前庭機能異常に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100829A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭機能異常に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
八木 聰明(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤壽一(京都大学)
  • 久保 武(大阪大学)
  • 高橋正紘(東海大学)
  • 工田昌也(広島大学)
  • 室伏利久(東京大学)
  • 渡辺行雄(富山医科薬科大学)
  • 北原糺(大阪大学)
  • 重野浩一郎(長崎大学)
  • 鈴木衞(東京医科大学)
  • 竹田泰三(高知医科大学)
  • 富山俊一(日本医科大学)
  • 中村正(山形大学)
  • 朴沢孝治(東北大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前庭機能異常を引き起こす疾患の中でも、その原因が不明であり難治性疾患でもあるメニエール病及び遅発性内リンパ水腫の病因、その診断基準、治療方針、予防法、を明らかにし、これらを評価すると共に、患者実態の把握と疫学的解析を合わせて行うことを本研究の目的としている。
研究方法
病因解明に関しては、いくつかの面からアプローチを行う。その一つとして、これら疾患に内耳の免疫機構が関与している可能性を追求する。そのために、リンパ球移入動物実験をさらに進展させこれらを明確にする。また、臨床的には遅発性内リンパ水腫患者血清の自己抗体の蛋白同定をすすめる。内リンパ水腫発生に関与して、内耳水チャンネルの遺伝子レベルでの検討も行う。また、内耳プロテオーム解析を行い、COCH遺伝子とこれら疾患の関係を明らかにする。メニエール病の診断基準および重症度分類、また、明瞭な診断基準のない遅発性内リンパ水腫の診断基準や治療指針策定のためのワーキンググループの活動をすすめる。これら両疾患の治療は困難な点が多いのが現実であるが基礎的研究を通して一部明らかになった活性酸素の抑制効果に関する結果を生かし、新しい治療法を行う。また、それが発作反復の予防につながるか否かについて検討する。過去2年間に行ってきた、メニエール病の疫学的調査(定点観測)を継続し、有病率、罹患率の推移について解析する。遅発性内リンパ水腫については、信頼できる資料がないのが現状である。
結果と考察
病因解明として、リンパ球移入動物実験が順調に進捗した。内耳蛋白のプロテオーム解析が2次元電気泳動マッピングによって進行し新しい内耳蛋白の特徴、すなわち可溶性内耳蛋白の約70%がCOCHに関連した蛋白であることが見いだされた。遺伝子レベルの動物実験に引き続き、新しい展開としてメニエール病患者に対する遺伝子解析に手がつけられた。診断基準と治療指針の策定に関して構成したワーキンググループの作業が軌道にのった。また、基礎実験で内耳自己抗体の特定がすすんでいるが、これが特定されれば診断基準に内耳自己抗体の証明の項を入れることにより、メニエール病の客観的な確定診断が可能になる。治療に関しては、予防(免疫抑制剤やフリーラジカル消去剤の使用)に関する単一施設での治験により、一定の結論が引き出された。動物実験で予防に関するデータが蓄積されており、メニエール病患者の発作予防に関する治験が始まった。疫学分析に関しては、特定地域でのメニエール病と遅発性内リンパ水腫症例の有病率と罹患率(対10万人)の調査を引き続き行い、過去の同地域での結果との比較を行った。各研究者の施設における患者数やその動態を観察し、多地域、多施設の結果として特定地域での結果と比較が行われた。しかし、今後が更に対象の患者数を増加させて検討する必要がある。
結論
病因解明については、内耳免疫、内耳プロテオーム解析、遺伝子解析等から、その本質にかなり近づいたものと評価できる。また、病因の解明は、その予防や治療に直結する必要があるが、これらに関しては継続的研究が必要である。治療法・予防法に関しては、本研究班が最も大切にしているテーマの一つである。今までに行われなかった、内耳病態に対する新しい治療概念やその基礎的・臨床的裏付けとなる研究が行われたことは大いに評価できる。特に、内耳病態に関係する活性酸素の消去等に関する
研究は注目に値する。生活環境(ストレス)との関係を含めた予防法の確立のためにも、今後更に追求すべき課題である。また、COCH遺伝子の解明から、将来は遺伝子治療への道が開けつつある。本研究班で行われたメニエール病の重症度分類策定は、本疾患の予後等を考える上で重要である。学会でもこの分類が検討され、研究班でも改訂を進めるている。この分類は、予防や治療を考える上に極めて大切である。疫学調査には地道な努力が必要であるが、幸い本研究班では長期に亘り蓄積された疫学の財産がある。これを、土台にしつつ新たなデータを追加できたことは、今後の調査研究にとって重大な意味を持っている。また、遅発性内リンパ水腫の疫学は、今後更なるデータの蓄積が必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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