運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100823A
報告書区分
総括
研究課題名
運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
辻 省次(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木秀直(北海道大学医学部)
  • 西澤正豊(国際医療福祉大学)
  • 金澤一郎(東京大学医学部附属病院)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学)
  • 垣塚彰(京都大学大学院)
  • 山田正夫(国立小児病院)
  • 山田光則(新潟大学脳研究所)
  • 津田丈秀(国立療養所山形病院)
  • 岩淵潔(神奈川総合リハビリテーションセンター)
  • 小野寺理(新潟大学脳研究所)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 川上秀史(広島大学医学部)
  • 神田武政(東京都立神経病院)
  • 黒岩義之(横浜市立大学医学部)
  • 酒井徹雄(国立療養所筑後病院)
  • 祖父江元(名古屋大学医学部)
  • 中川正法(鹿児島大学医学部)
  • 中島健二(鳥取大学医学部)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
  • 長谷川一子(北里大学東病院)
  • 服部孝道(千葉大学医学部)
  • 湯浅龍彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 上野聡(奈良県立医科大学)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
42,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、脊髄小脳変性症の病態機序を解明し、治療法開発のための基盤を構築することを目的に、1.脊髄小脳変性症の臨床重症度の経過について客観的なデータを得ることを目的として前向きの臨床疫学的研究、2.運動失調症の臨床的諸問題、治療等に関する検討、3.脊髄小脳変性症の病理学的研究、4.脊髄小脳変性症の分子遺伝学的研究、5.ポリグルタミン鎖による神経細胞変性の病態機序についての研究、に重点をおいた。
研究方法
臨床個人調査票を改定し、International Ataxia Rating Scale (ICARS) を導入し、臨床個人調査票を基盤とした前向き研究を開始した。本年度はサンプルデータについての予備的検討を加えた。運動失調症の臨床的評価方法、嚥下障害、自律神経系障害、画像による機能解析、治療などについて検討を行った。病理学的には歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)剖検脳及びDRPLAトランスジェニックマウスを用いて、伸長ポリグルタミン鎖を有する変異DRPLAタンパクの、核移行、核内集積、核内封入体の形成についての解析を行った。さらにheredoataxie cerebelleuse de Pierre Marieと診断された剖検例の位置づけについて検討を加えた。病因遺伝子が未解明の遺伝性脊髄小脳変性症についてポジショナルクローニングのアプローチを進めた。ポリグルタミン鎖による細胞障害機構については、培養細胞系、ショウジョウバエの実験系を用いて検討を行った。(倫理面への配慮)遺伝子解析などについては倫理面について十分な配慮のもとに行った。
結果と考察
臨床個人調査票に採用した、ICARSについてのvalidationを行い、評価者間誤差は少ないと考えられた。予備的検討として、本年度の臨床個人調査票のサンプルデータを用いて、OPCA、皮質性小脳萎縮症(CCA)におけるICARSの各項目と経過年数の相関を調べた結果、一部の項目を除いてICARSの各項目は経過年数とよい相関が得られた。MJD、多系統萎縮症(MSA)について、後ろ向きの疫学研究を実施し、その自然歴を明らかにした。また本症の評価法として連続構音の音声波形解析法を検討し有用であることを示した。南九州・沖縄地方ではSCA1・SCA2の頻度が低く、SCA6が高頻度であった。MSAの診断における2つのサブタイプ、MSA-CとMSA-Pの連続性について臨床神経生理学的な側面から解析し、共通点と相違点を見出した。Shy-Drager症候群(SDS)と孤発性および遺伝性脊髄小脳変性症における呼吸機能障害について検討を行い、SDSにおける低酸素感受性の有意な低下、SCA1での高炭酸ガス感受性の有意な低下を認めた。SCD患者で嚥下造影検査、咽頭内圧検査、舌骨上筋群の表面筋電検査を行い、SCD患者での咽頭内圧の頸部中間位での有意な低下、ICRASと舌骨上筋群での反応時間の有意な正の相関を明らかとした。分裂病様の症状で初発し進行性の小脳性失調と網膜電図の異常を呈し、著明な鉄欠乏と血清
セルロプラスミン低値を認める新たな疾患を指摘した。脳梁・小脳虫部萎縮を伴い Charcot-Marie-Tooth 病様の末梢神経障害を呈した spastic ataxia の1家系につきautosomal recessive spastic ataxia of Charlevoix-Saguenayとの異同について検討した。
治療面では、5HT1A作動薬であるクエン酸タンドスピロン療法のオープン試験および二重盲検交差試験を行いCCAでOPCAに比してより改善を認めた。MSA-P 症例に対してtrimethoprim-sulfamethoxazoleの治療効果が示唆された。MJDでの有痛性ジストニアに対してナトリウム・チャネルを抑制する塩酸メキシレチンが有用であることを示した。また有痛性ジストニアに対してestazolamが有用であった。また症例毎のリハビリテーションの最適化を実現するために、重量可変型靴型装具を開発した。病理学的にはDRPLA剖検脳の下オリーブ核に肥大現象を認め、同核では伸長PolyQ鎖の染色性が減少していることを発見した。DRPLAトランスジェニックマウスの下オリーブ核肥大を実験的に作成したところ同様の現象を確認することが出来、伸長polyQ鎖の核内集積を緩和する可能性を見出した。Heredoataxie cerebelleuse de Pierre Marieと診断された剖検例(1943)がMJD/SCA3と同一疾患であることを病理学的に示した。分子遺伝学的には19q13.4-qterに遺伝子座が存在するSCA14の病因遺伝子同定のため候補領域のリピートについて異常伸長の有無を検討した。さらに本領域に位置するsynaptotagminVについて塩基配列を解析したが、異常は認められなかった。また第16染色体に連鎖する常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症の候補領域の絞り込みを行い、物理地図を作製した。常染色体劣性遺伝性の脊髄小脳変性症である“低アルブミン血症を伴う早発型脊髄小脳変性"が9p13に連鎖することを見いだし、連鎖不平衡マッピングにより病因遺伝子候補領域を絞込み病因遺伝子を同定し、aprataxin と命名した。TBPのポリグルタミン伸長により引き起こされるSCA17の動物モデルとして、トランスジェニック線虫(Q37,Q199ライン)を作成した。Q199線虫は明らかな行動異常を示さず、形態異常を示さなかったが、免疫組織化学的検討では、神経細胞核の近傍の細胞質内あるいは軸索内に凝集体を認めた。またTBP遺伝子のCAG/CAAリピートの伸長の正常・異常範囲を検討し、健常者では43以下、発症者は48以上という区分が推測された。ポリグルタミン鎖による神経細胞変性の病態機序については、DRPLA蛋白質と会合するIRSp53の機能がアクチン線維の重合に関与し、神経軸索突起形成に関与することを明らかにした。ataxin-3蛋白の機能を解析し、C末領域と相互作用する蛋白として、γ-synergin、MacMARCKSを見いだした。異常タンパク質を高発現させると細胞質に空胞化が引き起こされること、細胞内での異常タンパク質蓄積を感知するセンサーとしてAAA ATPase ファミリーに属するVCP/p97を同定した。
結論
脊髄小脳変性症の自然歴について、臨床個人調査票にICARSを導入し、ICARSが評価法として信頼性が高いこと、前向き大規模研究に適していることを示した。今後、臨床個人調査票を基盤として大規模解析を行う予定である。治療面においては、MJDでよく観察される有痛性ジストニアに対しメキシレチンの効果、エスタゾラムの効果が見出されたことは重要である。分子遺伝学的研究では、これまでわが国でFriedreich失調症に類似した疾患として検討されてきた疾患の中から、新にアプラタキシン欠損症が発見されたことは特筆に値する。ポリグルタミン病についてもその病態機序の研究が着実に進んでおり、治療法開発への発展が望まれる。

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