp1/Sp3はGC-boxまたはTCCTCC motifを介して作用し、転写抑制領域(TCCCCC領域)はこれらの領域に対するSp1/Sp3の結合を阻害した。この作用によって転写抑制領域でヒトCOL1A2鎖遺伝子転写制御を行っていると考えられた。
Smad3のTGF-βシグナルに占める機能的意義を明らかにするため、Smad3欠損マウス由来細胞と野生型マウス由来細胞との間でTGF-βに対する反応性を比較した。Smad3がTGF-βの細胞遊走シグナル伝達に抑制的に働いている可能性を示唆した。TGF-β刺激された細胞におけるアクチンストレスファイバーの形成を検討すると、野生型マウス由来細胞では、刺激後4時間の時点でほぼ全ての細胞においてアクチンストレスフイバーの出現をみるのに対し、Smad3欠損マウス由来細胞では、TGF-β刺激によるアクチンストレスファイバーの形成は認められなかった。
臓器線維化においてMCP-1の発現が増強していることが報告され、強皮症においてもMCP-1の発現が増強している。ブレオマイシン(BLM)誘導性皮膚硬化モデルを用いてMCP-1の発現を検討した。BLM(1mg/ml)をC3Hマウスに隔日で4週間反復投与し、各週においてMCP-1の発現を蛋白、mRNAレベルで検討した。免疫染色では硬化病変部において浸潤する単核球、線維芽細胞に陽性所見を認めた。MCP-1のレセプターであるCCR-2の発現も硬化の誘導に伴い亢進してみられた。
強皮症の患者血清中の可溶型TNFRp55については、皮膚硬化の重症度や内臓病変、皮膚症状、他の検査値との相関は明らかではない。強皮症患者血清中の可溶型TNFRp55をELISA法により測定し、発症年齢やBarnettのtype、skin score (Modified Rodnan Total Skin Thickness Score:TSS)等の臨床所見、肺線維症などの内臓病変、各種皮膚症状、およびP-・-Pなどの検査値と可溶性TNFRp55の測定値間の相関性について統計的に解析した。その結果、可溶性TNFRp55測定値は、Barnettのtype・の患者群において正常およびtype・の患者群に比較して有意な上昇を認め、またskin score (TSS)、P- ・-P、血清β2 microglobulin、immunoglobulin Gの値および手指爪上皮出血と相関を示した。
自己抗体の高感度検出法の開発
抗RNAポリメラーゼ(RNAP) I/III抗体は強皮症に特異性がきわめて高く、皮膚硬化が急速に進行して強皮症腎を高頻度に伴うdiffuse型に高頻度に検出されることから、強皮症の診断、病型分類、治療方針の決定に際してきわめて有用な自己抗体である。しかし、煩雑な免疫沈降法が唯一の検出法であるため、一般診療の場では普及していない。RNAP IIIのサブユニットのひとつであるRPC155のアミノ酸残基(AA)732-1166番に強皮症患者血清中の抗RNAP I/III抗体により認識される主要なエピトープが存在することが明らかにした。リコンビナント断片を作成し、RPC155のAA891-1020が抗RNAP I/III抗体により共通して認識されるエピトープの最小領域であることが明らかとなった。RPC155上の主要なエピトープを用いたELISAは感度、特異性ともに高い簡便な抗RNAP I/III抗体のスクリーニング法と考えられた。
治療法の開発
Interferon (IFN) γおよびIFN αがコラーゲン発現に対して抑制的に作用する。これは、IFNγとIFNαはCOL1A2プロモーター上のTGF-β-responsive elementに結合するSmad3と拮抗してCOL1A2転写を抑制し、その作用はp300依存性のためである。IFN αの細胞内シグナルがCOL1A2転写を抑制することが明らかになり、線維化治療としてIFN αは有効と考えられた。
TNF Rp55-/-マウスにブレオマイシンを皮下投与することで野生型に比べ早期に著しい皮膚硬化を来し、TNFRp55を介したシグナルが細胞外マトリックス分解系において重要な役割を担っている可能性を示した。TNF αの発現を促進させることにより線維化を抑制する可能性を見出した。
マウスにブレオマイシン(BML)を投与すると同時にHGF-リポゾーム(HGF-liposome)を筋肉に投与することにより皮膚硬化の誘導を抑制することを見出し、すでに誘導された皮膚硬化モデルマウスにHGF-liposomeを筋肉内に投与して真皮の肥厚、コラ-ゲン量ともに減少することを確認した。HGF-liposomeを投与することにより皮膚のTGF-β1蛋白量、mRNA発現量ともに抑制された。HGF-liposomeの筋肉内投与による強皮症の遺伝子治療の可能性が示唆された。
結論
他の臓器線維症を含めた病因病態との関連および線維化治療の開発が重要である。

公開日・更新日

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