難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100834A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
下山 孝(兵庫医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場忠雄(滋賀医科大学)
  • 日比紀文(慶應義塾大学)
  • 棟方昭博(弘前大学)
  • 樋渡信夫(仙台赤十字病院)
  • 古野純典(九州大学)
  • 鈴木健司(新潟大学)
  • 味岡洋一(新潟大学)
  • 杉田 昭(横浜市立大学)
  • 畠山勝義(新潟大学)
  • 櫻井俊弘(福岡大学)
  • 牧山和也(長崎大学)
  • 金城福則(琉球大学)
  • 松本誉之(大阪市立大学)
  • 高添正和(社会保険中央総合病院)
  • 福田能啓(兵庫医科大学)
  • 北洞哲治(国立大蔵病院)
  • 守田則一(大腸肛門病センタ-高野病院)
  • 今井浩三(札幌医科大学)
  • 坪内博仁(宮崎医科大学)
  • 八木田旭邦(近畿大学)
  • 山村武平(兵庫医科大学)
  • 佐々木 巖(東北大学)
  • 吉岡和彦(関西医科大学)
  • 藤井久男(奈良県立医科大学)
  • 亀岡信悟(東京女子医科大学)
  • 名倉 宏(東北大学)
  • 岡村 登(東京医科歯科大学)
  • 田村和朗(兵庫医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の対象を炎症性腸疾患(IBD)の潰瘍性大腸炎(UC)とクロ-ン病(CD)の2疾患に絞り、病因・増悪因子を詳らかにし、適切な診断基準のもとに新治療法を確立することを目標とした。これによって患者のQOL 向上を目指すことが可能となり、ひいては両疾患の予防法にも役立つと考えている。より客観的な成果を得るためには、多数の症例を対象に検討することが必要である。従来と異なる視点からも検討するので、分担研究者を増員して行った。
研究方法
以下のプロジェクト(p) を設け、研究者同士が密接な連絡を保ちつつ、より充実した調査研究の進展を目指した。
p-1:UCとCDのデ-タベ-スを拡張充実する。p-2:UCとCDの遺伝子異常を検討する。p-3:UCとCDにおける免疫異常・サイトカインを検索し、病因を詳らかにする。p-4:UC・CD の白血球除去療法を確立する。p-5:UCとCDの重症認定基準を見直し、新診断基準・新治療指針を作成する。p-6:UC難治例の大腸切除の適応を定める。p-7:CD患者の腸管内抗原と粘膜透過性を検べる。p-8:CD患者の適切な食事内容を検討する。p-9:CDにおける食事脂肪の影響を証明する。p-10:UC・CDと腸内細菌の関連を検索する。p-11:Pouchitis の細菌叢の役割を検する。p-12:UC患者の癌化のsurveillanceを行う。p-13:UCとCD患者のQOLを評価する。p-14: 新治療抗TNF-α抗体、抗IL-6receptor抗体のCDに対する効果を検討する。p-15:新治療法として、腸粘膜再生を図るHGFなどの因子の有用性を検討する。p-16:消化管環境改善を食品の面で検討する。
(倫理面への配慮)これら16項目のプロジェクト遂行にあたっては、患者の立場を十分に尊重し、プライバシ-を厳重に守る。インフォ-ムドコンセントを得るための説明は、患者が理解できるように分り易く説明し、常に文書で同意を得るものとした。また、協力を拒否しても不利益を受けないことを説明した。個人調査票の電子化は、現在検討されている「個人情報の保護に関する法律」に抵触しないように配慮した。新治療法など治験を行うに当たっては、各参加施設の倫理委員会の承認を得た。遺伝子の研究においては、平成12年6月の科学技術会議生命倫理委員会「ヒトゲノム研究に関する基本原則」と平成13年3月の三省合同「ヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理指針」に沿って行った。
動物実験においては動物愛護精神に則り動物を扱った。
結果と考察
プロジェクト研究ごとに記載する。
p-01:各都道府県より送付されてきた臨床個人調査票(平成10、11年度分)はUC 10,719 例、CD 5,405例で、現在電子化の作業中である。個人調査票から得られるデ-タは、IBD 研究の有用な基礎デ-タとなり、国際的疫学検討が可能となる。本デ-タは個人情報であるため、その取り扱いについては、慎重な管理・運営の検討が必要である。
p-02:免疫機能に関わる分子をコ-ドする遺伝子(TNF/TNFR 関連遺伝子など)を対象として研究した。今後も継続する必要がある。欧米でCDと相関が報告されたNOD2遺伝子多型は本邦では別の遺伝子座に認められ、日本人のCDは、欧米人CDと異なることが判明した。
p-03:UC・CDに関する多くの免疫異常を中心とした新知見が得られ、これをもとに抗サイトカイン療法、白血球除去療法などが実用化された。
p-04:UCに対する白血球除去・吸着療法の有用性・安全性が客観的に証明され、血球成分除去療法として保険診療適応となった。CDでは、難治患者を対象に、多施設において検討されたが、有効率は35%に過ぎず、今後より多数の症例で検討して保険適応としたい。
p-05:UC・CDともに、現医療レベルでは診断基準・治療指針・重症度認定基準はいずれも十分に満足できるものであり、UCの治療指針に血球成分除去療法を加えた。
P-06:UC難治症例について、ステロイド投与量による手術適応を決定した。
P-07:CD患者血清中に特異的に認められる抗体が本邦で発見された。今後、診断キットとしての臨床応用が期待される。
p-08:UC・CD患者の発症前食事と環境のリスクが確認され、このプロジェクトは完成した。
p-09:CDには、脂肪が増悪因子となることが確認され、このプロジェクトは完成した。
p-10:UC患者の糞便中および粘膜付着細菌叢は、種類や種々の機能に関連する遺伝子が、健常人と異なることが判明した。細菌の研究の継続が必要である。
p-11:Pouchitis における糞便内細菌の特徴が判明し、ほぼ目的は達成された。
p-12:UC合併大腸癌に対するsurveillanceの現状が把握できた。
p-13:UC・CD患者のQOLの客観的把握が可能な、国際水準の日本語版IBDQを作成した。
p-14:抗TNF-α抗体および抗IL-6R抗体の臨床応用が最終段階にきている。
p-15:HGFの腸粘膜再生機能が動物実験で証明された。臨床応用が期待される。
p-16:Germinated barley foodstuffの経口投与により腸内環境の改善が認められた。
結論
疫学: 個人調査票デ-タの電子化が完成すれば疫学的国際比較が可能になり、また病因の究明にも有用である。このためにも電子化の入力作業の継続は必要である。
病因・増悪因子:遺伝子および免疫・サイトカインの検討では種々な異常が認められ、多因子が発病・増悪に関与していることが明らかになった。CDにおけるNOD2遺伝子のように欧米と異なる発病因子が存在し、本邦独自の検討が必要である。CDでは食事中の脂肪が増悪因子であることが、食事調査・臨床治験で確認され、国際的に評価できる結果を得た。
診断・治療:欧米と比較しても遜色のない診断基準・治療指針が完成された。UCに対する血球成分除去療法、CDに対する抗IL-6R抗体の開発・臨床応用は欧米に発信可能な、本邦独自の治療法として評価出来る。本邦で発見されたHGF の粘膜再生機能を応用する治療法の研究を進めることは、新治療法として大きく期待できる。
予後:UCの予後に重要な影響を及ぼす大腸癌発生に対するsurveillanceは、経費の検討を含め、今後の問題として残されている。
平成11年度から13年度までの研究の結果、国際的に評価されることのできる成果が得られた。しかし、病因の解明は十分でなく、今後も研究を持続して、原因に対する治療法の開発が必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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