間脳下垂体機能障害に関する調査研究

文献情報

文献番号
200100817A
報告書区分
総括
研究課題名
間脳下垂体機能障害に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 讓(島根医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 寿一(社会保険中央病院)
  • 寺本 明(日本医科大学)
  • 大磯ユタカ(名古屋大学)
  • 苛原 稔(徳島大学)
  • 橋本 浩三(高知医科大学)
  • 木村 時久(古川市立病院)
  • 田中 敏章(国立小児病院)
  • 長村 義之(東海大学)
  • 島津 章(国立京都病院)
  • 巽 圭太(大阪大学)
  • 千原 和夫(神戸大学)
  • 宮崎 康二(島根医科大学)
  • 村上 宜男(島根医科大学)
  • 横山 徹璽(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間脳下垂体機能障害は多彩な病変に基づくホルモン分泌異常症であり、生命予後と生活の質(QOL)の両面において治療が不可欠な病態である。本研究においては抗利尿ホルモン (ADH) 、プロラクチン(PRL)、ゴナドトロピンの3種類の下垂体ホルモン分泌異常症、ならびに上記以外の下垂体ホルモン分泌異常を伴った複合性下垂体ホルモン分泌異常症を調査研究の対象とした。平成13年度においては、これまでの研究過程でとくに重要と考えられる病態の解明に基づく新しい診断法や治療法の開発を目的とする。
研究方法
対象疾患の臨床的観察、病態解析、免疫機序や遺伝子異常の解析、ならびに疫学調査を分担して施行し、これらを総合解析することによって、疾患の新しい概念、病態、診断や治療を確立する。
結果と考察
対象とした各々の疾患において下記のような新しい成果が得られた。
1.抗利尿ホルモン(ADH)分泌異常症:1)5%高張食塩水負荷(0.05ml/kg/分)に伴う血漿バゾプレシン(AVP)濃度の変化と血清ナトリウム濃度や血漿浸透圧(Posm)の相対的な関係はADH分泌機能を反映することを明らかにした。2)腎尿細管細胞に存在するAQP-2はADH依存性の水チャネルであり、ADHの作用と密接に関与して尿中に排泄されることを明らかにした。2)尿中AQP-2排泄量や負荷試験に対する尿中AQP- 2の反応は、尿崩症やSIADHなどの水代謝異常症の新しいかつ鋭敏な診断法として臨床利用が可能なことを明らかにした。3)ADH産生に及ぼす脳内副腎皮質ホルモン分泌低下の影響やADH分泌過剰を伴う慢性低Na血症の病態と治療について動物モデルを用いて解明した。4)中枢性尿崩症の治療に従来用いられている点鼻薬の代わりに、経口投与用のバゾプレシン錠剤の有用性を明らかにした。5)家族性中枢性尿崩症家系に遺伝子異常を認め、 ADH前駆体蛋白の貯留による細胞死の機序を解 明した。以上の研究に基づいて、診断と治療の手引きを改正した。
2.ゴナドトロピン分泌異常症:1)ゴナドトロピン分泌低下症(女性)の治療法として従来のゴナドトロピン(FSH)単独投与と比較して、ゴナドトロピン分泌促進ホルモン(GnRH)の併用療法が有用なことを明らかにした。2)成人発症の特発性ゴナドトロピン分泌低下症(男性)においてGnRH治療の奏功することを明らかにした。3)正常女児の性発育の調査成績に基づいて正常思春期の年年齢を修正した。4)Kallmann症候群の家族例と弧発例において本邦のKAL遺伝子変異の頻度を解明した。5)非機能性下垂体腫瘍に存在する転写因子、Ptx1やNeuroD1はゴナドトロピン産生機能発現や機能分化に関与することを見い出した。6)偶発的に見い出される下垂体腺腫(インシデンタローマ)の患者調査成績を解析し、潜在的にゴナドトロピン分泌能を有することを明らかにした。
3.プロラクチン( PRL)分泌異常症:1)ヒト下垂体腺腫にPRL遺伝子発現を活性化する特異的な転写因子Pit1DNAに結合するPOU蛋白が存在することを見い出した。2)ヒト下垂体腺腫に一酸化窒素(NO)が存在することを見い出した。さらに、NOはホルモン分泌に抑制的な作用を有することをモデル動物細胞において明らかにした。3)細胞内MAPキナーゼはPRL産生細胞においてPRLプロモーターに作用し転写活性を亢進させ、ホルモン合成を促進することをモデル動物細胞で示した。
4.複合下垂体ホルモン分泌異常症: 1)複合下垂体ホルモン分泌低下症において、下垂体に特異的な遺伝子PGSFの発現異常の関与を明らかにした。2)ヒト抗下垂体抗体の測定意義を明らかにした。4)成人下垂体機能低下症の実態調査を実施し 複合下垂体ホルモン分泌低下はQOL低下を伴うので複合的ホルモン補償の必要性を立証した。
結論
対象疾患の新しい診断や治療に結びつく病態の解明、臨床調査研究を実施した。これらの新しい研究成果を基に最新の診断と治療の手引き(2001)を作成した。間脳下垂体機能障害の病態、診断、治療、予後を調査研究することは極めて大きな課題であり、長期的かつ継続的な研究が必要である。今後の重要課題は、QOLを考慮にいれた総合的なホルモン補償療法の確立であり、未解決の病態解明、正確な診断法や新しい治療法に向けて不断の研究が不可欠である。

公開日・更新日

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