文献情報
文献番号
200100818A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮地 幸隆(東邦大学第一内科)
研究分担者(所属機関)
- 名和田新(九州大学医学部第三内科)
- 岡本光弘(大阪大学医学部生化学・分子生物学)
- 猿田享男(慶応義塾大学医学部内科)
- 諸橋憲一郎(岡崎国立共同研究機構基礎生物研究所)
- 加藤茂明(東京大学分子細胞生物研究所分子系統分野)
- 藤枝憲二(旭川医科大学小児科)
- 田中廣壽(東京大学医科学研究所ウイルス疾患診療部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
副腎ホルモンの産生並びに作用に異常を示す(1)副腎腫瘍、(2)先天性副腎低形成、(3)副腎性血圧異常症、(4)ステロイドホルモン不応症の4疾患の病態の解明と、それに基づく新しい診断法と治療法の研究を目的とする。 (1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機構の獲得に関してはCOUP-TF1, DAX-1などの核内オーファンレセプターの発現異常、ヒトHDL受容体遺伝子CLA-1、MENの原因遺伝子menin、細胞外マトリックス蛋白であるThrombospondin2 およびステロイドホルモン合成酵素の異常について研究する。癌化のメカニズムについては癌抑制遺伝子、細胞増殖遺伝子、細胞周期蛋白、Zog 遺伝子、アポトーシス関連遺伝子などについて研究する。副腎偶発腫瘍のlongitudinalな疫学的長期予後調査の第2年度の集計では2493例の報告があり第3年度も調査を継続する。(2)先天性副腎低形成症家系におけるDAX-1遺伝子の変異を明らかにし、DAX-1のAd4BP/SF1に対する調節機構、変異DAX-1の機能消失と性腺障害との関連を研究する。
(3)副腎性血圧異常症のうち偽性アルドステロン症の11βHSD2遺伝子変異、一部の本態性高血圧症や糖尿病性高血圧と11βHSD2の関連及び偽性低アルドステロン症におけるミネラルコルチコイドレセプターやNaチャンネルの遺伝子変異を研究する。本態性高血圧症の5-10%を占めると報告されている原発性アルドステロン症の新しい診断法を開発してこれまで見過ごされた患者の発見に努める。(4)ステロイドホルモン不応症の原因としてグルココルチコイド受容体(GR)と転写制御因子AP-1との相互作用、機能を持たないGRβの存在、GRのレドックス状態や脂溶性低分子の影響を研究する。
(3)副腎性血圧異常症のうち偽性アルドステロン症の11βHSD2遺伝子変異、一部の本態性高血圧症や糖尿病性高血圧と11βHSD2の関連及び偽性低アルドステロン症におけるミネラルコルチコイドレセプターやNaチャンネルの遺伝子変異を研究する。本態性高血圧症の5-10%を占めると報告されている原発性アルドステロン症の新しい診断法を開発してこれまで見過ごされた患者の発見に努める。(4)ステロイドホルモン不応症の原因としてグルココルチコイド受容体(GR)と転写制御因子AP-1との相互作用、機能を持たないGRβの存在、GRのレドックス状態や脂溶性低分子の影響を研究する。
研究方法
(1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機構の獲得と癌化のメカニズム: 副腎皮質腫瘍の核内オーファンレセプターCOUP-TF,DAX-1,SF-1の発現、COUP-TFIとCOUP-TFI-interacting protein-1 (CIP-1)との特異的な蛋白-蛋白相互作用について、COS-1細胞や副腎腫瘍で検討する。副腎球状層・束状層に発現する細胞外マトリックス蛋白であるThrombospondin2(TSP2)の発現を正常副腎、非機能性副腎腫瘍、クッシング症候群、アルドステロン症の副腎腫瘍組織で検討する。多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)の原因遺伝子meninの副腎皮質腫瘍での発現とヒトHDL受容体であるCLA-1の発現調節を研究する。副腎偶発腫瘍について第3年度のlongitudinal な長期予後疫学調査を継続する。(2)先天性副腎低形成症(先天性アジソン病 )におけるDAX-1変異を解析しDAX-1のAd4BP/SF-1調節機構、変異DAX-1の機能について研究する。(3)副腎性血圧異常症のうち偽性アルドステロン症や糖尿病性高血圧の11βHSD2遺伝子変異、偽性低アルドステロン症におけるミネラルコルチコイド受容体(MR)遺伝子変異や特発性アルドステロン症の病態を解明する。ミネラルコルチコイド受容体のN末端側AB領域の恒常性転写促進領域(AF1)の研究、食塩投与で副腎皮質に特異的に誘導されるタンパク質リン酸化酵素であるSIK(塩誘導性キナーゼ)の意義を研究する。原発性アルドステロン症の診断に当たってはACTH連続負荷・AT1受容体拮抗薬投与下副腎静脈血中アルドステロン測定が隠れた原発性アルドステロン症の診断にどの程度有用であるかを検討し、治療としての腹腔鏡下副腎切除術の有用性と副作用について検討する。(4)ステロイドホルモン不応症についてグルココルチコイド受容体と転写制御因子AP-1の相互作用、胆汁酸製剤であるウルソデオキシコール酸のグルココルチコイド受容体作動作用、機能を持たないグルココルチコイド受容体βの存在を研究した。
結果と考察
(1) 副腎腫瘍:副腎皮質腫瘍でCOUP-TF1およびCOUP-TFI -interacting protein-1 遺伝子異常を認め、自律的ホルモン産生能獲得に核内オーファンレセプターの関与が示された。副腎腫瘍でCLA-1を介するHDL cholesterol esterの取り込み亢進、Thrombospondin2, meninの発現異常を明らかにした。副腎偶発腫瘍のlongitudinalな疫学的長期予後調査の第2年度の集計2493例の解析では約2/3が良性の副腎皮質腺腫で、原発性副腎癌は1.6%転移性副腎癌は4%であった。
副腎腫瘍については腫瘍化や自律的ホルモン産生獲得のメカニズムおよび臨床的に新しい診断法の確立について多くの成果が得られた。
(2) 先天性副腎低形成症(先天性アジソン病 ):先天性副腎低形成症の責任遺伝子DAX-1の異常に伴われる性腺機能障害について検討した。変異DAX-1蛋白はLHβ遺伝子の転写抑制活性を著明に減弱し、睾丸のセルトリ細胞の障害を来すことを明らかにした。DAX-1はAd4BP/SF-1の抑制作用をもつが、Ad4BP/SF-1遺伝子のトランスジェニックマウスを作成し、Ad4BP/SF-1遺伝子の副腎特異的エンハンサーを同定した。
先天性副腎低形成(先天性アジソン病 )について副腎の発生や分化と関連する遺伝子の異常とそのメカニズムを明らかにすることができた。
(3) 副腎性血圧異常症:ミネラルコルチコイドレセプター(MR)のN端側AB領域の2つの恒常性転写促進領域(AF1a,b)を明らかにし、AF1aに結合する因子にCBP/p300とcomplexを作るRNA helicase Aを証明した。
高ナトリウム食あるいは高カリウム食により副腎皮質において特異的に誘導される新しいプロテインキナーゼSIK(salt inducible kinase)を同定した。ヒト不全心の剖検左室心筋組織内に鉱質コルチコイド受容体(MR)が過剰発現しておりアルドステロンの作用が増強されることが示された。鉱質コルチコイド作用である腎Na再吸収には、Serum and Glucocorticoid-regulated Kinase(SGK)が関与する。
ヒトでの血漿コルチゾール(F)、コルチゾン(E)濃度は肝臓よりも腎臓により強く影響を受けていた。レプチン欠損肥満マウスでは11βHSD1のreductase活性は増加しdehydrogenase活性および遺伝子発現は低下し、グルココルチコイドを増加させるように調節されていることが明らかになった。
本態性高血圧症の5-10%を原発性アルドステロン症が占めると報告されているが、ACTH連続負荷・アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)投与下での副腎静脈サンプリング法にて診断し得た原発性アルドステロン症の症例を報告した。
腹腔鏡下副腎摘出術を施行した副腎良性腫瘍症例のうち開腹手術移行症例は65例中2例、合併症は6例であった。
副腎性血圧異常症は高血圧症の病因として常に考慮する必要があり、治療を考えるうえでも重要であることが示された。
(4) ステロイドホルモン不応症:グルココルチコイド抵抗性を来す機序としてとグルココルチコイド受容体(GR)と転写制御因子AP-1のクロマチン構造変換因子SWI/SNFと競合的相互排他的阻害、GRのantagonist であるRU486やGRβのGRαのクラスター状分布抑制、ウルソデオキシコール酸のGR活性化機序などを明らかにした。
グルココルチコイドの未知の分子生物学的作用機序が解明されつつあり、新しい観点からのグルココルチコイド療法が検討された。
副腎腫瘍については腫瘍化や自律的ホルモン産生獲得のメカニズムおよび臨床的に新しい診断法の確立について多くの成果が得られた。
(2) 先天性副腎低形成症(先天性アジソン病 ):先天性副腎低形成症の責任遺伝子DAX-1の異常に伴われる性腺機能障害について検討した。変異DAX-1蛋白はLHβ遺伝子の転写抑制活性を著明に減弱し、睾丸のセルトリ細胞の障害を来すことを明らかにした。DAX-1はAd4BP/SF-1の抑制作用をもつが、Ad4BP/SF-1遺伝子のトランスジェニックマウスを作成し、Ad4BP/SF-1遺伝子の副腎特異的エンハンサーを同定した。
先天性副腎低形成(先天性アジソン病 )について副腎の発生や分化と関連する遺伝子の異常とそのメカニズムを明らかにすることができた。
(3) 副腎性血圧異常症:ミネラルコルチコイドレセプター(MR)のN端側AB領域の2つの恒常性転写促進領域(AF1a,b)を明らかにし、AF1aに結合する因子にCBP/p300とcomplexを作るRNA helicase Aを証明した。
高ナトリウム食あるいは高カリウム食により副腎皮質において特異的に誘導される新しいプロテインキナーゼSIK(salt inducible kinase)を同定した。ヒト不全心の剖検左室心筋組織内に鉱質コルチコイド受容体(MR)が過剰発現しておりアルドステロンの作用が増強されることが示された。鉱質コルチコイド作用である腎Na再吸収には、Serum and Glucocorticoid-regulated Kinase(SGK)が関与する。
ヒトでの血漿コルチゾール(F)、コルチゾン(E)濃度は肝臓よりも腎臓により強く影響を受けていた。レプチン欠損肥満マウスでは11βHSD1のreductase活性は増加しdehydrogenase活性および遺伝子発現は低下し、グルココルチコイドを増加させるように調節されていることが明らかになった。
本態性高血圧症の5-10%を原発性アルドステロン症が占めると報告されているが、ACTH連続負荷・アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)投与下での副腎静脈サンプリング法にて診断し得た原発性アルドステロン症の症例を報告した。
腹腔鏡下副腎摘出術を施行した副腎良性腫瘍症例のうち開腹手術移行症例は65例中2例、合併症は6例であった。
副腎性血圧異常症は高血圧症の病因として常に考慮する必要があり、治療を考えるうえでも重要であることが示された。
(4) ステロイドホルモン不応症:グルココルチコイド抵抗性を来す機序としてとグルココルチコイド受容体(GR)と転写制御因子AP-1のクロマチン構造変換因子SWI/SNFと競合的相互排他的阻害、GRのantagonist であるRU486やGRβのGRαのクラスター状分布抑制、ウルソデオキシコール酸のGR活性化機序などを明らかにした。
グルココルチコイドの未知の分子生物学的作用機序が解明されつつあり、新しい観点からのグルココルチコイド療法が検討された。
結論
以上のように本研究で対象とした副腎腫瘍、先天性副腎低形成(先天性アジソン病)、副腎性血圧異常症、ステロイドホルモン不応症の病因の解明、診断法や治療法の発展および副腎ホルモンの合成および作用について分子生物学的研究などの多くの効果があげられた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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