網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100828A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 信(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小口芳久(慶應大学)
  • 三宅養三(名古屋大学)
  • 小椋祐一郎(名古屋市立大学)
  • 石橋達朗(九州大学)
  • 安達恵美子(千葉大)
  • 中沢満(弘前大学)
  • 湯沢美都子(日本大学駿河台)
  • 吉村長久(信州大学)
  • 飯島裕幸(山梨医科大)
  • 阿部俊明(東学大学)
  • 若倉雅登(北里大学)
  • 高橋政代(京都大学)
  • 高橋寛二(関西医科大学)
  • 簗島謙次(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
  • 辻一郎(東北大学)
  • 堀勝義(東北大加齢医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.網膜色素変性症の病態解明と治療法の開発
基礎実験と臨床症例におけるさらなる研究の促進と,遺伝子治療の本症への応用の可能性を探ることを目的とする。遺伝子操作を加えた自己色素上皮細胞の網膜下移植による治療法の臨床応用の可能性も追及する。
2.加齢黄斑変性症の病態解明と治療法の開発
日本人に多い浸出型における血管新生発生原因の実験モデルにおける解明と薬物による抑制効果の検討。すでに一部では臨床治験が始まっているものもあるがその臨床応用と効果を検討し外科的な治療法に伴い必然的に除去される網膜色素上皮細胞の移植による治療効果の判定を行う。
3.原因不明の視神経疾患の病態解明と治療法の開発
Leber病や多発硬化症などの難治性疾患の病態解明を行う。さらに、網膜神経節細胞死のメカニズムを解明し、その再生を目指す。
4.加齢黄斑変性に対する低線量放射線照射、黄斑ドルーゼンに対するレーザー光照射療法の効果判定に関する研究。
5.極低視力のグレード分類のための新しい機器の開発。
研究方法
1)網脈絡膜萎縮の原因遺伝子異常の解明、遺伝子治療法の可能性の検討。
現在までの我々の研究により日本人固有の原因遺伝子異常があることが判明した。今後、日本人患者から得られたゲノムDNAを用いて、網膜に特異的に発現している遺伝子を候補遺伝子として遺伝子異常の有無を検討する。さらに日本人で同じ変異が認められた症例に対してはhaplotype analysisも行う。遺伝子導入をた虹彩色素上皮細胞の網膜色素変性患者への移植の可能性を検討する。
2)加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管発生の病態解明と放射線照射の感受性、サイトカイン療法、遺伝子治療等に対する臨床的、基礎的研究。
増殖血管の原因細胞、主として血管内皮細胞のサイトカインとその受容体を制御する遺伝子機構がこの疾患でどのように変化しているかを臨床サンプルから解析し、他の眼疾患と比較検討を行う。
3)視神経萎縮におけるの病態解明と治療法の開発。
視神経萎縮の病態解明のために、ミトコンドリア遺伝子のみでなく、網膜神経節に特異的に発現する遺伝子の異常の有無の解明を行う。
4)網脈絡膜萎縮、加齢黄斑変性、視神経萎縮に対する細胞移植による治療法の開発。虹彩色素上皮移植を施行した加齢黄斑変性患者の経過観察すると共には移植した色素上皮の動態を画像化して評価する。さらに、神経幹細胞(stem cell)移植が、網膜において視細胞へ変化するか否かの可能性をホメオボックス遺伝子を用いて探る。
5)低視力者の視力変化の評価法の開発。
我々はこの極低視力のグレード分類のための機器を改良し(LoVE)、我々の班が対象にする疾患に対して治療の有効性の有無、薬物療法の有効性の有無を検討する。
結果と考察
1.網膜色素変性症及びその類縁疾患の病態解明と治療法の開発
網膜色素変性の原因遺伝子解明の研究として,常染色体優性遺伝型の原因遺伝子であるrhodopsin,peripherin/RDS,ROM1遺伝子の解析,常染色体劣性網膜色素変性における原因遺伝子としてarrestin,cGMP phosphodiesterase alpha,beta subunit,X染色体劣性に対しては、RP2遺伝子、、若年性網膜分離症に対してはXLRS1遺伝子、choroideremiaについてREP-1遺伝子異常の解析をを行い、多くの遺伝子異常及びそれが引き起こす臨床像を検討することが出来た。また日本人固有の遺伝子異常を(FSCN2遺伝子の208delG変異)を検討し、その遺伝子異常が引き起こす臨床像を報告した。さらにこの遺伝子異常は、網膜色素変性のみならず、黄斑ジストロフィーをおこすことを解明した。
2.加齢黄斑変性症の病態解明と治療法の開発
血管内皮細胞と血管新生関連物質の遺伝子発現,RPEにおける細胞増殖因子,増殖抑制因子との関連を明らかにすることが出来た。血管内皮細胞と血管新生関連物質の遺伝子発現,加齢に伴って生じる網膜色素上皮(RPE)の細胞増殖因子,増殖抑制因子分泌能の変化と血管新生との関連、実験的脈絡膜新生血管モデルの作成,それに対する放射線療法の有効性の評価も新たに明らかになった。網膜色素上皮は視細胞を維持するために特に重要で、網脈絡膜萎縮、加齢黄斑変性の治療には最も有効である可能性を秘めている.そこでこの色素細胞またはそれに代わりうる虹彩色素上皮細胞の移植の可能性を目指して研究を行った。霊長類での安全性の実験後、実際に患者本人の色素上皮を採取、培養し患者に戻すという世界で初めての試みを行い、拒絶反応も起こさずに、有効な治療法である可能性を示した。
3.原因不明の視神経疾患の病態解明と治療法の開発.
視神経萎縮に対しmitochondria遺伝子を中心に解析を行った。さらにこの疾患に対する薬物療法を試みた。現在、視神経萎縮後の視神経再建を目的に視神経再生の為の末梢神経移植,培養Schwann細胞移植の可能性を追求している。実験的には,かならずしも末梢神経そのものを用いなくても,培養シュワン細胞を利用して,人工チューブを用いても,その中を神経節細胞の軸索が延びることが明らかにされた。
4. Low Vision Evaluator(LoVE)の開発
我々の扱っている疾患は現在有効な治療法がない。日本においてもヘレニエンをはじめとして、何種類かの薬物が網膜変性疾患患者に投薬されているが、その有効性は明らかではない。その理由の一つにこれらの特定疾患の患者の視力が末期には数字では表すことが出来ないような低視力のレベルであるためであった。しかし、このような概略的な表現では治療法の有効性の有無、視力の経過を正確に評価することは困難であることが世界的に問題になっていた。そこで極低視力のグレード分類のための新しい機器Low Vision Evaluator(LoVE)と名つけてた新しい機器を開発した。網膜色素変性患者の視機能の日内変動、薬物療法の有効性などに応用した。
結論
日本人固有の網膜色素変性の原因遺伝子異常を発見し、固有の遺伝子異常を持っているという発見は今後遺伝子治療を考える上で大きな役割を果たすと考えられる。また、網膜特異的遺伝子の検討をおこなうことで、視細胞以外の、その他の細胞に特異的に発現する遺伝子も見つかり、さまざまな網膜疾患にまで広げられた。網膜色素上皮に発現している遺伝子の異常による網膜色素変性の発見は、虹彩色素上皮をはじめとする色素上皮移植の可能性を更に現実にちかずけるものとなった。加齢黄斑症の手術時に得られる、増殖膜の検討より終末糖化産物(AGE)がドルーゼンに沈着していたり、さまざまなサイトカインが発現していることを発見し、病態解明の1つになった。新生血管を示す動物モデルの作成においては、光凝固による作成や、種々の血管新生因子を網膜下に投与することで作成に成功してきた。網膜細胞移植による治療の試みでは、異種の細胞移植による移植部位へのさまざまなサイトカイン遺伝子の発現を確認するとともに、虹彩色素上皮細胞も網膜色素上皮細胞と同様な移植効果を示すことが判明した。これらの結果は国内外の学会ならびに雑誌に報告してきた。また遺伝性網膜変性疾患、加齢黄斑変性、視神経萎縮に対する治療法の開発とその有効性の評価を行なうために、Low Vision Evaluatorという新しい機器を開発し、この器械を用いて虹彩色素上皮を含め今後治療の有効性、および薬物治療の有効性を判定していく予定である。

公開日・更新日

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