血液凝固異常症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100811A
報告書区分
総括
研究課題名
血液凝固異常症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中川 雅夫(京都府立医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 朝倉英策(金沢大学)
  • 池田康夫(慶應義塾大学)
  • 岡嶋研二(熊本大学)
  • 岡村 孝(久留米大学)
  • 垣下榮三(兵庫医科大学)
  • 川崎富夫(大阪大学)
  • 小嶋哲人(名古屋大学)
  • 坂田洋一(自治医科大学)
  • 辻 肇(京都府立医科大学)
  • 藤村欣吾(広島大学)
  • 藤村吉博(奈良県立医科大学)
  • 丸山征郎(鹿児島大学)
  • 宮田敏行(大阪循環器病センター)
  • 和田英夫(三重大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性血小板減少性紫斑病(ITP),血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)および特発性血栓症における病態解明,診断ならびに治療法の確立に寄与する基礎的ならびに臨床的研究を幅広く行うことを目的とする.
研究方法
結果と考察
結果・考察・1)ITP,TTP関連の研究;ITPの診断は,主に血小板減少をきたす他の疾患の除外により行われる. ITP患者に特異的な検査法として抗GPIIb-IIIa抗体産生B細胞頻度,血小板結合抗GPIIb-IIIa抗体,網状血小板,血漿TPOなどが報告されている.これら検査法のITP診断における有用性を調べるため,血小板減少症のために受診した43例を対象として初診時の各種検査結果と最終的な診断との関連を前向きに検討した.初診時における抗GPIIb-IIIa抗体産生B細胞頻度の増加,血漿TPO正常または軽度上昇(200 pg/ml),貧血なしの3項目はITPの診断と強く相関した.初診時に血小板関連抗GPIIb-IIIa抗体陽性,網状血小板の増加,血小板数 < 3万/μl,出血症状を有する症例はITPと診断される頻度が高い傾向があった.ITP群と非ITP群で差のあった臨床項目を用いたスコア制診断指針を作成し,今回の症例をあてはめると,ITPと非ITP患者の層別化が可能であった.したがって,これら検査項目を組み合わせたスコア制診断指針はITPの診断に有用と考えられた.また,ヘリコバクター感染(HP)ITP症例に対する除菌療法が血小板増加反応をもたらす報告が散見されている.完全寛解の得られていない症例に対し,ITPにおけるHP感染率,除菌療法の有効性,HP菌体成分に対する末梢血リンパ球の反応性を検討した.感染率は72%,そのうち治療抵抗性群における陽性率は69%で非ITP症例におけるHP菌陽性率と差は無かった.除菌療法の了解の得られた5例中1例は完全寛解に2例は部分寛解,2例は血小板数の増加が2万以下であった.HP菌体成分に対する反応性はHP陽性例が陰性例に比し高い傾向は得られていない. TTPの成因に関連し,von Willebrand因子(VWF)特異的プロテアーゼ(VWF-CPase)に関する検討を行った. VWF-CPaseを精製し,本酵素の諸性質の検討を行った.さらに,後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) 70症例の VWF-Cpase活性およびそのインヒビターを検索したところ,急性期の64症例では,5%未満37例(57.8%),5-25%18例(28.1%),26-50%8例(12.5%),50%以上1例(1.6%)であった.インヒビターは,急性期に血漿を用いて検索した64例中52例(81.3%)に認めた.血漿からProtein Gカラムを用いてIgGを 精製し,検索すると51例中48例(94.1%)にインヒビターを認めた.2)播種性血管内凝固(DIC)の病態と診断;国際血栓止血学会(ISTH)のovert-DIC診断基準と厚生労働省DIC診断基準の比較検討を,レトロスペクテイブに1184例のDIC疑い症例で行った.厚生労働省診断基準によるDICとISTH診断基準によるovert-DICの一致は,全例中の67.4%に認められ,非造血器腫瘍群(69.2%)の方が造血器腫瘍群(64.8%)に比べて,若干一致率が高った.一方,厚生労働省診断基準でNon-DICであり,ISTH診断基準でovert-DICでない症例は98.0%であった.両診断基準の一致率の高いものは敗血症や前骨髄球性白血病であり,低いものは膠原病,大動脈瘤,非ホジキン氏病性リンパ腫ならびに急性リンパ性白血病であった.DICならびにovert-DIC例における異常値の出現頻度は,fibrinogen値が極めて低く,血小板数ならびにFDP値が高値であった.逆に,厚生労働省基準によるNon-DICならびにIS
TH診断基準による非overt-DIC例における異常値の出現頻度は,fibrinogen値とPTが極めて低く,血小板数とFDP値が高値であった.一方,組織因子(TF)誘発DICモデルにおいて抗線溶薬であるトラネキサム酸(TA)の影響を検討すると、腎障害は高度となり腎糸球体フィブリン沈着も明らかになり,本モデルにおいて臓器症状がみられないのは,線溶活性化が主因であると考えられた.3)発性血栓症の病態と診断;日本人においてプロテインC(PC),アンチトロンビン(AT)およびプラスミノゲン(PLG)の各欠乏症が静脈血栓症発症にどの程度関与するかは不明である.深部静脈血栓症(DVT)患者108名におけるPC, AT, PLGの各欠乏症の頻度を求め,前回までの研究で得られた日本人一般住民4,505人を対象にした結果と比較し,各欠乏症とDVTとの関連を検討した.DVT患者における各欠乏症の頻度は6.48%, 5.56%, 2.78% であり,Odds比は34.6, 33.1および0.65となった.以上,日本人においてPCとATの両欠乏症はDVT発症の危険因子となることが結論された.しかし,PLG欠乏症のDVTへの関与は低かった.さらに日本人一般住民2,690人のプロテインS (PS) 活性を測定し,PS欠乏症の頻度を求めたところ,PS欠乏症はAT, PC欠乏症の2~3倍の頻度で存在する可能性が示唆された.DVTの早期診断と治療は,肺塞栓症予防による生命予後の改善のみでなく,医療経済上も合理的である.一般医療施設を対象とした,CTscanを使用した実践的なDVT迅速診断法を新しく考案した.下腿部中枢側のCT画像1枚において,患側と健側で筋束の断面積を比較してその違いを比較する方法である.筋束断面積比が1.1以上である場合に視覚にて認識可能となるが,この面積比をcut-offとすると,下腿部DVTの約90%をスクリーニング可能であり,リンパ浮腫などの非特異的な下肢腫脹を除外診断できることも明らかになった. ATの欠乏症は深部静脈血栓症の危険因子として知られているが,その完全欠損症例は胎児致死に至ると考えられている. AT欠損型マウスの作製,解析を行った結果,完全欠損型は14.5日目まではほぼ正常に成長したが,その後心筋,肝臓類洞に広範な血栓形成を起こし,消費性凝固障害ならびに肝障害に伴う広範な皮下出血や頭蓋内出血のため死亡することが示唆された.トロンボキサA2(TXA2)の血管内皮細胞における凝固・線溶調節因子の発現への影響を検討した.TXA2はTF, PAI-1 の発現を亢進させ,TF, PAI-1の発現亢進はthromboxane prostanoid (TP) receptor 拮抗薬であるBAY u3405で抑制された. TXA2はTP receptorを介して血管内皮細胞を血栓形成方向に誘導していると考えられた.一方,adenosine 5'-diphosphate(ADP)の血管内皮細胞の凝固線溶調節への影響を検討したところ, ADPはTPA の発現を亢進し,Ang llによるPAI-1発現亢進を抑制すると考えられた. 活性型プロテインCは血管内皮を活性化して,血管内皮の増殖や管腔形成,血管新生を惹起し,血栓症の治療薬剤あるいは血管修復にも有効な薬剤と考えられた.腎盂移行上皮癌細胞株SS-TCCを樹立し,止血栓形成抑制機構について解析したところ, SS-TCCはTFPI,u-PAR,MMP-2,MT1-MMPを発現し,SS-TCCは3次元コラーゲンゲル上で管腔様構造を形成した. 糖尿病における血栓性合併症の発症に関連し,メイラード反応後期生成物(AGE),血中セロトニン濃度,hepatocyto growth factor (HGF)について検討した.糖尿病症例において血中AGE濃度と血小板凝集の間に正相関関係が認められ,AGEは糖尿病症例における血栓形成傾向と関連することが示唆された.血中HGF濃度は高値を示し,年齢,頸動脈の内膜・中膜肥厚,プラークスコアと正相関し,頸動脈における血管内皮細胞障害に基づく変化であることが考えられた.一方HGFはHbA1cとは相関せず,AGEと相関が認められ,この変化は長期間の高血糖による血管内皮障害を背景としたものと考えられた.またHGFは血中PAI-1濃度と正相関を認め,血中HGF値は糖尿病症例において長期間の高血糖状態の結果生じた血栓形成傾向を基盤とした血管合併症のマーカーになりうると考えられた.血液凝固XIII因子欠損症は,常染色体劣性遺伝形式をとる非常に稀な疾患であり,生下時の臍帯出血や脳出血が多いのが特徴であ
る. 4家系のXIII因子欠損症の遺伝子解析を行い,新たな変異を同定した.
結論

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-