呼吸不全に関する調査研究

文献情報

文献番号
200100833A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学大学院医学研究院加齢呼吸器病態制御学)
研究分担者(所属機関)
  • 西村正治(北海道大学大学院医学研究科呼吸器病態内科学)
  • 白土邦男(東北大学大学院循環器病態学)
  • 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
  • 山口佳寿博(慶應義塾大学医学部内科学教室)
  • 永井厚志(東京女子医科大学第一内科)
  • 久保恵嗣(信州大学医学部第一内科)
  • 木村弘(奈良県立医科大学第二内科)
  • 白日高歩(福岡大学医学部第二外科)
  • 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
  • 本間生夫(昭和大学医学部第二生理)
  • 宮川哲夫(昭和大学医療短期大学理学療法部)
  • 三嶋理晃(京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学)
  • 木村謙太郎(近畿中央病院臨床研究センター)
  • 別役智子(北海道大学大学院医学研究科呼吸器病態内科学)
  • 白澤卓二(東京都老人総合研究所分子遺伝学部門)
  • 国枝武義(慶應義塾大学伊勢慶應病院内科)
  • 中西宣文(国立循環器病センター心臓血管内科)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部附属病院老人科)
  • 縣俊彦(東京慈恵会医科大学環境保健医学教室)
  • 福原俊一(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻理論疫学分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
呼吸不全関連疾患(若年性肺気腫・肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群・原発性肺高血圧症・慢性血栓塞栓性肺高血圧症)を対象として、その病因・病態を探求・究明し、同時に新たな治療法を模索・開発することである。また、病因の追求および治療法の開発につながる臨床研究課題、及び原因的治療法を確立するための基礎研究課題をとりあげ、研究を推進することにある。
研究方法
対象疾患に対する、臨床的・疫学的・病理学的・分子生物学的解析を施行し、発症機序の解明・Evidence-based medicineに基づく治療法の確立に関して多方面からのアプローチを行う。
結果と考察
1. 原発性肺高血圧症(PPH)の内科的治療指針確立を目指した共同研究
原発性肺高血圧症治療指針案の妥当性を治療変更の有無、生命予後からプロスペクティブに評価した。Stage2、Stage3共に経口PGI2からPGI2持続静注療法への変更がみられた。2年生存率はStage2以下の軽症例で100%であり、Stage3以上のでは85.5%であった。
2. 肺気腫の成立機序・病態・治療に関する共同研究
【肺気腫における気腫病変の形成機序に関する研究】
肺気腫病変の形成には肺胞壁の慢性炎症から肺組織の破壊と消失に至る機序が想定されている。肺容量減少術により切除された気腫化肺組織の検討から、炎症性刺激の持続による肺胞壁細胞の細胞死と破壊が気腫病変をもたらす原因である可能性が考えられた。
【気腫像を呈さないCOPDの検討】
気腫像を呈さないCOPDに関する検討を、胸部CTを使用して肺野病変(低吸収領域の肺野全体に対する面積比)・気道病変(右B1のWA%:気道壁の気道全体に対する面積比)について、今後多施設間で施行するため、異なった機種間のCT値の差異を補正するファントムを作成した。
3. 肺胞低換気症候群の診断・治療に関する共同研究
【肥満低換気症候群、原発性肺胞低換気症候群の診断・治療のための指針】
これら慢性の肺胞低換気を共通項に持つ2症候群に焦点をあて、わが国における実態を明らかにし、現時点における診断と治療のための指針を作成した。
【肥満低換気症候群のQOLに及ぼす持続気道陽圧呼吸(CPAP)の効果】
肥満低換気症候群およびSAS患者において、CPAP治療により、傾眠傾向と同時にHRQoLも改善することが認められた。
【在宅呼吸ケアの現状と課題 -平成13年度全国調査-】
在宅人工呼吸療法(以下HMV)の実態を把握する目的で全国アンケート調査を実施した。HOT実施施設は全体の85%で、HMV実施施設は42%と前回の調査よりも実施施設が増加している現状が明らかになった。
4. 肺気腫の発症機序・ 病態・治療に関する研究
【遺伝子解析】
(1) CYP2A6遺伝子多型
主要なニコチン代謝酵素であるCYP2A6の遺伝子多型とCOPDの病態への影響を検討した。高度気腫化群では軽度気腫化群に比べ、生涯喫煙量に差がないにも拘わらず、CYP2A6欠失型の頻度は低かった。CYP2A6欠失多型は気腫進展に対し防御的に働くと考えられた。
(2) グルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)遺伝子多型
GSTはGSTM1とGSTT1には遺伝子多型があり、酵素活性に関与すると考えられているが、肺気腫発症とGST遺伝子欠損との関連は認められなかった。
(3) TNF-αの遺伝子多型 
TNF-αはアポトーシスの誘導に関与し、その-308多型は TNF-αの産生に関係しうる。TNF-α-308 allele 2は気腫性変化の進展に関与する可能性が示唆された。
【LVRSの成績と今後の展開】
%1秒量30%以下の症例、高PaCO2血症でも呼吸機能は改善したが、3年までの死亡例が多く認められた。また、上葉優位群が有意に機能改善していた。
5. 肺胞低換気症候群の病因・病態・治療に関する研究
【Presbyterian型Hbと組織低酸素の改善】
低酸素親和性ヘモグロビンは、in vivoで効率的な組織酸素供給を可能にする。Presbyterian型ヘモグロビン遺伝子導入マウスではPaCO2が上昇しており、低酸素換気抑制の減少と高炭酸ガス換気応答の低下が認められた。ヒトのPresbyterian ヘモグロビン血症で換気応答を検討した結果、運動負荷時の呼吸商は減少、換気応答が低く、高い換気効率を示した。末梢における酸素供給能の増大を示したモデルマウスのデータを支持する所見であった。
6. 肺高血圧症(PH)の病因・病態・治療に関する研究
【プロスタサイクリン合成酵素遺伝子多型】
プロスタサイクリン合成酵素 (PGIS)遺伝子のVNTR多型と肺高血圧症の関連について検討した結果、PGIS遺伝子プロモーター領域VNTR多型とPHに関連は認められなかった。
【慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の長期予後及びQOLについて】
CTEPHの末梢血栓例は、中枢血栓例に比して手術による肺血管抵抗の改善率、術後のH-Jが不良であった。末梢血栓例において、手術例は内科治療重症例と比較し、その予後に差は認められなかったが、術後長期におけるQOLは、良好な傾向を示した。中枢血栓例において、手術例は内科治療重症例に比して、有意に予後が良好であった。
【PPHに対するPGI2持続静注法例,CTEPHに対する肺動脈血栓内膜摘除術例の長期予後に関する検討】  
PGI2持続静注法を行ったPPH例,肺動脈血栓内膜摘除術を施行したCTEPH例の長期予後をKaplan-Meier法にて検討した結果、PPH,CTEPH例は,その自然歴に比し著明な延命効果が認められた。
結論
1. 原発性肺高血圧症(PPH)および慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の成因・病態・治療に関する共同研究
経口PGI2からPGI2持続静注療法への変更が時間経過にて必要になることが判明してきている。しかし、PGI2持続静注法を行ったPPH症例、肺動脈血栓内膜摘除術を施行したCTEPH症例を含め、PPH・CTEPH症例の病態別・治療別の長期予後を今後さらに追跡していく必要がある。
2. 肺気腫の成立機序・病態・治療に関する共同研究
肺気腫病変の形成には肺胞壁の慢性炎症から肺組織の破壊と消失に至る機序が想定されている。炎症性刺激の持続による肺胞壁細胞の細胞死と破壊が気腫病変をもたらす原因である可能性が示唆されてきており、この点からの成立機序の追求がさらに必要である。
COPD成立に関与しうる遺伝子(ニコチン代謝酵素CYP2A6、グルタチオン-Sトランスフェラーゼ、TNF-α)多型の解析が進行中であるが、さらに別の候補遺伝子に関しての研究も、新たな治療法の開発をふまえて、今後必須と考える。
成熟マウスに喫煙を6ヶ月間継続されることにより、肺気腫モデルの作成に成功した。このモデルを利用して、肺気腫の発症機序の解明のための研究を継続する必要がある。
重症COPDへの最大限の包括的内科治療、特に薬物療法の効果と限界に関してはいまだエビデンスがなく、継続研究が必要である。さらに同時に、治療効果とHRQoLの関係を病態面を含めて追求していく。
LVRSの適応基準は提案されているが、より効果が認められる症例と認められない症例の選別が今後さらに必要である。また、呼吸リハビリテーションの適応、臨床的有用性、効果判定はさらに残された課題である。
3. 肺胞低換気症候群の病因・診断・治療に関する共同研究
肥満低換気症候群、原発性肺胞低換気症候群の診断・治療のための指針を作成したので、今後その検証、さらなる改訂へ向けての検討を要する。
在宅人工呼吸療法は在宅酸素療法と同様にかなりの広がりを認めている。今後全国的な治療体制の整備が必要になる。また、CPAP治療も広がってはいるが、コンプライアンスの問題もあり、さらなる改善が必要である。
肺胞低換気症候群の病因に関しては、全く不明であるので、基礎的研究を含めて遺伝子レベルでの研究が必要である。また、低酸素親和性ヘモグロビン遺伝子を導入したマウスは組織低酸素の改善に有用であることが示されてきているが、さらなる研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-