ホルモン受容機構異常に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100816A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
清野 佳紀(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 女屋敏正(塩山市民病院)
  • 小西淳二(京都大学医学研究科)
  • 紫芝良昌(三宿病院)
  • 妹尾久雄(名古屋大学環境医学研究所)
  • 對馬敏夫(東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター)
  • 網野信行(大阪大学医学部)
  • 松本俊夫(徳島大学医学部)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物研究所)
  • 中村浩淑(浜松医科大学)
  • 森昌朋(群馬大学医学部)
  • 安田敏行(国立千葉病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ホルモン受容機構に基づくと考えられる疾患について診断基準の作成、原因病態の解明、治療法の確立を行うことが本研究の目的であるが、研究の進歩に伴い研究対象疾患の原因となる遺伝子異常の大半は明らかとなってきたが、その病態発生機構については不明な点は数多く残されており、治療法についてもまだまだ不十分である。さらに、これまで単一の疾患とされていた疾患も原因病態が全く異なる疾患で構成されていることも明らかとなり、これらに対して新たに診断基準もしくは診断のための手順書などの作成が必要となってきた。このために、本研究班では、対象疾患を広く設定し、副甲状腺機能低下症にかかわる病態の解明、実態の把握、治療法の開発、甲状腺機能異常にかかわる病態の解明、実態の把握、治療法の開発を行うことを 研究の目的とした。
研究方法
研究は副甲状腺疾患を扱うsubgroupと甲状腺疾患をとりあつかうsubgroupで独立して行われ、各subgroupの情報は清野によって統括され、各subgroupの研究に反映されるように努めた。さらに、全国調査に当たっては疫学研究班との共同で調査を行った。各々のsubgroupにおいては、疾患家系における連鎖解析、臨床サンプルの解析、動物細胞培養を用いた実験、遺伝子改変マウスを用いた実験などにより研究を進めた。
結果と考察
副甲状腺subgroup
PTHやCalcitonin (CT)の投与後に見られるLysosome酵素の尿中排泄増加は、尿細管の反応性の指標として有用であり、腎のPTHに対する感受性を判断する指標の開発は偽性副甲状腺機能低下症の診断や病態の解明に重要である。新たな腎のPTH感受性の指標を開発するため、PTHによるLysosome酵素の尿中排泄増加の機序を検討し、PTHによる尿細管細胞のvesicle membraneのrecyclingを促進機序が明らかとなった。これによって、新たな指標の開発が可能となると考える。
一方、偽性副甲状腺機能低下症Ia型の責任遺伝子はGNAS-1であることは既に明らかとなっているが、Ib型の原因は未だに不明で、本研究班でもPTH/PTHrP受容体のプロモーターなど腎特異的なPTH反応性欠除の原因を検討してきた。そして、PHP Ib2家系において連鎖解析を行い、原因遺伝子が20q13.3に存在し、父性刷り込みを受けること、さらにPHP Ibではexon A/Bが特異的にメチレーションを受けていないことを見い出し、これが病因に深く関わる可能性を明らかにした。
また、関連する疾患として、特発性副甲状腺機能低下症があるが、近年この疾患は原因の明らかな4つのサブグループに分類することが出来ることが明らかとなってきている。特にカルシウム感知受容体の異常によって発症する特発性副甲状腺機能低下症は高Ca尿症を有するために早期の診断が必要で、それらの早期診断のための手引書を作成した。また治療法として、thiazide利尿薬が有効であると考えられていたが、実際に治療を行った第5膜貫通部位に異常のあるPhe788Cys変異で24歳時に嚢胞腎を確認され、治療の再検討が必要であることが明らかとなった。
副甲状腺機能低下症の治療開発においては、カルシウムリン代謝ビタミンD代謝の全容を把握することが必要である。この分野では、まずリン代謝においては腫瘍性低リン血症性骨軟化症の腫瘍から新たなリン調節因子FGF23を世界に先駆けて同定した。また、ビタミンDについては、ビタミンD受容体の核移行にかかわる可能性のある新たな因子の同定、ビタミンDによる負の遺伝子制御の分子メカニズムの詳細を明らかにした、骨に対する活性型ビタミンDの直接作用は骨形成の抑制であることが判明したなどの成果があった。
また、PTHの骨に対する直接作用の分子機構についてもAP-1/IL-11カスケードがその骨形成促進作用の一部を担っていることを明らかにした。
甲状腺subgroup
甲状腺ホルモン不応症の病態に関する研究では、①甲状腺ホルモン受容体(thyroid homone receptor、TR)に変異を認めない家系が存在し、その病因として転写共役因子に異常が存在する可能性が考えられており、TR特異的な転写共役因子を同定する必要がある。酵母ツーハイブリット法を用いて、TRのDBDに結合し、TR特異的に機能する新たな転写共役因子の単離に成功し、疾患との関連を検討している。②TR特異的転写共役因子ではないがTRの転写制御に重要であると考えられている転写共役因子SRC-1について遺伝子欠損マウスを用いて検討したところ、本マウスはT4高値にも関わらずTSH高値を示す全身型RTHの特徴を示し、RC-1が下垂体、肝臓において甲状腺ホルモン受容体の特異的アイソフォームとの結合或いはホルモン応答性領域の特異的配列に結合する甲状腺ホルモン受容体以外の因子との相互反応により、甲状腺ホルモン依存性の負或いは正の転写制御に関わっていることが明らかとなった。また、CV1細胞にpit1 GATA-2を共発現させた系でTSH?遺伝子のT3/TRによる負の制御メカニズムを検討し、TRのDNA結合領域が重要であること、TSHβ遺伝子の-80/-55の領域を除去すると基礎転写活性が著明に増大し、ここに何らかの強力な転写抑制因子が関与している可能性があることを見出した。
一方、抗TSH受容体自己抗体による疾患はバセドウ病であり、頻度の高い疾患でありわが国における実態を明らかにすることは重要である。このため、疫学班との共同で家族性バセドウ病のアンケート調査を調査全国2367科を対象に行った。現在二次調査が集積中であり詳細は次年度以降に明らかに出来るが、全国の家族性バセドウ病の推計患者数は2800名であることが明らかとなった。病態に関しては、モデル動物として抗TSH受容体抗体トランスジェニツクマウスが有用であることを示した。また、患者においては、治療効果判定の指標である受容体抗体測定について、新規の測定法を開発し、寛解導入困難症例や再発例の検出における有効性を示した。甲状腺機能亢進症については甲状腺機能の管理とともに眼症の治療も重要で、これについても、その病態にmyocilinが関与すること、眼症の治療にソマトスタチンアナログoctreotideが有効である可能性を細胞培養系によって証明した。
さらに、放射性ヨードを用いた治療の無効な未分化甲状腺癌に対して、甲状腺特異的遺伝子を発現させることによって、放射性ヨード治療を可能とする試みを行い、TTF-1遺伝子導入ないしはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は,甲状腺癌細胞の分化誘導による有機化能の誘導を伴った131I治療を可能にすることを示した。
結論
副甲状腺・甲状腺において得られた成果は、疾患の正確な診断と適切な治療法選択に有用な情報となりうる。また、新規のリン調節系の発見やビタミンD受容機構の詳細の解明は、本分野における新しい治療法開発に今後貢献していくものである。また、まだ解析の途中ではあるが家族性バセドウ病の全国アンケート調査の結果は、わが国における始めての実態調査であり、疾患発症の予防や早期発見に貢献することが期待される。

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