遅発性ウイルス感染に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100822A
報告書区分
総括
研究課題名
遅発性ウイルス感染に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学大学院医学系研究科病態神経学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 片峰 茂(長崎大学大学院医学研究科感染分子病態学)
  • 品川森一(帯広畜産大学獣医公衆衛生)
  • 堂浦克美(九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設病理部門)
  • 中村好一(自治医科大学疫学・地域保健部門)
  • 毛利資郎(九州大学大学院医学研究院附属動物実験施設実験動物学講座)
  • 田中智之(堺市衛生研究所)
  • 松田治男(広島大学生物生産学部免疫生物学)
  • 金子清俊(国立精神神経センター疾病研究第7部)
  • 三好一郎(東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設)
  • 網 康至(国立感染症研究所動物管理室村山分室)
  • 高須俊明(日本大学医学部内科学講座神経内科部門所属)
  • 堀田 博(神戸大学大学院医学系研究科ゲノム科学講座微生物ゲノム分野)
  • 二瓶健次(国立成育医療センター)
  • 長嶋和郎(北海道大学医学部分子細胞病理学)
  • 保井孝太郎(東京都神経科学総合研究所微生物研究部門)
  • 佐藤 猛(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 志賀裕正(東北大学医学部附属病院神経内科)
  • 村井弘之(九州大学医学部附属病院神経内科)
  • 森若文雄(北海道大学大学院医学研究科神経内科学)
  • 山田正仁(金沢大学大学院医学系研究科脳医科学専攻脳病態医学講座脳老化・神経病態学)
  • 小林 央(新潟大学脳研究所神経内科)
  • 黒田重利(岡山大学大学院医歯学総合研究科精神神経病態学)
  • 岩淵 潔(山手訪問診療所)
  • 黒岩義之(横浜市立大学医学部神経内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
71,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、プリオン病、SSPE、PMLの3疾患の病態解明と発病予防である。今年度は3年間の研究期間の3年目にあたる。それぞれの疾患に対する具体的な研究目標は初年度の総括研究報告書に既に列挙済みであり、大きな変更点はない。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.プリオン病 a.CJDのサーベイランスに関して:CJDサーベイランスの結果、若年発症でvCJDとして届け出のあった症例は全てvCJDは否定された。硬膜移植後のCJDの症例はすでに80例以上に達していることが明らかとなった(佐藤班員およびサーベイランス委員)。また、中村班員は、CJDサーベイランスの結果の解析を行い、わが国のCJDの疫学像を明らかにした。また、今後の患者の補足率を上げるための検討を行っている。
b.プリオンのアッセイ系:イムノアッセイとして、品川班員は簡便なPrPScの検出を目指して、免疫磁性ビーズを用いた方法を検討した。3M GdnSCNで変性させたPrPScを0.4Mまで希釈するとCaptured ELISAが可能となり、免疫磁性ビーズでは2-7希釈までPrPScを検出可能であった。これはWestern の検出限界である2-8希釈には劣っているが、バックグラウンドの問題点が改良されれば簡便な検出系となりうるアッセイ法である。また、堂浦班員は、動物モデルの筋肉疾患に沈着するプリオン蛋白がプロテアーゼに部分抵抗性ながら感染性のないことを証明した。加えて、ヒト・プリオン病の患者の尿中より、プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白が検出でき診断のマーカーとなることを示した。その他のアッセイ法として、田中班員は、プリオン蛋白に対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を用いて、血液中の可溶性プリオン蛋白の検出を試みた。痴呆疾患99例中陽性に検出できたのは19検体である。この19検体中、CJDとして診断されたもの7例、非CJDが4例であった。また陰性の80検体中臨床的にProbable CJDと考えられたものは32例であった。臨床診断としての特異性・感度には今後検討の余地が大きく、さらに特異性を高める必要性があることが明らかとなった。また、基本的な抗体作製として、松田班員は、ヒト・プリオン蛋白の全長および122-230のフラグメントを用いて、ニワトリを免疫して得られたモノクローナル抗体とファージディスプレイでも新しい抗体が得られた。ほぼPrPの全長をカバーするパネル抗体として利用可能となった。バイオアッセイ法として、毛利・北本班員は、ヒト・マウスのキメラ型プリオン蛋白遺伝子を導入したノックインマウスにおいてヒト・プリオンを腹腔内に接種後30日以内に脾臓、リンパ節などの濾胞樹状細胞に異常プリオン蛋白が沈着することを見出した。この検出法は、ごく一部のヒト・プリオンを除いて、vCJD由来のプリオンに対しても高い感受性を有することが明らかとなり、ヒト・プリオンのバイオアッセイ系として有用であることを証明した。
c.プリオン蛋白の基礎的研究:片峰班員は、PrPのノックアウトマウスに認められるプルキンエ細胞変性死をレスキューするため様々なプリオン蛋白遺伝子を導入した結果、ほとんどの導入プリオン蛋白で神経細胞死は認められなくなったが、唯一PrP(del23-88)ではプルキンエ細胞死が認められた。このことからoctapeptide repeatsを含むプリオン蛋白のN末端領域がプルキンエ細胞生存に必要であることを明らかとした。また、金子班員は、PrPCの分解活性をLipid Rafts画分に存在することを明らかとした。またこの活性を担う候補蛋白の同定として、レコンビナント酵素でも、プリオン蛋白分解酵素活性が存在することを証明し、将来プリオン蛋白を分解する酵素の同定によって、今後の治療に繋げるという方向で研究を行っている。三好班員は、マウスのプリオン蛋白遺伝子をもちいて、糖脂質合成酵素の欠損マウスに認められる、胎性6.5日前後の外胚葉系細胞のアポトーシスによる致死をレスキューできることを確認した。このことは、胚発生初期の外胚葉ですでにPrP遺伝子が発現されていることを示唆するものである。
d.サーベイランス委員の英国出張:CJDサーベイランス委員を英国のCJDサーベイランスユニットへ派遣した。この出張によって得られたバリアント型CJD(vCJD)の診断に関して、全国のCJD専門医を対象に報告会を行った。今後、日本でのvCJDのサーベイランスを行うに当たっての有用な情報であり、本年度の研究報告書にもその報告会の概要をまとめている。また、我が国に存在するCJDとは全く異なった臨床経過をとる疾患であり、今後のサーベイランスにおいては神経内科だけでなく、精神科のサーベイランス委員の協力が必要であることが明らかとなった。
2.SSPE:a.SSPEのサーベイランス:中村班員とSSPEサーベイランス委員によって、特定疾患の治療疾患として認定されているSSPEの臨床個人調査票に加えて研究班独自で同様の形式によって、患者または家族の同意のもとに収集した情報を加えて、125例のSSPE(男:65、女:58、不明:2)の臨床調査個人票が集計された。SSPEの発病時の年齢分布は5~14歳にピークがみられ、麻疹の罹患は109例で時期が明らかにされており、80%以上の症例が2歳未満で麻疹に罹患していた。麻疹罹患からSSPEの発病までの期間は5年から10年の間に集中しており、平均8.8年で標準偏差は4.3年であった。また、高須班員によって、パプアニューギニアの東部高地州における麻疹予防接種がSSPE予防に有効ではなかったことが明らかとなった。
b.SSPEの治療法の検討:二瓶班員によって、SSPEの治療法としてIFNとリバビリンの脳室内投与の併用療法を多施設共同での調査が行なわれた。その結果、早期例でリバビリンの有効性を確認することができた。今後、IFN抵抗性の早期症例などで解析を進める必要がある。加えて、IFNの投与方法に関して髄腔内投与と脳室内投与の比較を行い、IFN濃度が脳室内投与の方が高いことを明らかにした。
c.SSPEの基礎的研究:網班員は、麻疹ウイルスの動態を調べるため、アフリカミドリザルとリスザルを用いて麻疹ウイルスを経鼻接種し、カニクイザルの結果と比較した。接種実験の結果から、ミドリザルの麻疹ウイルスに対する感受性は低いと評価したが、リスザルは麻疹ウイルスに対する感受性が高く、上皮系細胞の感受性は以前のカニクイザルより優れていることが明らかとなった。麻疹ウイルスの脳内移行を解析するモデルとして、リスザルが有用であろうとの結論を得た。また、堀田班員は、ワクチン接種または自然感染により誘導された麻疹ウイルス抗体の性状を分析した。ワクチン接種者では、自然感染者に比べて抗体価が有意に低く、成人麻疹感染の原因のひとつであると考えられた。加えて、ワクチン接種者では特に中和抗体価がHI抗体価に比べて低いという質的な差異も見られた。さらに、抗体を介した感染促進現象を検討したが、ビトロの系ではその現象は認められなかった。麻疹根絶に向けてワクチンの追加接種が必要であるとの示唆を与える結果が得られた。
3.PML:PMLに対する研究は、主に基礎的な研究を継続中である。免疫不全状態を示す患者の増加が予想されている現在、PMLの増加も懸念されており遅発性ウイルスの重要な研究テーマのひとつである。保井班員は、子孫ウイルスの産生制御機構を解析し、後期mRNAから形成されるVP1は、VP2/VP3の存在下で効率よく核内に移行し、核膜周辺で子孫ウイルスが形成されることが明らかとなった。JCウイルス持続感染者では、断続的にウイルス血症を起こしているが、このウイルス血症中からは、調節領域の変異型ウイルスは検出されていないことを明らかとした。また、長嶋班員は、JCウイルスのAgnoproteinの機能を解析した。AgnoproteinのN末端領域に存在する核内外への移行シグナルの変異解析からAgnoproteinは核内外を移行することを示した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-