難治性膵疾患に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100838A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性膵疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小川 道雄(熊本大学医学部第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 跡見 裕(杏林大学医学部第一外科)
  • 大槻 眞(産業医科大学医学部第三内科)
  • 加嶋 敬(京都府立医科大学医学部第三内科)
  • 税所宏光(千葉大学医学部第一内科)
  • 須田耕一(順天堂大学医学部第一病理)
  • 早川哲夫(名古屋大学医学部第二内科)
  • 松野正紀(東北大学医学部第一外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、難治性膵疾患として、重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症を対象とし、その実態を疫学的に調査し成因や実態を解明するとともに、それぞれの疾患における最も適切な診断法、治療法を確立することを最終的な目的とした。
研究方法
重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症を対象とし、成因、病態、治療に関する各個研究を行うとともに、14の共同研究をスタートした。
重症急性膵炎では、①食生活・生活習慣に関する症例対照研究、②画像診断法に関する検討、③重症急性膵炎の長期予後に関する調査、④急性膵炎動物モデルの病理組織像の比較検討、⑤動注療法の治療効果の検討、⑥急性膵炎の重症度に応じた診療指針の作成、慢性膵炎では、①実態調査、②診断におけるMRCPの評価、③Stage分類の作成、④家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査、および原因遺伝子の解析、⑤いわゆる自己免疫性膵炎の実態調査、膵嚢胞線維症では、①全国調査、②CFTR遺伝子の解析、③Stage分類の作成、を共同研究のテーマとした。 
結果と考察
A.重症急性膵炎
①食生活・生活習慣に関する症例対照研究:プロスペクティブな症例対照研究により、飲酒と栄養摂取量(特に脂質、一価不飽和脂肪酸)の不足が急性膵炎の発症リスクを上昇させることを明らかにした。
②画像診断法に関する検討:新CT Grade分類とMRIについて検討し、いずれも重症度診断に有用であることを確認した。
①長期予後に関する調査:重症急性膵炎から回復した後、どういう経過をとるのかについて、1987年の全国調査対象例を追跡調査し、解析した。714症例の回答があり、3回以上急性膵炎を再発した症例が10%、慢性膵炎への移行が11%、アルコール性膵炎の内、飲酒を継続しているものが29%、膵癌をはじめとした癌の合併が36%存在すること、などが明らかとなった。
②急性膵炎動物モデルの病理組織像の比較検討:各施設で用いられている実験モデルにどういう特徴があるのかを病理組織学的に解析した。急性膵炎は浮腫性と壊死性膵炎に大別され、前者3、後者6実験系であった。後者の壊死性膵炎は、壊死の分布により限局性とびまん性に亜分類された。限局性の壊死はさらに巣状、小葉性、および塊状の壊死に分けられた。びまん性は小壊死や類壊死が散在性に膵全体に認められた。
この他、浮腫性膵炎にはセルレイン投与、壊死性膵炎にはタウロコール酸の膵管内注入が推奨されること、これら動物モデルの組織像はヒト急性膵炎と類似していること、を明らかにした。
③動注療法の治療効果の検討:重症度が高度の症例(Stage 3、4)や発症後48時間以内に動注療法を開始した症例において救命率が改善されることを明らかにした。
B.慢性膵炎
①実態調査:全国調査を行い、2,759症例を集計した。疼痛対策、ペンタゾシン中毒、内視鏡治療などの新しい治療法、膵管狭細型慢性膵炎や慢性閉塞性膵炎などの特殊型、の実態を明らかにした。推計患者数は41,700人、有病率は0.03%、新規発症率は0.006%であった。
②診断におけるMRCPの評価:24%の症例で診断にMRCPが取り入れられていることを明らかにした。慢性膵炎の診断に重要な分枝膵管の変化も58%はMRCPで判定可能であり、典型例については非侵襲的検査であるMRCPでも十分に診断可能であることを確認した。
③Stage分類の作成:膵外分泌機能、膵管像、耐糖能、疼痛、合併症の5項目からなるStage分類を作成した。また、同Stage分類を用いて、班所属施設で経験した慢性膵炎確診例278症例を対象に症例調査を行った。その結果、本慢性膵炎Stage分類は、日常生活の障害度や栄養状態を反映しており、慢性膵炎の経過観察や治療法の評価に有用であることが確認された。
④家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査、および原因遺伝子の解析:消化器疾患を扱っている全国主要医療機関の847診療科を対象に家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査を行った。1980年から1999年までに診療した、家族性膵炎33家系、69症例、および遺伝性膵炎23家系、71症例を集計した。遺伝子解析により、カチオニックトリプシノーゲンやそのインヒビターである膵分泌性トリプシンインヒビター(PSTI)の点突然変異が原因で膵炎を発症する機構が明らかとなった。
③いわゆる自己免疫性膵炎の実態調査:49施設より118症例の報告があった。ステロイド剤が有効であること、リンパ球・形質細胞が膵管周囲に浸潤し、膵管狭小化、膵実質の脱落をきたすこと、閉塞性静脈炎・原発性硬化性胆管炎様病変・リンパ節腫大の合併が多いこと、などがいわゆる自己免疫性膵炎の特徴であることを明らかにした。また、ERCP所見、血中γグロブリン濃度、腹部エコー/CT所見の三項目からなる診断基準を作成した。同診断基準の精度は94%と極めて良好であった。
C.膵嚢胞線維症
①全国調査:総患者数、年間発症者数、予後など実態を把握するために小児科を対象として全国調査を行った。過去1年間に15症例、過去10年間に21症例の膵嚢胞線維症の発症を確認した。
②CFTR遺伝子の解析:上記全国調査で把握された症例を対象に、膵嚢胞線維症の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異解析を行った。本邦の膵嚢胞線維症では、原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異が、欧米の症例とは全く異なることを明らかにした。
③Stage分類の作成:診断基準の改訂、および5段階のStage分類案を作成した。
結論
重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症の三疾患を対象とし、成因、病態、治療に関する各個研究を行うとともに、重症急性膵炎に6プロジェクト、慢性膵炎に5プロジェクト、膵嚢胞線維症に3プロジェクト、計14の共同研究を行い、それぞれの目標を達成した。次の三プロジェクトの成果を強調する。①急性膵炎の重症度に応じた診療指針の作成:Stage 2以上では二次、三次医療期間での診療を、Stage 3以上ではICU管理を、それぞれ必須とする診療指針を作成した。②家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査、及び原因遺伝子の解析:遺伝子の解析によりカチオニックトリプシノーゲンやそのインヒビターであるPSTIの点突然変異が原因で膵炎を発症する機構を明らかにした。③重症急性膵炎の長期予後に関する検討:重症急性膵炎から治癒した症例のうち36%が膵癌をはじめとした癌を合併することを明らかにした。多施設の協力による地道な活動が、将来、必ず難治性膵疾患の克服につながるものと考える。

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