原発性免疫不全症候群に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100812A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性免疫不全症候群に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小宮山 淳(信州大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学小児科)
  • 布井博幸(宮崎医科大学小児科)
  • 原 寿郎(九州大学小児科)
  • 柘植郁哉(名古屋大学小児科)
  • 宮脇利男(富山医科薬科大学小児科)
  • 野々山惠章(東京医科歯科大学小児科)
  • 眞弓 光文(福井医科大学小児科)
  • 土屋 滋(東北大学加齢医学研究所発達病態)
  • 近藤 直実(岐阜大学小児科)
  • 塚田 聡(大阪大学分子病態内科)
  • 岩田 力(東京大学分院小児科)
  • 小安重夫(慶應義塾大学微生物)
  • 斉藤隆(千葉大学遺伝子制御)
  • 竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は、従来からの調査研究を発展させながら、正確な疫学調査、責任遺伝子や発症機構・病態の解明、新しい診断法の開発と臨床応用、治療法の改良などを重点目標とした。
研究方法
・.平成13年度における研究の目標
本研究班は昭和47年に発足し、これまでに原発性免疫不全症候群の疫学調査、病因や病態の解明、診断や治療の進歩などに大きく貢献してきた。今年度は、従来からの調査研究を発展させながら、正確な疫学調査、責任遺伝子や発症機構・病態の解明、新しい診断法の開発と臨床応用、治療法の改良などを重点目標とした。
1. 疫学調査研究
いくつかの疾患では、遺伝子診断法が開発され正確な診断ができるようになった。しかしながら、その診断には専門的技術を要する。したがって、本研究班員が診断にも積極的に参画することによって、正確に診断し、それを疫学調査に活かしていくこととした。
2. 責任遺伝子、発症機構、病態の解明
原発性免疫不全症候群における責任遺伝子の解明は、それらの発症機構や病態の解明はもとより、診断や治療法の開発に大きく寄与することができる。ところで、原発性免疫不全症候群には30種類を超える疾患があり、責任遺伝子が解明されたのはその一部にすぎない。そこで、さらに多くの疾患についての責任遺伝子解明と、それをもとにした発症機構や病態の解明をめざした。
3. 新規遺伝子診断法の開発と臨床応用
責任遺伝子の臨床応用の一つとして、その遺伝子産物に対する抗体を用いた簡易診断法の開発を進めてきた。本年度においても簡易診断法の開発を継続するとともに、すでに開発した診断法の臨床的有用性を検討していくこととした。
4. 治療法改良と遺伝子治療の研究
多くの疾患は適切な治療なくしては致死的であり、一層の治療法改良が待たれている。すでに造血幹細胞移植の適応拡大と改良を図ってきたが、この治療研究を継続することとした。遺伝子治療の基礎的ならびに臨床的研究も目標とした。
疾患の種類が多くかつ臨床像が多彩であるため、正確な診断や適切な治療には専門的な知識と技術を要する。昨年度からインターネット上にホームページを開設し、患者や家族をはじめ医療関係者などの相談に対応してきた。この積極的活用によって、原発性免疫不全症候群の診療レベルを一段と高め、患者QOLの向上につなげたい。
結果と考察
結果と考案
1.疫学調査研究
全国的な調査によって、4例の新規登録が得られた。これまでの累積登録数は、1197名(男性863名、女性334名)となっている。
既登録症例について、ファイルメーカープロを用いて電子化を行った。約400名を入力したが、家族暦の記載が困難であることなど、電子化に向けての検討課題がいくつか見つかった。
厚生労働省特定疾患治療研究事業に係る臨床調査個人表の平成11年度分を参考に、それら症例の既登録、未登録の分別を開始した。現在、本調査を進めているところである。
2.責任遺伝子、発症機構および病態の解明
1)無γグロブリン血症
X連鎖無γグロブリン血症 (XLA)では、チロシンキナーゼであるBtkに変異があることはよく知られている。無γグロブリン血症とB細胞欠損がありBtkが正常の症例が存在し、この病型は常染色体劣性無γグロブリン血症とよばれる。この病型について責任遺伝子を解析した。その結果、責任遺伝子としてIgM重鎖、Igα、λ5、BLNK (B cell linker protein)を同定した。これら分子の異常によって、Pre-B細胞抗原受容体のシグナル伝達に欠陥が生じ、成熟B細胞が欠損することを示した。さらに、病態についても明らかにした。
XLAの責任遺伝子Btkは、B細胞抗原受容体のシグナル伝達に関与し、カルシウムのシグナルの主要経路に位置している。しかしながら、その経路で主要な機能を担うホスフォリパーゼCγ2(PLCγ2)がBtkによって活性化される機構は不明であった。本年度は、PLCγ2のチロシン酸化部位を決定し、PLCγ2の活性化機構を解明した。この研究結果から、さらにBtk-PLCγ2経路の重要性も確立できた。
2)IgG2欠乏症
膜型IgG2の変異によって正常な膜型IgG2が産生されず、IgG2欠損が生ずることをすでに報告した。IgG2、IgG4、IgA、IgE欠損~低値の家系において、免疫グロブリン重鎖遺伝子欠損を同定した。完全なIgGサブクラス欠損症では、その原因としてIgG定常部領域の変異または欠失の可能性があることを示した。
3)複合免疫不全症
X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)の責任遺伝子はγc鎖遺伝子である。γc鎖は、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15の受容体として共通に使用されている。X-SCID患者から単離した変異γc鎖を発現させた細胞において、IL-21シグナルを伝達できないことを証明した。この成績から、IL-21はγc鎖をその受容体複合体の一部として使用し、X-SCIDの病態形成に関与していることを示した。
CD8欠損症患者から単離した責任遺伝子産物、ZAP-70蛋白を解析した。すでに二つの温度感受性変異を報告してきたが、これら変異蛋白の分解は制限温度下における高次構造の変化によって生じることを示した。変異ZAP-70蛋白の分解は、各種プロテアーゼ阻害剤によって抑制されず、新規のプロテアーゼの関与が想定された。さらに、この変異蛋白に特異的に結合する因子の存在を明らかにした。
4)X連鎖リンパ増殖症候群 (XLP)
責任遺伝子産物はSAPであり、血球貪食症候群、悪性リンパ腫、免疫グロブリン異常などを発症する。
XLP患者においてNK細胞活性と細胞傷害活性の両者が低下していることを見いだし、その障害機構の
一端を解析した。
5)Ataxia-telangiectasia、Bloom症候群
Ataxia-telangiectasiaとBloom症候群は、高発癌、早老症、DNA不安定性など共通の病態を呈する。責任遺伝子はそれぞれATMとBLMであることは知られている。ATM蛋白とBLM蛋白の相互作用を解析する目的で、ATMとBLMのダブルノックアウト細胞の作成に成功した。今後、この細胞の性状を詳細に検索していく予定である。
6)慢性肉芽腫症(CGD)
本邦の204家系239名のCGD患者を調査し、病型分類を行うとともに、シトクロム構成因子欠損型について遺伝子解析を行った。解析できた158名中135名がシトクロム構成因子欠損型であった。遺伝子変異では、gp91-phoxおよびp22-phoxのいずれにおいても特定の変異はなく、また変異のホットスポットはなかった。
3.遺伝子診断法の開発と臨床応用
1)無または低γグロブリン血症
X連鎖無γグロブリン血症(XLA)の責任遺伝子産物を検出する簡易診断法を開発し、すでに臨床的有用性を実証してきた。
我が国の100家系以上の検索から、末梢血B細胞欠損のある無または低γグロブリン血症の男性例では、約90%がXLAであることを証明した。一方、B細胞が存在する場合には、高IgM症候群やXLPの可能性があることを示し、診断上貴重な情報を提供した。 
この診断法を用いて韓国、トルコ、ブラジルとの国際協力のもとに、22家系のXLAを診断した。その調査研究のなかで、non-XLAの常染色体劣性無γグロブリン血症に遭遇し、それが世界第2例目となるIgα欠損症であることを同定した。
2)Wiskott-Aldrich症候群
責任遺伝子WASP 産物をフローサイトメトリーで検出する簡易診断法をすでに開発し、臨床応用してきた。特異なWASP 発現パターンを示す症例を見いだし、それがmutation reversionによることを証明した。
4.治療的研究
1) 造血幹細胞移植の適応拡大
これまでにDiGeorge症候群、先天性好中球減少症、Chediak-Higashi症候群などにおいて造血幹細胞移植を行い、良好な成績を得てきた。本年度はさらに、無γグロブリン血症と肺蛋白症を呈した免疫不全症に臍帯血移植を施行し成功をおさめた。先天性肺蛋白症が造血幹細胞移植によって完治した世界で初めての治癒例を経験し、造血幹細胞移植が本疾患における治療選択肢の一つとなりうる可能性を示した。
2)遺伝子治療
X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID )における遺伝子治療の有効性が報告されている。本邦においても、本研究班員によってその準備が進んでいる。
3)ホームページの活用
患者およびその家族、医療関係者などからの相談が増えており、免疫不全症候群の診療や患者QOLの向上に役立って
結論
今年度も、疫学調査研究、責任遺伝子と病態の解明、遺伝子診断法の確立において充分な成果が得られた。

公開日・更新日

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