門脈血行異常症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100836A
報告書区分
総括
研究課題名
門脈血行異常症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
杉町 圭蔵(九州大学大学院消化器・総合外科)
研究分担者(所属機関)
  • 二川 俊二(順天堂大学医学部第二外科)
  • 加藤 紘之(北海道大学大学院腫瘍外科)
  • 兼松 隆之(長崎大学医学部第二外科)
  • 北野 正剛(大分医科大学第一外科)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院核医学)
  • 橋爪 誠(九州大学大学院災害救急医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.研究目的
本研究班の研究目的は、原因不明で門脈血行動態の異常を来す特発性門脈圧亢進症(IPH)、肝外門脈閉塞症(EHO)、バッドキアリ症候群(BCS)を対象疾患として、これらの疾患の病因および病態の追求とともに治療上の問題点を明らかし、予後の向上を目指すところにある。
研究方法
2.研究方法
門脈血行異常症(IPH,EHO,BCS)について以下の項目に関して分担研究者と共同研究を行った。
a)病理学的検討
門脈血行異常症3疾患の病因・病態を解明するため、病理学的側面から検討した。
b)病因・病態・遺伝子異常の解析
門脈血行異常症のモデルを用いて、分子生物学的にその病因・病態を検討した。また、病因として考えられる遺伝子異常の解明を行った。
c)国際間での比較
BCSの原因として血液凝固遺伝子異常が報告され、その形態とともに国際間の差異があると言われている。海外に協力施設を設けて、BCSの国際間比較を行った。
d)疫学的検討
臨床疫学的特性を明らかにするために、当研究班と特定疾患疫学研究班との共同による全国疫学調査を企画し、行った。
e)全国症例登録制度及び検体保存センター
平成9年度に設置した全国症例登録制度および検体保存センターにおける症例登録を継続し、症例の確保を行った。
(倫理面への配慮)
平成13年3月に公表された3省ガイドライン(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従い、遺伝子解析を行う際は、研究対象者の氏名やプライバシーに関わることは一切公表しないことなどのインフォームドコンセントを研究対象者からとることとした。
結果と考察
3.研究結果及び考察
a)病理学的検討
IPHでは門脈内腔面積の著明な減少にもかかわらず、肝動脈内腔の増加が認められず、肝動脈による血流代償不全状態にあると考えられた。また、活性化マクロファージ、肥満細胞は変化ないことが明らかになり、IPHの血管新生・増生因子の産生不全、機能不全が関与している可能性が示唆された。
b)病因・病態・遺伝子異常の解析
CTGF遺伝子導入によるIPH動物モデルの作成を行うため、アデノウイルスを用いた遺伝子導入を検討した。コスミドベクターのE1領域にCTGFのmRNAから作成したcDNAを導入し、E1領域を制限酵素で切断し欠失させたDNA-TPCと293細胞にco-transfectにより導入した。
門脈血栓モデルを使った検討では、エンドトキシン注入48時間後に血管新生因子VEGFが最も高度に発現し、類洞内皮や類洞壁細胞にも出現していた。このVEGFの高度の発現が海綿状脈管増生に関与しているものと考えられた。
アンチトロンビン欠損マウスでは、心筋と肝臓の類洞に著明なフィブリン沈着を認めたが、門脈では認められず、アンチトロンビンとEHOの関連性は指摘できなかった。また、12例のプロテインS欠乏症の遺伝子解析を行ったところ、全く新しいミスセンス変異が認められ、Asp202Asnのミスセンス変異をもつ症例では門脈・上腸間膜静脈血栓症が認められ、EHOとの関連性が示唆された。
ヒト由来マクロファージ細胞株であるU937を用いてHO-1のstabel transfectantを作成し、そのphenotype変化をtranscriptpme analysisをもとにした網羅的解析により検討した。HO-1の発現増加を起こした細胞株ではelastase-1,leukotrieneB4 synthaseなどのmRNA増加、あるいは接着分子CD11a/CD18の発現量の低下あるいはCTGF発現低下などの変化が起きることが明らかとなった。
c)国際間での比較
カナダのBudd-Chiari症候群15例を検討した。カナダの症例は本邦と基本像は同じであり、種々段階のうっ血性肝病変のスペクトラムが観察される点も一致していた。しかし、カナダの症例では大再生結節が15例中8例にみられ、本邦の17例中1例と比べ、旺盛な肝再生変化が目立った。
d)疫学的検討
門脈血行異常症全国疫学調査2次調査票より、診断時と比較した最終観察時の状況に及ぼす各所見の影響をProportional Odds Modelを用いて検討した。その結果、特にEHOにおいては、黄疸やICG遅延の見られた症例は予後が悪い傾向がみられた。また、治療法互いの影響を考慮した各治療法の転帰に及ぼす影響は、3疾患とも直達術と内視鏡治療は転帰が良く、IPHにおける薬剤治療は転帰が悪い傾向が見られた。
e)全国症例登録制度及び検体保存センター
本年度も登録症例を増やすため再度症例登録の案内を全国の主要病院に対して行った。その結果、平成14年3月現在IPH 95例、EHO 47例、バッドキアリ症候群35例の計177例の登録と検体の保存を行った。
結論
4.結論
本班研究において、全国の258協力施設と連携し、3疾患の症例登録と検体保存(計177例:IPH 95例, BCS 47例, EHO 35例)を行った。これにより各分担研究者が病理学的、生化学的、疫学的検討を体系的に行うことが可能となり、3疾患の病因、病態の解明および予後の向上に大きく貢献することができた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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