神経変性疾患に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100824A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田代 邦雄(北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻神経病態学講座神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 水野 美邦(順天堂大学医学部脳神経科教授)
  • 中村 重信(広島大学医学部第三内科教授)
  • 葛原 茂樹(三重大学医学部神経内科教授)
  • 中野 今治(自治医科大学医学部神経内科教授)
  • 祖父江 元(名古屋大学大学院医学研究科神経内科学教授)
  • 川井 充(国立精神・神経センター武蔵病院第2病棟部部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A. 研究の目的
本研究班は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症を対象疾患とし、それらの基礎的ならびに臨床的研究を発展させ、これら難病の治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的とした。
研究方法
B. 研究方法
主任研究者(田代邦雄)1名、分担研究者6名に研究協力者24名、計31名の研究体制で、ALS、PDおよびそれらの関連疾患に重点をおき、分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療などの多方面から各個研究、プロジェクト研究を展開した。
結果と考察
C. 研究成果
平成13年度研究班のワークショップ・班会議・研究報告会を平成14年1月11日~12日に全共連ビルで開催した。本年度は合同ワークショップ、招待講演1題、特別報告2題、ミニシンポジウム3題と各個研究の研究報告会を行った。
合同ワークショップは本研究班と特定疾患患者の生活の質(QOL)の判定手法の開発に関する研究班と合同で開催し、「特定疾患臨床調査個人票の問題点と利用のしかた」、「神経疾患とQOL評価」、「神経難病の介護負担測定について」、の発表があり、特定疾患に関する臨床研究および事業の評価にあたっては、横断班と臨床班の密な連帯が必須であるということが理解された。
招待講演は「ALSの新しい遺伝子」として、25歳未満で発症する常染色体劣性遺伝形式の若年性ALS(チニジュア、サウジアラビア)の遺伝子が染色体2q33.に東海大学池田譲衛教授により同定され、この遺伝子についての解析は、若年発症ALSのみならず成人発症の孤発性ALS解析への発展が急務であり、臨床的バックグラウンドを有する当班構成員による全国レベルでの共同研究として取り組むことにより世界的レベルの成果が期待されると思われた。
特別報告として「パーキンソン病の定位脳手術の適応と手技の確立に関する多施設共同研究-3年間のまとめのとその後の経過」と「班員施設における大脳皮質基底核変性症の症例数調査」が発表された。
ミニシンポジウムはALS関連1題とパーキンソン病関連2題で、「パーキンソン病をめぐって」のテーマで、「パーキンソン病における神経細胞死」、「パーキンソン病の分子遺伝学」、「相模原地区における家族性パーキンソニズムの原因遺伝子の探索」、「パーキンソン病モデルサルでの遺伝子治療実験」が発表され、当研究班でのパーキンソン病の病因・病態の解明、治療法の開発へ向けての神経病理、"Parkin"と今回、新しく同定された遺伝子座(12p11.23-q13.11)の分子遺伝学、遺伝子治療を含めた総括的なシンポジウムであった。
パーキンソン病関連のもう一つのミニシンポジウムは「本邦における疫学調査」をテーマに「米子市の疫学調査」、「北海道岩見沢市での疫学調査」、「鹿児島県における疫学調査―1980年調査との比較検討」、「京都府における疫学調査」が発表され、本邦北海道から九州までの4地区におけるパーキンソン病の有病率が100~120人/10万人であることが明らかにした。
一方、「筋萎縮性側索硬化症をめぐって」をテーマとするミニシンポジウムでは、「ALSにおける神経細胞死」、「SOD1変異家族性ALSにおける遺伝子変異と臨床」、「ALS病態関連遺伝子の探索」、「紀伊ALS/PDCの再発掘」が発表され、家族性ALSの病因・病態解明の状況、紀伊半島におけるALS/パーキンソニズム痴呆複合(PDC)の疫学・病態及び遺伝子解析を行い、PDCの発掘とタウ蛋白異常を明らかにした。
研究報告会では29 題の各個研究が発表された。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の基礎研究として、遺伝子関連ではSOD1変異マウスにおけるVEGF導入の異常、ALSにおけるアポトーシス関連蛋白Apaf-1の発現、臨床的に特徴のあるCu/Zn SOD遺伝子変異(L84VおよびH46R)を導入したトランスジェニックマウスの作製、孤発性ALSの全ゲノム領域を対象とした関連解析がなされた。
Spinal cord derived growth factor-Bの発現、ALS病態関連分子が病理学的に検討され、紀伊ALS/PDCの臨床と病理の対比およびCu/Zn SOD遺伝子のHis46R変異を認めた家族性ALSの剖検例が検討された。
ALSに対する治療法の開発に関連して、ALSの治療効果をみる評価法としての運動単位推定数のmultiplepoint stimulationによる変化、培養脊髄腹側神経細胞に対するグルタミン酸毒性に対する神経保護の検討、神経栄養因子組換えアデノウイルス・ベクターおよびT-588の作用、ALSに対する超大量メチルコバラミン治療が発表された。
パーキンソン病(PD)の発症機序に関する研究では、パーキンソン病モデルでのドパミントランスパーターの発現、パーキン蛋白の神経変性への関与、パーキンソン病と多系統萎縮症、ジストニアでの遺伝子多型の解析、パーキンソン病患者における高ホモシステイン血症、若年性パーキンソニズムのドパミン合成能が検討された。
PDの治療面では、日本脳炎ウイルス性パーキンソン病モデルラットでのデプレニール投与、カベルゴリンのパーキンソン病の夜間運動緩慢への効果、primary autonomic failureの起立性低血圧への治療が発表された。
パーキンソン病および大脳皮質基底核変性症の脳機能画像、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症の生化学、病理学的検討がなされた。
D. 考察
家族性ALSにおける変異SOD-1遺伝子、臨床および病理学的特徴の解析により、遺伝子異常と臨床経過・予後との関連が解明され、ALSの病態解明へ貢献すると考えられる。また、ALSに対する遺伝子治療を含めた治療法の開発が期待される。家族性パーキンソン病(PD)の発症機序に関する分子生物学的研究ではパーキン蛋白ほか、相模原地区の家族性パーキンソン病の遺伝子座が同定され、その病態解明が期待される。
PDの疫学調査では、本邦の北海道から九州までの4ヵ所で調査が行われ、人口10万対100~120人であることが明らかにされた。
当研究班の対象疾患の臨床研究のみならず、難病情報センターの医学講座を担当し、社会的ニードヘ対応した。
結論
E. 結論
本研究班はALS、PDを初めとする神経変性疾患を対象とする臨床に基づいた研究班であり、全国レベルの研究班員の協力体制を組んできたが、現研究班の研究課題をさらに継続発展させる必要がある。そのうち、「ALS治療法の開発」、「Parkin遺伝子の解明とパーキンソン病治療法への応用」、「大脳皮質基底核変性症の病態解明と治療法の開発」の研究は特に重点的、かつ継続的に取り組むべき課題といえる。

公開日・更新日

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